14 新参者
「僕に何か用?」
問われて翼はなぜこんな事になってしまったのだろうと思わずにはいられなかった。
話は今朝の登校時にさかのぼる。翼は夢の中での出来事を思い出していた。あの時に見た男の人が何か関わりがあるはずなのだ。ユイの話では、誰がその人であるかは見ればわかるだろうとの事だった。夢の世界でユイを香澄と同一人物だと見定められたように。
そんなにすぐに見つかるとは思っていなかったが、それでも登校中はできるだけたくさんの人を見ながら歩いた。校門をくぐり、児童玄関に入り、下駄箱で内履きに履き替えているときに、目の端を通り過ぎた男子がいた。
振り返った時に見えたのは後ろ姿だけ。だが翼は確信した。今のが、探していた人物だと。
慌てて後を追いかけたが、途中で諦めた。上級生の階に登っていったからだ。翼の学校は三年生と四年生が同じ二階に、五年と六年は三階に教室がある。低学年の生徒は滅多に三階へは上がらない。クラスの放送係になって、三階奥にある放送室に行くときくらいだ。登校して間もない時間に放送をかける必要はなく、そんなわずかな生徒すらいないことになる。そんな中に翼が飛び込んでいけば、注目を浴びること間違いない。さすがにそれは気が引けた。結局そのまま自分の教室へ入った。
授業中は全然集中できなかった。国語も算数も何も頭に入らない。四時間目の体育の時間など、ぼーっとしていて由佳に心配されたくらいだ。これではダメだと思い、昼休みに確かめることにしたのだ。
そして今。五年一組の教室で、その男子と対峙している。
もちろん現実世界での面識はないので、相手は不審な表情を浮かべている。翼は翼でここまで来たのはいいものの、どう話を切り出したらいいのかわからずにいた。
「あの……」
口ごもってしまい、その先が続かない。手のひらに冷や汗が浮かんでくる。
「おいユウキ、サッカー行くぞ」
廊下から声をかけられ、目の前の男子は翼をちらと伺い見たが、そのまま去ろうとする。
「あの!」
翼は思いきって呼び止めた。ユウキというらしいその男子は立ち止まって振り返る。
「あなたは神社の家の人ですか?」
意を決して、翼はそれだけ訊いた。それだけで心臓が大きく跳ねる。ユウキはふいに微笑んだ。
「放課後話そう。教室においで」
そう言い残して出ていってしまった。ざわつく教室に一人取り残された翼はしばらくその場を動けなかった。
「翼ちゃんどこ行ってたの?」
自分の教室に戻ると、由佳が駆け寄ってきた。
「いきなりいなくなるからビックリしたよ。トイレじゃなさそうだったし」
「ごめんごめん。別に大したことじゃないから」
あはは、と笑ってみせると、由佳は黙ってこちらをじーっと見つめてくる。
「私に何か隠してるでしょ」
ギクッと翼はのけぞる。由佳の目がジトッと覗く。
結局由佳にはまだ何も話していない翼だった。余計な心配をかけてはいけないと思っていたからなのだが、どうやらそれが間違いだったようである。
それから昼休みが終わるまでに、今までの事をざっくりと話した。
「それでか」
一通り話終えるまで黙って聞いていた由佳がため息混じりにつぶやいた。
「この頃ずっと様子がおかしかったし、どうしたんだろって思ってたけど。さすがに寝不足みたいなのはなくなったし、大丈夫なのかなって」
「心配かけてごめんね」
「翼ちゃんって一人で何とかしようとするところあるよね。言ってくれれば手伝えることもあるかもよ」
由佳の言うことはもっともだと思ったし、同時にありがたく思った。友達が味方でいてくれることがこんなにも心強いということは、こんなことでもなければ気が付かなかったかもしれない。
「とりあえずは今日の放課後だね。上級生の教室に行くなんて一人じゃ不安でしょ」
「ついて来てくれるの?」
翼が聞き返すと、由佳はにんまりと笑う。何だかとても頼もしい。確かに一人でまたあんな思いをしなければならないと思うと憂鬱だった。由佳に話して本当に良かった。
「すごい助かる。よろしくね」
二人で笑うと、昼休み終了の予鈴が鳴った。
そしてこの後、問題の放課後がやって来る。




