16.不明
どこまでも、真っ白な世界だった。
上は突き抜けて白く天井があるのかどうかわからない。
下も延々と白く、果たして地面の上なのかわからない。
ただ、上から下に赤い雪が降り続ける。
そういう場所で。
中学三年生の格好のままで、琴神冬子がそこにいた。
「琴神さん。どうしても言いたいことがあって、追いかけてきてしまいました」
あれから三年。高校三年生になった清水友礼は、ずっとずっと暖めてきた言葉を、やっと、口にした。
「僕はあなたのことを憎く思う時がありましたよ。どうして寂しいときに寂しいと言ってくれないのか。どうして怖い時に僕に助けを求めてくれないのか。どうしてやればできるのに勉強を頑張ろうとしてくれないのか」
冬子が、きょとんとした。
「人間相手に、全部好きだの全部嫌いだので構成されるわけないでしょう。僕は、あなたのいい所も悪いところも含めて、ずっと一緒にいたんです。一方的に迷惑かけてたなんて思われたら、僕が迷惑です。いいですか。僕は、僕はあなたに不幸にされた覚えは一つもない!」
大きく息を吐きながら、友礼は続けた。
「……いや、そんな回りくどいことを言いに来たわけでもないんですけれども……」
何なのだろう。
もっと、簡単でわかりやすいことを言いたかったはずなのに。
その為に、ここまで来たのに。
うまく言葉にならない。
どうにも不安になって、そこで初めて冬子の眼を見た。
実に久しぶりの顔は、少しも邪まじゃなくて。
「なんだよ、そんな顔できるんじゃねーか。ずっと、ずっと、そんな顔にしたかったのに。勝手に、笑顔になりやがって」
ちょっと、自分勝手かな、と友礼は思った。
この世ではないどこかで、赤い雪が降っていた。
(了)




