聖女
遅くなって本当にすいません。
「少しやりすぎたかな……」
クラウスは王様と去っていくスフィアを見てボソッとつぶやいた。
「何か言ったかクラウス?」
「いえ、なんでもありません父様」
「そうか、王女様に粗相はなかっただろうな?」
「はい、恐れ多くも友達になることができました」
「はっはっは、友達ねえ……あの王女様に手を出すとはクラウス、お前もなかなかやるな!」
「いや、そういうわけでは……」
よくわからないことを言ってるヨハンを無視してクラウスはさっきのことを思い出していた。
(さすがにあの場面であのセリフはくさすぎたかな……それにしてもあんなセリフを堂々と素面で言える主人公って実際すごいよな)
クラウスは前世で読んでいたラノベやアニメを思い出して感心していた。
歯の浮くようなくさいセリフを素面で言える主人公に尊敬の念を抱いていた。
クラウスも通常ならこんなセリフを堂々と言うことはできないだろう、ましてや素面の状態ならなおさらである。
(それに、前世でも友達がほとんどいなかった俺がまさか王女様であるスフィアに友達が何であるか問う日が来るなんて……本当に人生何が起こるかわからないな)
「クラウス、あの王女様が終わったら次はお前の番だ。今のうちに心の準備をしておけよ」
「わかりました父様」
そう言ってヨハンは人が集まっている広間に戻っていった。
ハインツは王様がいなくなった時もうここには用はないといつのまにかどこかに行ってしまっていたので、その場にはクラウスだけが残った。
(心の準備ねえ~このステータスがばれるのも時間の問題だな……一応布石みたいなのを打っておいたけど正直意味あるかわからないしなぁ~)
クラウスの言う布石とはスフィアのことだ。
このままステータスを確認されたらハインツに何かされるのは確実だったためクラウスは王女であるスフィアと友達になることでどうにかしようとしたのだ。
スフィアの友達、しかもスフィアにとっては初めて自分のことを外見だけではなくスフィア自身を見てくれた相手だ。
そんなクラウスにハインツも簡単には手を出すことができないだろう。
だがそれが所詮時間稼ぎ程度にしかならないことくらいクラウスには分かっていた。
この作戦自体スフィアの友達になってください、というお願いの返事を考えているときにふと思いついたものなので元々期待はしていない。
(それにまさかあんな言葉一つで惚れられるとは思わないよな……)
クラウスは【仮面】によって感情がどういうものかということに関してだけは誰よりも熟知しているといってもいいだろう。
クラウスが【仮面】ついてわかってることは、今のところ自分のマイナスな感情や突発的な感情を無意識下で制御してそれをその感情自体を消去するまたは弱めるということと、自分の意思で自由自在に感情を表現することができるということの二つである。
今回重要になってくるのは後者のほうだ。
自由自在に感情を表現できるということはどの感情がどういうものか完璧に理解できるということだ。
例えば、クラウスが[うれしい]という感情を表現するとする。
その時クラウスは[うれしい]という感情を意識しながらスキルを発動させる、そしてスキル発動後自分の感じる感情が[うれしい]だということを理解することができる。
ゆえにクラウスには理解できない感情というものが存在しない、感情の理由がわからないことはあるがそれがどういう感情なのかわからないということはほとんど皆無である。
つぎに【観察】である。
このスキルは些細な変化にも気づくことが出来るようになるというものだ。
つまり【仮面】と【観察】を合わせることでどんな相手の感情でも見抜けるというわけだ。
読心とまではいかないがこの組み合わせによってちょっとした動作や表情の変化などから感情を読み取ることができるようになるということだ。
ゆえにクラウスはスフィアは確実に自分に惚れていると気づくことができた。
それもクラウスがあの恥ずかしいセリフををスフィアに言ってからだ。
あの後からクラウスにしかわからない程度の変化だがスフィアのクラウスに対する感情が変わっていた。
それこそクラウスと話している間、何度も頬が赤くなるのをごまかしているような動作をしているほどだ。
誤解しないでほしいがスフィアは王族として小さなころから大勢の人の前に立っていたため、誰かに悟られぬように感情を隠すことなど朝飯前レベルだ。
だが今回ばかりは相手が悪かったといえるだろう、クラウスのもつ【仮面】と【観察】の前ではスフィアの努力も役に立たなかったのである。
(普通なら自意識過剰だと思うところなんだけどな……どうやら俺は鈍感系にはなれないようだ)
そんなことを考えているとクラウスは前世でのことを思い出した。
(そういえば無自覚に歯の浮くような甘い言葉を異性にかけては惚れさせていた奴がいたな……ああいうのを鈍感系主人公って言うんだろうな~)
クラウスは正義君のことを思い出していた。
彼はことあるごとに女性に甘い言葉を投げかけては惚れさせていた、それも無自覚にだ。
打算や下心など感情は全くなく相手が自分に惚れたことにすら気づかない。
一体いままで何人の女性が彼に落ちたのだろうか、そしてこれから何人の女性が彼に落ちていくのか……
鈍感系主人公の典型的なタイプだろう。
(正義君ていつも騒ぎの中心にいたよな~完全に主人公ってかんじだよな……)
そんな感じで物思いにふけっていると広間のほうが騒がしくなってきた。
なにかあったのかとクラウスも広間に向かうことにした。
クラウスが広間につくとなにやらアモリア王とスフィアから発表があるらしく集まっていた人々は今か今かとそわそわしていた。
「全員静かにしろ!アモリア王の御前であるぞ!」
アモリア王の付き人らしき人騎士が大声で言うと途端に辺りが静かになった。
静かになったのを確認するとアモリア王が話し始めた。
「私から諸君に話すことがある。すぐに国民全体に発表することだが今ここにいる者たちには先に話しておこう。今年は私の娘、アモリア王国第二王女であるスフィア=アモリアが十歳になるということで、今しがたステータスの確認をしてきた」
辺りに緊張が走った。
この時点で王女のステータスについての発表がされることは明白である。
ゆえに全員がアモリア王のことを固唾を飲んで見守っていた。
「スフィア、お前から皆に発表しなさい」
「わかりましたわお父様」
そう言ってスフィアが前に出てきた。
スフィアの神々しいまでの美しさと相まってより一層緊張が強まった。
「皆さん聞いてください。先ほどステータスを確認してきたところ私の職業は固有職業である【聖女】でした」
その瞬間あたりが一気にざわめいた。
固有職業持ちが珍しいのもあるが数ある判明している固有職業の中でも【聖女】は特別な意味を持つ。
英雄譚として語り継がれているとある勇者の物語、それこそこの世界で知らないものがいないほど有名な物語がある。
その物語に出てくる勇者パーティーは五人、それぞれ【拳聖】【剣聖】【賢者】【勇者】そしてスフィアと同じ【聖女】である。
この五つの職業は他の固有職業の中でも特別神聖視され、約100年周期とあらわれる魔王に対抗する勇者パーティーに入らなければならないという決まりがある。
そして、魔王の誕生と同時期に【勇者】を除く四つの職業を持つものがほぼ確実に現れるらしい。
リインの話にもあったが極稀に【勇者】が現れないことがある、その時は【神託】のスキルを持つものに神から神託が降りるらしい。
そして、神託を確認すると【巫女】の固有職業を持つ者、今代だとウランニウス教国の第二王女が異世界から【勇者】の器を持つ者を呼び出すことになっている。
(【聖女】ねえ~まあ確実に普通のステータスではないとは思ってたけどここまでとは思わなかったな)
教会に集まっていた貴族たちは皆歓喜に打ち震えていた。
なんせ、この国から【聖女】持ちが現れたのだ、それも王族から。
当然神聖視される【聖女】がいるということだけで他国への大きなアドバンテージにもなる、さらにそれが王族ともなればなおさらだろう。
(さてと、さすがに何人かはアモリア王の意図に気付けているみたいだな……)
【聖女】の誕生に皆が歓喜に打ち震え、お祭り状態になっている中、一部の貴族は従者、護衛を呼び出し何やら伝えている。
その一部の中にはハインツも含まれていた。
(ただのハゲ狸だと思ってたけど公爵の名を伊達じゃないということか)
アモリア王がこの場でスフィアの職業を発表したことには意味がある。
本来なら国民全体の前で発表し、盛大な祝いを行うようなレベルの内容だがそれを行ってしまうと国民全体が今この場にいる貴族のように歓喜に打ち震えてしまい一時的に国として機能しなくなると考えたからだ。
本来なら王の側近や大臣など王宮関係者に手を回してもらうのだが、今回はことが事のため、念には念をとこの場にいる貴族にのみ先に話しておき、裏で手を回してもらおうと考えたのだ。
貴族にとっても王に恩を売れる機会なので、意図に気づいた者はすぐに自らの従者、護衛に指示を出し、事にあたらせたのだ。
「クラウス。あの王女様【聖女】だってな!これでしばらくはこの国も安泰だな」
いつの間にか近くまで来ていたヨハンが話しかけてきた。
「そうですね。僕も先ほどまで話していた相手が【聖女】だなんて思いもよりませんでしたよ」
「はっはっは、それもそうだな。それにこの調子じゃあたぶん近いうちに国民全体に王女様のお披露目が行われるだろうな。クラウス、祭りだぞ祭り。こういうイベントの時は王都に今以上の数の出店が出されるからな。楽しみにしておけよ」
「今以上ですか……ここに来るまでに見ただけでも十分すごかったのにそれ以上なんて想像ができませんね」
「そうだろそうだろ」
そう言って興奮を隠しきれない様子で話すヨハン。
称号にある〖冷静沈着〗は一体どこに行ってしまったのだろうか、というほどの興奮具合である。
「そういえば父様はなにかやるべきことはないのですか?」
「ん?突然どうした。特に今やらなきゃいけないことはないぞ」
(もしかして父さん気づいてないのか!?ハゲ狸でさえ気づいてるんだぞ!)
「いえ、なんでもありません。忘れてください」
「そうか、それならいいが」
クラウスはヨハンに気付かれないようため息をつき、再びスフィアのほうを向く。
視線の先のスフィアはさっきクラウスと話していた時のように感情を表に出すことはなく、大勢の貴族の前で常に微笑を浮かべている。
(今ならステータス除いてもばれなさそうだな)
そう思いクラウスは【神眼】を使い黄金色に染まった眼でスフィアのステータスを覗いた。
名前 スフィア=アモリア
レベル 8
種族 人族
職業 【聖女】
魔力 23000
称号 〖王族〗〖アモリア王国第二王女〗〖聖女〗〖美少女〗〖猫かぶり〗
〖孤独〗
加護 愛の神 ラビスの祝福
固有スキル
【王の風格】
職業スキル
【神の息吹】
発展スキル
基本スキル
【光魔法】【水魔法】【ポーカーフェイス】【魅了】【魔力操作】
(これはすごいな、職業だけじゃなくスキルまで固有持ちか)
クラウスは驚きながらもスフィアのスキルや職業を調べようとすると、ふと視線の先のスフィアと目があってしまった。
スフィアは若干驚いたような表情でこちらを見ていた。
(やば!)
クラウスはすぐに【神眼】を解き、目をそらした。
(ばれたか?)
基本的に眼に関係するスキルは使用時に色が変わることが多い、さすがに【神眼】であることはばれていないだろうが、スフィアにクラウスが自分に何らかの能力を使ったことがばれたかもしれない。
少したってからクラウスは恐る恐るといった感じでスフィアのほうを見る。
すると、スフィアは何事もなかったかのように微笑を浮かべていた。
(ばれてないかな……とりあえずは大丈夫そうだな。ここで王女様に危害を加えようとしていたなんて思われたら大変だったな)
当然ながら眼に関するスキルの中には攻撃系の魔眼も存在する。
ゆえに誰かに眼の色が変わっていることに気づかれていたらいらぬ疑いをかけられていたかもしれない、ましてやスフィア本人に気付かれていたらさっき作った関係が台無しになってしまう。
(それにしても魔力量がやたらと多いかったな、魔法の神の加護なしでエルミナより高いとか規格外だな。【聖女】の恩恵なのかな?)
そんなことを考えている遠くからハインツが近づいてくるのが見えた。
「ヨハン、クラウス。そろそろ儀式の時間だ。ついて来い」
そう言ってハインツはズカズカと貴族が集まっているところを突っ切っていった。
二人もハインツが突っ切ったことによってできた道を通りハインツの後をついていくのだった。
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