友人関係の罠
僕には幼馴染がいた。
彼はいわゆる「陰キャ」で、僕はよく彼に話題を振ったりして、他の友達と仲良くなれるようにしていた。
彼がクラスの中で孤立しないように――そう思って。
でも、僕は一番大事なことを考えていなかった。
本人がどう感じているか、ということを。
ある日、彼に言われた。
「僕のためにやってくれたのはいいけど、余計なお世話だよ。」
そう言い残して、彼は帰ってしまった。
その日から、何かが少しずつ壊れていった。
クラスの中で、彼は次第に孤立していった。
最初は小さな冗談のようなものだった。けれど、それは次第にエスカレートしていき、気づけば本人の目の前で悪口が飛び交うようになっていた。
それが、毎日続いた。
彼は何も言わなかった。ただ、少しずつ表情が消えていった。
僕は止めようとした。
でも、僕の言葉は軽く流されてしまった。
まるで、焼け石に水みたいに。
――そして、ある日。
彼は学校に来なかった。
嫌な予感がした。理由なんて説明できない。ただ、胸の奥がざわついて、落ち着かなかった。
気づいたときには、僕は彼の家の前に立っていた。
呼び鈴を押す手が、震える。
……何を言えばいいんだ。
謝る?
慰める?
それとも、何も言わないほうがいいのか。
答えなんて出ないまま、僕はボタンを押した。
しばらくして、扉がゆっくりと開いた。
そこにいたのは――彼だった。
顔色は悪くて、目の下にはくっきりとクマができている。
でも、生きている。
それだけで、胸が締めつけられた。
「……何しに来たの」
彼は、感情のない声で言った。
僕は、一瞬言葉を失った。
それでも、絞り出すように言う。
「話したくて来た」
沈黙が落ちる。
逃げたくなった。
でも、ここで逃げたら、きっともう取り返しがつかない。
「……俺さ」
自分でも驚くくらい、声が震えていた。
「全部、間違ってたと思う」
彼の視線が、わずかに動いた。
「お前のためだって思ってた。でも、それって結局、俺が勝手にやってただけで……お前の気持ち、全然考えてなかった」
言葉を続けるたびに、自分の浅さがはっきりしていく。
「ごめん」
短い一言だった。
でも、それしか言えなかった。
しばらく、沈黙が続いた。
風の音だけが、やけに大きく聞こえる。
やがて、彼がぽつりと呟いた。
「……今さらだよ」
その言葉は、思ったよりも静かだった。
怒りでも、泣き声でもない。
ただ、疲れ切った声だった。
「でもさ」
彼は少しだけ顔を上げた。
「来たのは、偉いと思うよ」
ほんの少しだけ、表情が揺れる。
それは笑顔にはほど遠いけど――
完全に閉じたものでもなかった。
「……中、入る?」
その一言で、胸の奥に少しだけ光が差した気がした。
僕は、小さくうなずいた。




