表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

03.エンディング、またはハッピーエンド

「で、きたあ」


 二つ目の千羽鶴が完成したのは、それから三時間あまりたったときのことだった。

 ちなみに完成割合は、私が693羽、梓生は307羽だった。頑張れよ、もっととは思ったけれど、そこまでは言わなかった。


「……んで、どうする?」

「どうする、って?」

「死ぬ?」

「これまた直球な」

「死ぬの? 死んでも別に構わないよ。もう凡て終わったのだし」


 梓生ははっきりと物事を言いすぎである。

 だが、その通りだった。

 もともと、「手伝ってくれ」としか言われていない。そのあとに、助けてもらう権利など、なかった。


「そうだ。何でも一つ持って行きなよ。ここにあるのはハサミ、セロテープ、キットカット、『赤ずきん』の絵本、型紙が何十枚か余っているのくらいだけれど」

「キットカットと、赤ずきんの絵本をもらっていくよ」

「そうかい。それじゃ、有意義な死を」

「そうするよ」


 そう言って、梓生は敬礼した。

 なんだか、変なことだなあと失笑してしまいそうになったけれど、それをこらえて、私も敬礼を返した。




 久しぶりに立つ、屋上。

 感じる風は、いつもと同じはずなのに、いつもと違っていた。なんというか、よくわからないけれど、いつもと違っていると感じるのはどうしてだか、私には解らなかった。


「……赤ずきん、かあ」


 赤ずきんという絵本は、嫌いだった。

 けれど、なぜか持ってきてしまった。ちなみに嫌いだったのは、オオカミが赤ずきんを食べちゃうことだ。それを見て、以後トラウマとなってしまい、私はそれから先を読んでいない。

 つまり、私は『赤ずきん』という絵本の結末を知らなかった。

 ぺらり。私は赤ずきんの絵本を読んでみることにした。

 すらすらと読んでいった。意外とハッピーエンドだったことを知った。


「こんな話だったんだなあ……知らなかった」


 私はひとり呟くと、梓生からもらったキットカットの袋を開けた。直ぐにチョコのいい香りが広がった。

 澄んだ青空が広がっていた。私が死んでも、誰も気付かないだろう――なんて、ちっぽけなことを考えていた。

 誰かに気付いてもらいたくて自殺するんじゃない、誰にも気付かれずに自殺する。恐らくこの意味は、誰にも解らないと思う。私にだって、解らなかったのだから。

 生きる意味を理解出来ずに、死ぬ。

 それはひどく滑稽なことでもあるし、よくよく見ればそれは自嘲していることにほかならない。

 私だって、生きている理由が知りたかった。意味を知りたかった。

 けれど、誰も教えてくれなかった。訊いても、「それは自分が掴み取るものだ」としか言わなかった。だけど、せめて指標くらいは、目印くらいは欲しかった。見せてもらいたかった。

 生きる、とは何か。

 死ぬ、とは何か。

 人はなぜ生まれ、なぜ死ぬのか。

 朽ちていくなら、生きる意味はないのではないか。

 哲学じみたことを考える余裕も、なぜか今の私には不思議と出てきた。

 そして私は考える。

 さらに考える。

 考えて、考えて――。

 結局、訳がわからないから。



 ――ふと、私はなぜここに来たのかを考える。



 そして、思い出した。そうだった。これをするんだった。

 私はゆっくりと塀をよじ登る。

 登りきって、反対側へと立つ。

 一歩踏み出せば、そこは空中。

 ここは五階だ。落ちれば死ぬ。

 想像に難くないし、解ってる。

 眼下に広がるミニチュア世界。

 そこへ飛び込む私という身体。

 今感じている気持ちは、絶望。

 それとも、今から死ねる希望。

 そのどれかは私には解らない。

 生きていても、意味などない。

 ならば、飛び込んで、消える。

 私の存在など、みんな忘れる。

 私がいなくても、回っていく。

 世界は、それでも、回ってく。

 醜くも脆く、時には必要なく。

 だけれど、世界は回っている。

 私という存在を、必要とせず。

 今更後戻りをする必要はない。

 今すぐそのミニチュア世界へ。

 そして、私は一歩を踏み出し。




 トン、と――



 世界が暗転した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ