第十七章「早朝」
暑さで目が覚めた。
外はまだ暗い。
時計を見ると、まだ朝の四時半だった。
先生は喫茶店の二階に住んでいて、今は俺もそこにお邪魔している。
先生は俺より後に寝て俺より先に起きるので
寝ているところを見たことはない。
そっと部屋から出て、先生の部屋を覗いてみる。
扉を開けるとヒロトがこちらへと寄ってきた。
先生はまだ寝ているらしい。
きちんと睡眠はとっているんだな。
俺は先生を起こさないように下の階へと降りる。
喫茶店は薄暗く、なんだか新鮮だった。
先生がいないだけで随分と印象が変わるものだ。
カウンターに座り、頬杖をつく。
ヒロトもカウンターへと登り、丸くなった。
折角なので今までの事を振り返ってみる。
先生に出会ってからまだそんなに経っていないはずなのに
いろいろな事があった気がする。
初めは谷口のお父さん探しから始まって、その次は谷口の護衛。
体術と銃の使い方を学んで、少しはP2に対抗できるようになった。
先生が最初に言った「僕の生徒にならない?」は印象的だ。
初めて会った人にいきなりそんな事を言われたら誰だって戸惑う。
俺もよくついて行ったなと自分でも思う。
化け物が見える人に初めて会ったからだろう。
先生に会うまで、逃げるような生活を送っていた。
初めは両親が死んだショックで
変なものが見えるようになってしまったと思っていが、
祖母に話した時、理解しなくてもいい、ただ見つかるなとだけ言われて
自分は普通じゃないんだと思った。
自然と人目を避けるようになって、友達もいなくなった。
別にそれで困った事はない。
普通に生活して、高校に入って、一人暮らしを始めて。
そして先生に会った。
これだけで一冊の本が書けそうな人生だ。
不意に、ヒロトが立ち上がった。
先生が起きたのだろうか。
階段の方を見ていると、フラフラとした足取りで先生が降りてきた。
「おはようございます」
「ん・・・?あれ、時雨君、早いね」
先生は眠そうに目を擦った。
よく見ると、腕に火傷痕がある。
いつも長袖を着ているため気がつかなかった。
「ちょっと待ってね、着替えてくるから」
そう言って先生はまた二階へと行ってしまった。
俺がいると思わなかったんだろうな。
暫くして、いつもの姿をして戻ってきた。
「お待たせ。今日はどうかしたの?」
「いや、目が覚めただけだ」
「そう、夢見でも悪かったのかと思ったよ」
言いながら、紅茶を出してくれた。
「昨日のP2が言ってた事、あれはどういう意味なんだ?」
いらない子。だからもう影じゃない。
俺には全く理解できなかった。
「さぁ、どういう意味だろうね」
「分かってなかったのか」
「彼らは影となる存在だから、灯りを扱うのは珍しいと思ったけど
あいつの言っていた事は全然分からないね」
随分と必死に訴えていたのに、伝わっていないとは。
悲しい奴だな。




