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異世界で道化師は笑う  作者: √3
第一章 狂気
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友達

「そんな美しすぎる私の前に何の反応も示さないあなたが現れたのよ。つまりどういうことかわかる?」


 正確には反応していないというよりは反応自体がすぐにスキルによって制御されてしまっただけなのだがそんなことをスフィアは知るわけもなかった。


(このお姫様こんな性格だったのかよ……美しいってことはもうわかったから)


 スフィアは自分の美貌をことあるごとに強調してくる。

 たしかにその美貌はまだ10歳とは思えぬほどのものである、それに自分の容姿を自覚しないで周りに迷惑かけるようなやつよりは断然ましだろう。


(それにしても強調しすぎだろ……なんだかんだ言って自分の容姿に気に入ってるタイプだよな)


「えと……つまりどういうことですか?」


「なに質問を質問で返してるのよ、私が聞いてるのよ!……まあいいわ。私はあなたに希望の光を見たのよ、わたしのことを外見だけ見てくる奴とは違いスフィアという人間として見てくれるかもしれない両親以外で初めての人になってくれるかもしれないっていう希望の光をね」


「はあ、それで私は何をすればいいのでしょうか……」


 熱く語るスフィアに対してクラウスの心は冷め切っていた。

 いや、冷めているというよりはもともと興味がないという方が適切だろう、出会った時に感じた衝撃自体がすでにクラウスに中に欠片も残っていないのだから。

 それにさっきから話しているのはスフィアのみでクラウスは時々相槌を打っているだけである。

 会話として成り立っているとは思えない。


「ええとね……たしと……だちになって……さい」


「え?」


 さっきまでの高慢な態度とは打って変わって急にもじもじとし始めたスフィア。

 何か言っているのだろうが声が小さすぎて聞き取ることができない。


(急にどうしたんだこのお姫様は?)


「すいません、もう一度いってもらえませんか?」


「だから!わたしと友達に……」


 さっきより顔を赤くして言ってくるがやはり声が小さいため後半は全く聞こえなかったが友達という単語スフィアが何を言いたいか大体察することができた。


(あ~なるほどね、つまりこのお姫様はいままでまともに人としゃべることができなかったから友達がいないと。それで俺に友達になってほしいってことか。なるほどなるほど、何気にかわいいところあるじゃん)


 クラウスは心の中でニヤリと笑うと満面の笑顔でスフィアのほうを向いた。


「スフィア様聞き取れなかったのでもう一度お願いできますか?」


「なっ!?何度も言わせないでよ。だから私と友達に……さい」


 クラウスはリイン以来のからかい甲斐のある相手を見つけたことに上機嫌になっている。

 それこそあいてがこの国の王女だと忘れてしまうくらいに。

 だが特に問題はないだろうとクラウスは思っていた。

 これくらいのことではスフィアが怒ることはないと即座に見抜いていた、むしろ会話を楽しんでいるように見えていた。

 実際今のスフィアの表情はクラウスと会う前に浮かべていた聖女のような、まるで周りから求められているスフィアという人間を演じているようなものではなく、隠していた感情を表に出しているように見える。


「ソフィア様、そんなに小さな声では聞こえませんよ。王女たるものいつなんどきでもしっかりとしていなければだめですよ?」


 もじもじとするスフィアにさらに追い打ちをかける。


(いいねぇ、たかが友達になってくださいっていうくらいでどんだけ緊張してるんだよ……)


「だから私と友達になってくださいって言ってるでしょ!!!」


 ついにスフィアが我慢できなくなったのか大声で叫んだ。

 幸いなことに周りに誰もいないところで話していたので大騒ぎにはならなかった。


(もう言っちゃったか、もう少し楽しみたかったんだけどな……さてなんて返そうかな)


 無駄に【高速思考】を使いスフィアになんて返答するか考える。


「それは無理(・・)ですね」


「えっ?」


 クラウスの返答に泣きそうな顔でこちらを見る。

 それもそうだろう、スフィアにとってやっとのことで言うことのできたお願い、その美しさゆえに友達のいないスフィアのたった一つの願いがあっさりと拒絶されたのだから。


「どう゛じでよ……なんで……」


 もしこの場を誰かに見られたらクラウスは捕まってしまうだろう。

 なんせ目の前で王女が半泣きでクラウスのことをにらんでいるのだから。

 それに周りに誰もいないということは多少大胆なこともできる。


「友達っていうのはなるものじゃないんですよ」


「ならわだじはどう゛ずればいいのよ!!」


 スフィアは絶望した、このまま一生一人で生きていかなければならないのかと。

 大げさかと思うが10歳の少女にとってはそれほどまでに重要なことなのだ。


「ソフィア様、友達というものは一緒に話したり、遊んだりしていくうちに自然となっているものなんですよ」


 そう言ってクラウスはいつもエミリアにやっているようにソフィアの頭に手をのせ、髪が乱れない程度にゆっくりと撫でた。


「えっ?」


 キョトンとした顔でクラウスを見るソフィア。


「だからソフィア様のお願いはかなえることができません。だってソフィア様とはもう友達ですから。もう友達なのにもう一度なるなんて無理(・・)ですからね」


 クラウスはいまだにキョトンとした顔で見てくるソフィアの目をしっかりと見る。


「だから泣かないでください。きれいな顔が台無しですよ」


 そう言ってクラウスは満面の笑みで笑いかけた。

 さきほどのからかうような笑みではなく相手のことを思いやる気持ちが伝わってくる、そんな笑みだった。


 突然だがクラウスの両親はどちらとも美形だ。

 さすがにラビスの加護を持っている人に比べれば劣っているかもしれないが、それは完全に例外なので考えなくていいだろう。

 そんな二人から生まれたクラウスも当然美形に生まれてきている。

 透き通るような銀髪に、まるで海のような深い青を宿した眼、それ以外もかなりの高水準である。

 それにクラウスの10歳とは思えぬ凛々しい雰囲気がその容姿の良さをさらに引き立てている。


 いままで何かしらの打算を含んだ笑みしか向けられたことないソフィアにとってその笑顔はあまりにも眩しかった。

 ソフィアは顔を真っ赤に染めていまだに自分をなでているクラウスの手から脱出した。


「ななな、なにをいってるのよ!もう友達なら最初からそう言えばいいじゃないの!」


 そんなスフィアにクラウスはくすくすと笑う。


「すいません、もじもじとしているスフィア様があまりにもかわいかったのでちょっといたずらしたくなりました」


「か、かわいい!? い、いきなり何を言ってるのよ!わ、私を口説こうなんてそうはいかないんだから!」


「別に口説いてるわけじゃないですよ。ただ本当のことを言っただけですから」


「……かわいいなんて初めて言われた」


「何か言いましたか?」


 ばっちりと聞こえていたがあえて聞き返す。


「な、何も言ってないわ!そ、それより友達になったのだからお話をしましょう」


 露骨な話題転換だがあまりからかいすぎるのもなんだと思い素直にのってあげることにした。


「そうですね、それではなんの話をしましょうか」


 その後二人だけのときはクラウスはスフィアのことを呼び捨てで呼ぶことを約束させられた。

 ソフィアも自分の立場を理解しているため呼び捨てで呼ぶのは二人だけの時にしたのだ。

 そうしてしばらくクラウスとスフィアが話しているとアモリア王とハインツたちがこちらにやって来た。


「ソフィア、そろそろ準備をしなさい」


「わかりましたわお父様。またねクラウス」


「はい、さようならスフィア様」


 互いに別れを告げソフィアはアモリア王に連れられ儀式の準備を行う部屋に向かった。










「ずいぶんとご機嫌なようだなソフィアよ。何かいいことでもあったのか?」


 いつもの感情を殺しているような表情ではなく、とても機嫌のよさそう表情で歩いているソフィアを見てアモリア王は何かいいことがあったのだと見抜いた。


「お父様、聞いてください。私にも友達ができたんですよ!」


「なんと、ついにソフィアにも友達ができたのか。もしかしてさっきのクラウス君か?」


「はい、私のこと外見で判断しなかったんですよ。それに友達はなるもんじゃない、自然になってるものだ、って」


 よっぽどうれしかったのかソフィアはさっきあったことをすべてアモリア王に話した。

 ときおり顔を赤く染めて話すソフィア。


(あの餓鬼、誰もいないのをいいことに俺のソフィアにずいぶんと大胆なことをしてくれたみたいだな)


 普段表には出さないがアモリア王は重度の親バカである。

 家族だけの時はソフィアにうざがられるほど大好きオーラを出している猛者である。

 そんな愛すべきソフィアに悪い虫がついているかもしれないのだ、アモリア王にとっては一大事である。


(この俺がじきじきにソフィアにふさわしい男か確かめてくれるわ!!)


「それはよかったな。ソフィアはクラウス君のことをどう思っているんだ?」


「ク、クラウスはただの友達です。そ、それにまずはお友達からっていうじゃないですか!」


「そうかそうか、ならソフィアは友達の次には何になるつもりなんだ?」


「それは……はうっ」


 プシューと音を立てそうな勢いで顔を真っ赤に染めその場で立ち止まるスフィア。

 一体どんな想像をしたのだろうかと、アモリア王はこういうことに免疫がなさすぎるソフィアを見てため息をついた。











感想・評価等もらえるとうれしいです。

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