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11 父

「先生、さようなら」

 最後の挨拶が終わって、放課後がやってきた。翼は教科書やノートをランドセルにさっさとしまい、帰り支度を整える。

「翼ちゃん一緒に帰ろ!」

 元気に声をかけてきたは小川 由佳だ。

「うん。帰ろ」

 応える翼に由佳はにたっとした笑顔を向ける。翼はそんな友達を不思議そうに見やる。だが次の言葉に納得する。

「よかった。翼ちゃん元気になったみたい」

 由佳はずっと心配していてくれたのだ。翼としては寝不足を感じていただけだったのだが、それ以上の事があるのではと気にかけてくれていた。

 翼にも不思議なことだが、今も同じ夢を見ていることに変わりはないのに、寝不足のような疲れはすっかり消えてしまった。前に香澄と再会したときに言われたことが本当だったということだが、なんだか拍子抜けする思いだ。とにかく、目の前の友が安心してくれたのが何よりだ。

「ただいま」

 家に帰ると、母が洗濯物を取り込んでいるところだった。

「お帰り。ちょうどよかった。これたたんでおいてくれる?今日買い物まだなのよ」

「えっまだ?」

「なんかバタバタしてたのよ。じゃお願いね」

 そう言って今取り込んだばかりの洗濯物をまだランドセルを背負ったままの娘に抱えさせると、パタパタと走っていった。相変わらずのマイペースである。

 その日の夜、お風呂も入ってしまった後、そんなマイペースな母に話しかけた。

「ねぇお母さん。聞きたいことがあるんだけど」

 テレビを見てくつろいでいた母は、振り返って翼に向き合う。

「なぁに?」

 母は少し驚いたような顔をした。思ったよりも真剣な翼の表情を見たからだ。翼はためらいがちに、しかしはっきりした口調で問う。

「うちって昔は神社と関係ある家だったの?」

 問われたことはさらに意外だったので、母は目を見張らせる。そしてそのままうーんと考え込んでしまった。弟はもう寝てしまったので、二人だけのリビングにはしばらくテレビの音だけが響くことになった。

「どうしても知りたい?」

 沈黙はその静かな一言で終わった。

「うん」

「そうよね。翼がこんな風に私に何かを聞くことなんて、そうそう無いものね」

 母は思案顔で長く静かに息を吐く。いつも気楽そうにしている母の、珍しい表情だった。

「でもお母さんはよく知らないの。詳しく聞きたいならお父さんに聞かないと」

「お父さん……」

 翼はリビングから、今は暗いダイニングの方を見た。ちょうど時計が9時を告げる。まだ帰らない父を残して。

 父の帰りが遅いのはいつものことだ。夕飯もお風呂も先に済ませてしまうのが常で、弟と翼は先に寝てしまうことも珍しくない。

 翼はこの父が少し苦手だ。無口なので休日もほとんど喋らない。それどころか普段の忙しさを埋め合わせるように寝ていることが多いので、こちらも話しかけるのを諦めてしまう。

「お母さんが聞いておいてあげようか」

「ううん。自分で聞く」

 翼は揺るぎない声で言う。母は少し不安そうに娘を見やる。

 その時、玄関のドアが開く音がした。廊下を静かに歩く足音。そしてリビングのドアが開いた。

「ただいま」

 低くボソッとした声が降ってくる。その顔を翼が見上げる。

「……なんだ。まだ起きていたのか」

「お父さん」

 翼は意を決したように口を開いた。喋るだけでも緊張が走るのを無理矢理押し込める。

「聞きたいことがあるの」

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