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俺と先生のフリースクール  作者: 影峰 柚李
先生と生徒編
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第二十九章「知らない事」

八月の中旬に入って暑さも増してきた。

その炎天下で、俺は立っている。

相手がインターホンに応えてからすぐのはずだったのに

それはとても長い時間に感じられた。

相手が扉を開けるとともに、エアコンの冷気がほんの少し漏れてくる。

「やぁ、いらっしゃい」

そう言って谷口さんは俺を中へと招き入れた。

部屋の中はほどよい涼しさとなっている。

別に涼みに来た訳ではない。

谷口さんに話を聞こうと俺が押しかけたのだ。

「今日は萌梨は出掛けてるよ」

「いえ、谷口さんに用があったので」

「僕に?あぁ、座ってよ。お茶もってくるね」

俺は軽く礼をして腰掛ける。

なんとなく机の上に置いてあった写真を見た。

谷口と両親が笑顔で写っている 母親にあった事はないが、

多分写っている女性がそうだろう。

俺も家族を持っていた時はある。

あまり顔を覚えてはいないが、優しい人だったと思う。

俺が感傷に浸っていると谷口さんが

氷とお茶の入ったコップを持って部屋に入ってきた。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

「それで、僕に何の用かな」

谷口さんは俺の正面に腰をかけた。

谷口と似ていて、頼りなさそうな顔をしている。

実際頼りない性格をしているが谷口のことになると人が変わるあたり

やっぱりお父さんなのだなと思う。

「先生について、色々お聞きしたくて」

「ヒロトの事?僕もよくは分からないけどなぁ」

それでも俺よりは知っているはずだ。

先ずは小さい事から聞いていく。

「先生の名前ってなんて言うんですか?」

「名前ね、実は僕も本当の名前は知らないんだ」

「え?」

思わず声が出る。

「ヒロトっていうのはあの猫の名前でしょ?

だからヒロトっていうのはあだ名で、本当の名前は知らない。

というか教えてくれないんだ」

ヒロトという名のつく猫を飼っていたから

ヒロトというあだ名がついた?

いまいち理解できない。

「そう、なんですか」

「ヒロトは昔から何を考えているのか分からなくて

いつも一人で戦ってた。一人で抱え込んで、いつの間にか

僕の前から消えてたんだ」

「消えてた?」

谷口さんは苦笑いをして話を続けた。

「そう、消えた。いなくなっちゃったんだ。

見つけた時はもう血だらけで流石に焦ったよ。

確かその時は薬を盗まれてなんとかって言ってたっけな」

薬。先日先生が言っていた。

なんの病気なのかは結局聞きそびれてしまったが。

「どんな病気なんですか?」

「病名は分からないけど、胸を痛そうにしてたなぁ。

薬を飲んだ日は決まってダルそうにしてたし、大変な病気じゃないかな」

毎週月曜日、先生がだるそうにしていたのを思い出す。

あれは薬の副作用だったのか。

「あの、一緒に研究をしてたって聞いたんですけど」

「影についての研究の事かな。僕と会う前からやってたみたいで

あの頃勉強についていけてなかった僕をヒロトが誘ってくれたんだ。

昔話に出てくる影について調べてただけなんだけど、その後それに似た

化け物が現れて本当に驚いたよ」

P2の事か。確か失敗作とか言ってたな。

影を復活させようとしてる奴らがいると。

「特殊部隊と何があったんですか」

その言葉に谷口さんは渋い顔をした。

「昔、ヒロトは特殊部隊にいたんだ」

俺も真剣な顔つきになる。

「そこで影についての研究を続けていたらしいんだけど

上と揉めたらしくて、血塗れで僕の家に来たんだ。

本当によく血を流す人だよね」

笑えない冗談だ。

いや、実話なんだろうけど。

「僕は特殊部隊に入れなかったから詳しくは知らないけど

その後ヒロトは喫茶店を開くから手伝ってくれなんて言ってね

それで今に至るようなものかな」

なんで喫茶店を開こうなんて思ったのだろう。

多分それは谷口さんにもわからない。

「いつから先生なんて事を?」

「それは最近だよ。罪滅ぼしにって言ってたけど

詳しい事は全然教えてくれないんだ」

やっぱり何か隠しているんだな。

谷口さんにも言えない事。

あの人は何を隠しているのだろう。

俺には知る由もない。

「昔はよく喧嘩売ってたりしてたけど、最近は病気が悪化したらしくて

大人しくしてたんだよ。でも君と会ってから随分はしゃいでるみたい」

「はあ、そうなんですか」

あれではしゃいでいるんだな。

「ヒロトは謎で不思議な人だけど、友達思いの良い人だ。

僕は彼と会えて良かったと思っている」

谷口さんはニコリと笑って「君もそう思うでしょ」と言った。

俺ははい、と小さく答えた。


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