第十五章「夏休み」
暑く辛い集会を乗り越えて、やっとのこと夏休みが始まった。
今日はその夏休みの初日な訳だが、俺の気は重い。
それが暑さのせいだけではない事は確かだ。
「いらっしゃいませ!」
そう、明るく言うのは勿論谷口だ。
本当にバイトをしに来たらしい。
毎週水曜日だけという条件付きだが。
「元気があるって良いねぇ」
「ついていけねぇわ」
「時雨君はじめじめだからねぇ」
否定はしないが、イラっとした。
この人の言動はいちいち気に触る。
だから喧嘩なんてするんだよ。
「時雨君サボらないでよ!」
谷口がむくれた顔で言ってきた。
別にサボっているわけではなくする事がないだけなのだが。
「悪い」
「しっかりしてよ、もう」
谷口は随分と張り切っているようだ。
客は相変わらず少ないのに。
「この店って存在感無いよな」
「そうかな?私は前からある事は知ってたけど」
「こんな店、俺の視界には入らなかったな」
ちょっと皮肉っぽく言ってみたが、先生からは意外な応えが返ってきた。
「まぁ、間違ってはいないと思うよ。
このお店は能力者には認識されずらくしてるから」
「そうなのか」
「場所を知られると認識できるようになるけど
普段前を通るくらいじゃ存在を確認できないんだ」
谷口には見えて、俺には見えていなかったということか。
というかそんなことまで出来るのか。
特殊部隊に見つからないよう必死なんだな・・・。
「なんだか難しくてついていけないなぁ」
谷口はムッとした顔で言った。
「きっと時雨君も理解してないから大丈夫だよ。ね?」
「あ、あぁ」
「そうなんだ!私だけ置いて行かれてるのかと思った」
谷口は単純すぎると思う。
6時を回り、店を閉める時間になった。
特に問題が起きることはなく、無事に終わらせることができた。
「お疲れ様。良い働きだったよ」
「私も楽しかったです!」
「楽しんで仕事が出来るなんて、いいことじゃないか」
本来ならあり得ないと思うのだが。
将来、ちゃんと働くようになったら大変だろうな。
「時雨君、色々とありがとう」
「俺は何もしてない」
「ううん、一番最初に話を聞いてくれた事から全部を含めて言ってるの」
「気まぐれだ。それに、解決出来たのも先生のお陰だしな」
俺は結局何もしていない気がする。
話だって、はじめは断ろうとしてたしな。
「謙虚だねぇ。時雨君は」
「ほんとですよ。クラスの人気者なのに」
ん?今なんて言った?
「俺が?」
「そうだよ、時雨君無口でかっこいいから女の子に人気なんだよ。
でも時雨君って意外と喋るんだね。驚いちゃった」
成る程、この前驚いていたのはそのせいか。
いやいや、そんな話聞いた事ないぞ。
周りからは避けられていたはずだ。
「まぁ、皆怖くて話しかけられないんだけどね」
「成る程」
「時雨君モテモテなんだねぇ」
「気のせいだろ」
P2から逃げるように生活していたから
周りから好機な目を向けられていたんだろうな。
これからは気をつけよう。




