10.不明 坂口祥瑞の視点
真っ白い、世界だった。
上も下もなくなって、距離感もなくなった。
足元も真っ白で自分が地面の上にいるのか、いや、それよりも立っているのかどうかさえわからなくなってしまった。
ただ、上から下に落ちてくるものがある。
雨のように。雪のように。
赤くて、小さいものが、ふわふわと落ちてくる。
なんなのだろう。
この世界は。
そういえば、さっきまで俺は友礼と一緒にいたはずだ。
俺の横で、俺に昔の話をしてくれていた。
俺と同じ、この世でないものを見つめる眼を持った女の子の話。
俺のように、人を間違った方向に進ませようとする魔物に立ち向かっていたのだと言う。
俺のように、世の中の何もかもを妬み、恨んでいるかのような眼をしていた。
だから、友礼は、その子を笑わせたくて、友達になった。
けれど、心の闇と向かい合い続ける彼女は、やりすぎて、俺のように隠すということをしなかったせいで、気味悪がるられた
学校に行くのが怖くなって……。
あの子は、どうなったのだろう。
何故、友礼はその子のことを話さなかったのだろう。
その子は、幸せじゃなかったのだろうか。
それにしても、ここはどこなのだろう。
なんで俺はこんなに怖いのだろう。
慣れているじゃないか。
この世でない色に染まった、この世でないもの。
そんなものはいくらでも見てきた。
けれど、これは何だ?
この真っ白な空間は。
俺は今、どこにいる?
そして、さっきから俺の後ろにいるのは、一体誰だ。
俺は、振り向いた。
「祥瑞さん!」
そこは、元いた通学路。
息を切らせて、友礼は俺の両肩を掴んでいた。
「祥瑞さん! しっかりしてください」
俺はそんなに心配させるような顔をしていたのだろうか。
「なあ、友礼。俺はどれくらいいなくなっていた」
「……十分くらい」
そうか。
「なあ、友礼。もしかして、お前の友達ってのは、もうこの世にはいないのか?」
友礼は、固まり、そして答えを言えなかった。




