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友達になろう、君が消えてしまうまで。  作者: 巫 夏希
群青色の眼に広がる世界と、人間の生存していく上での期待度とその可能性について
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群青色の眼に広がる世界と、人間の生存していく上での期待度とその可能性について

 亜美は死んでしまった。

 あれほど自殺することは悪くない、なんて言ったから当然のことかもしれない。

 さて。

 今頃はその音を聞いて、人々が駆けつけているはずだ。もしかしたらそう遠くないうちにこの千羽鶴の存在も明かされることとなるだろう。

 私? 私はこのまま学校に居残るよ。

 だって、私は。



 ――死んでいるのだから。



 亜美の言った、一年前に自殺した生徒。

 それが私だった。

 私という存在だった。

 私という存在は、この学校の屋上から飛んで無くなってしまったはずだった。

 けれど、私は目を覚ませばここにいた。

 そしていつしか、私という存在はある人間にしか見えなくなってしまっていたのだ。



 私を最初に視認したのは、新任の教師だった。確かクラスのトラブルを対処しきれずに、そのストレス発散で屋上に登って――私に出会ったのだ。


「どうしたんだ、こんなところに登って」

「お互い様ですよね、先生」


 そのやり取りを、私は未だに覚えている。

 そのあと先生は何度も私に話しかけるために、屋上に向かった。


「またここに居たのか。お前は懲りないな」

「先生も、懲りないね」

「先生はお前を矯正させるという大事な役目があるからな! ハハハ」


 先生は笑っていた。いい笑顔だったのを覚えている。

 そしていつしか先生は屋上に訪れなくなった。おおかたクラスでのトラブルが解消され、クラスがうまくいったのだろう。なぜなら屋上からたまにその先生の笑顔が見えるからだ。それを見て私もあのクラスの一員になっているような錯覚を覚えた。全然違うのだけれど。



 二人目は女子生徒だった。ちょうど私と同じ学年だった。同じように自殺しようとして、私と出会った。


「あ、あの……何をして……いるの?」

「別に。ここが好きなだけよ」


 病弱そうな顔だった。おどおどしていた表情を、私は忘れないだろう。

 彼女はいじめられていた。『格好の餌食』だの『お前なんて生まれてくるんじゃねーよ』との暴言があったのはもちろん、給食のスープに虫が混入されていたり、○○菌だの言われたりしたという。


「私は……もうこんな生活には耐えられないの……!」


 彼女は頻りにそう言った。

 私もそう思う。

 私としても自殺をした身なので、あまり自殺を悪いことなどと思っていない。楽観的に思っていると言ったら間違いではないが、嘘をつくつもりもないので、それが正しいと思う。

 だが、彼女は見てすぐそれが分かる。



 ――彼女には自殺をする気配がない。自殺する意志がない、と言ったほうが正しいかな。ともかく度胸ってもんがなかった。



 だけれど、私はそれを問うこともせず、ただ彼女が屋上からミニチュア世界を眺めるのを、ただ見つめていた。

 あのあと、暫くして和解したらしい。なぜかといえば、屋上から彼女とともに歩くクラスメイトたちの姿が見えたからだ。彼女はその中心にいて、笑っていた。何があったのかは解らないが、自殺するのはあのまま留まったらしい。



 さて。

 亜美は彼らのあと、ちょうど三人目だった。

 彼女は一人目、二人目と一緒で死にたそうな顔をしていた。私は深く聞こうとはしなかった。いつものようにただ傍観者として振舞うつもりだった。

 そしたら案の定というか、なんというか、死にたくない雰囲気がまだ漂っていた。不安、それとも迷い? どっちとも取れなかったが、ともかくその思いが強かった。


「……あれれ。どうしてこんなところにいるんだろう?」


 また、いつものように私は彼女に接近を試みた。

 これが、あの出会いの真相であったりするのは――亜美は知らないだろう。



 亜美から話を聞いているうちに、彼女が迷っている原因が解った。

 一年前に自殺した生徒――私のことだ。

 私のことを「様々な噂がある」だとか言っているが、それは単なるデマであり、間違っている。彼女が私の存在をきちんと知っているのかどうかは不明だが、もし知っているならばそれから情報を得たのだろう。ああ、それとも私がぺらぺらと話をしたからかな? 噂に関してはそういう結論ということにして欲しい。

 軍隊アリよろしく群がってくるマスコミ。

 その対応に追われる先生と両親。

 だが、その選択肢が間違っていないという理由にはならない。未来が潰されるだのなんだの言っている評論家もいるが、結局は成功者の戯言に変わりはない。成功者が何を言っても所詮それはイミのないことであるのに、成功者は気付いているのかいないのか解らないが、それをカセットテープをリピート再生させるように言っているのだ。いつになればテープが引き伸ばされるのか。いつになったらテープの寿命が来るのかは正直なところ、誰にも解らない。

 ともかく、彼女に言った。


「――それじゃ、有意義な死を」


 それはどう転ぶか解らないが、私が彼女に言った最期の言葉となったのには変わりない。



 私は屋上で、今日も居る。

 理由は簡単。私は『ある条件を満たした』人間しか視認出来ない。そのためには屋上に居ることがベストなのだ。え、その条件とは、って? ……簡単だ。



 ――「自殺したい、と一瞬でも思ったか」ということだ。



 だから教室とかに居ちゃ困る。もし誰かがそういう思いを抱いていたら、授業中に私の姿が視認できてしまうのだから。

 だからあまり人のこない屋上に行くのだ。そして『そういう』人間をみつけて話しかける。暇つぶしに話をする。……さしずめ、最期のシアワセを噛み締めさせるために。

 もしかしたら、私がここに残っているのはそういう理由なのかもしれない。……適当だけれど。

 そう思い、

 ふと――見上げた空は、群青色だった。

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