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12 頼まれごと

 翼と父はダイニングテーブルを挟んで向き合うように座る。緊張した空気が流れる。

「うちって昔、神社と関係ある家だったの?」

 翼が急にこんなことを言い出したのは、夢の中の世界でユイにーー香澄に言われた事による。

「シノちゃんには現実世界で、私たちの邪魔をしているものを探して欲しいの」

 夢の世界の香澄は、翼にそう頼んできた。なかなか難しそうなことだなと思った。神社の子である香澄と違い、翼は普通の小学生でしかない。香澄がしようとしている「過去の修復」についての話も初めて聞いたことだったし、それを邪魔することになんの意味があるのかもよくわからない。ただ、その糸口になるかもしれない事を香澄が口にしていた。

 それが、翼の家系に隠されているかもしれない神社とのつながりだった。

 父は翼を冷めた目で見ている。翼が父を苦手としている理由の一つがこの視線である。

「なぜそんなことを訊く」

 ぼそぼそとした低い声。その顔には何の表情も浮かんでいない。

「今調べてるの。学校の宿題で」

 それはずっと考えていた言い訳だった。夢の中の事をこと細かく説明する気は端から無い。宿題と言ってしまえば応えない訳にもいかないだろうという思惑もあった。父はなおも冷めた目で翼をじっと見ている。

「ずっと昔をたどれば宮司の家系に行き着くのは確かだ」

「それって、うちの近くの八幡神社?」

「違う。本家は昔、山向こうにあった」

 淡々と、父は事実だけを述べる。翼はそれを意外な気持ちで聞いていた。父とまともに会話をしたのなんて、いつぶりのことだろう。

 父の話によれば、翼の家は随分昔に本家から分かれたようだ。まだ戦前の頃ということで、翼には想像もつかない遠い昔だ。当時は分家も本家の近くにあったそうだが、戦争で焼けてしまい、今の住所に移ったということだった。本家も今では場所が変わっているようだ。

「じゃあ、その移った本家はどこにあるの?」

「それは教えられない」

「どうして?」

 それまで淡々と喋っていた父の口が急に重くなった。表情も固くなった気がする。まぁ、元が無表情なので、詰まるところそんなに変わらないのだが。わずかな沈黙の後、父は再び口を開いた。

「本家とは今絶縁状態にある」

「ゼツエン?」

「縁を切っているということだ」

「……どういうこと?」

 翼は顔をしかめた。父はその問いに直接は応えない。代わりに逆に翼に問う。

「お前は私の兄弟に会ったことはあるか」

「えっ、ううん」

 翼はその問いに驚いた。父方の親戚という人には、翼は会ったことがない。それは単純に父に兄弟がいないからだと思っていた。しかし今の父の発言はそうではないことを示している。

「それも本家とのつながりをできるだけ避けるためだ。本家そのもののことを教えるなど論外だ」

 声は平坦なのに、言葉はやたらに厳しく響いた。これ以上話を聞く余地は無いようだ。

 自分の部屋に引き上げ、ベッドに入ってからも、翼はすぐには眠らなかった。先程の話について考えていたのだ。

 父との話で、香澄が言ったように自分の出自に神社との関係が明らかになった。しかも随分いわくあり気だ。しかしこれではまだその事実が確認できたに過ぎない。ここから、香澄が言う邪魔をしている何かにたどり着かなければならない。

「あとは、自分で調べるしかないよね」

 ヒントが欲しいというのが本音だった。情報が少ない。せめて何を調べるべきなのか知ることができれば……。

 考えているうちに、翼はいつの間にか眠りに落ちていた。そして意識は再び夢の中へ沈んでいった。

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