第二十六章「快晴」
雨も降らない猛暑日が続く。
今年の夏は特に暑い。
買ったアイスが半分も食べないうちに溶け始めた。
下を向けなければ手についてしまう。
かといって素早く食べてしまおうとも思わない。
溶ける姿を眺めながら時々食べる。
そんな事をしていたせいか、途中で下に落ちてしまった。
「もったいないなぁ、折角奢ってあげたのに」
隣で既に食べ終わったアイスの棒を咥えながら遠藤が言った。
買い出しに出た時、たまたま会ってしまったのだ。
「悪い、暑くてぼうっとしてた」
「ホント暑いよね。最高気温三十八度だって」
「数字にするな、余計暑く感じる」
それにしても暑い。
買い出しをしに来たのに帰ることが面倒だ。
動きたくない。
「時雨君戻らなくていいの?」
「あぁ?面倒くさい」
「うわぁ、サボりー」
もはや言葉を返すのも面倒くさい。
かといってこのままここにいるわけにもいかない。
「遠藤、アイスありがとな」
「いえいえー」
「さてと、行くか」
袋を持って立ち上がる。
日差しが肌に突き刺さり、身を焦がすようだ。
まだ八月に入ったばかりだというのにこの先が思いやられる。
せめて海の近くであったらもう少し涼しかっただろうに。
暑いと言うと余計に暑く感じる。
それでも暑いものは暑いのだ。
「くっそ、蝉うるせぇな」
何がそんなに楽しいのかと聞きたくなる。
夏なんていい事全然ないな。
横を楽しそうに走り抜ける子供を見て疑問を浮かべる。
暑いのに更に己を窮地に追い込む真似をするとは
若いって凄いな。
「暑いなぁ・・・」
雲一つない快晴。
何もいい事ではない。
天気が良いからといって俺にはなんの関係もない事だ。
暑さに抗おうとせず、ダルダルと歩いていると携帯が鳴った。
「もしもし」
「時雨君!何してるの、遅いよ!
何かあったのかい?」
先生からの怒りの電話だ。
「いや、暑くて」
「そっか、暑いならしょうが・・・なくない!
あまり寄り道しないで早く帰ってきてよ」
「あー、了解」
俺は携帯を耳から離し通話を切った。
忙しいわけではないはずなのだが。
まぁいい、お店はエアコンも付いてるし、早く帰ろう。
暑いところから急に涼しいところへ入ると寒くさえ感じる。
汗が一気に冷えて暑さは消えた。
「時雨君遅いよ、何してたの」
「アイス食べてた」
「少しは仕事中っていう自覚持ってよ」
そういえば仕事中だった気もする。
「それにしても、暑いな」
「今年は特に暑いらしいね」
「雨ぐらい降ってほしいけどな」
「雨、ね」
少し、嫌そうな顔をしたのは気のせいだろうか。
雨が嫌いなのかもしれない。
「それより時雨君、最近変わった事はあったかい」
「いや、特にないけど」
「身体とか、変化ない?」
「ない。どうかしたのか?」
「いや、ないならいいんだ」
暑いと体調崩しやすいからねと言って先生は笑った。
何か隠しているような態度はあった時から変わらない。
たまに不安になる。
この人が信頼に値する人なのか。
もう少し、付き合っていく必要がありそうだ。




