プロローグ
たとえば、こう思ってしまう時がある。
もし、自分は「誰かによって“作り変えられた”存在」だと、知られてしまったら。
自分は、「求めること」が許されなくなるんじゃないか、って。
もし、自分が“何か”を求めすぎて、誰かを傷つけてしまったら。
自分は、ずっと遠い距離に取り残されるんじゃないか、って。
もし、一番身近な人に、「すべて」を求めたくなった時。
自分が「本当の自分」になったら。
自分の「思考」は──、どこに行ってしまうんだろう、って。
……それは、きっと凄く怖くて、凄く不安で、凄く消えてしまいそうで。
でも、きっと乗り越えたら、それは美しい過程で、美しいカタチで、美しいつながりで。
美しい──〈愛〉であると。
認識できるんじゃないか、って。
……そんな確証すら持てるかどうかもわからない幻想を抱えては、いつも何処かに溶けて消えていく。
自分は、周りとは違う。
周りの普通の「カタチ」とは違って、自分の「カタチ」は普通じゃない。
自分の「すべて」を、文字通り「作り変えられて」。
今でも一番近くにいる人に、「すべて」を伝えられる感情の予感すらも、起きそうにできないのだ。
ここで暮らしている場所の景色が、どんなに青くて、穏やかで、静かでも。
自分自身の「すべて」を恐れるこの気持ちが、細胞の隅まで穏やかでいさせてくれない。
それでも、いつか遠い未来のうちに、その人と“何か”を結んでいくかもしれない──と、今日も夢見ている。
──これは友情なのか。それとも……。
×
ガラス張りの外側に見える、深い藍色の海底の光景。
その暗い光に包まれた広い空間の中で、金属同士がぶつかり合う、機械の冷たい音が鳴り響いていた。
ある目的のための準備だろうか。その金属の音は、異様に騒がしく聞こえる。
そんな中、ガラス越しの遊泳する魚類たちを眺めながら佇む、一人の人物がいた。
白髪の混じった人物の側に、ショートボブの女がやってくる。白衣姿の女は、何やら報告をしているようだ。
報告を聞いた人物は、しばし黙ったあと、振り返らずに命令した。
「──例のモノを準備しろ」
そのきっぱりとした声は、この瞬間でも、ある目的を叶えようとしていた。
海底の如く広い、この空間で。
その目に、塗れた欲望を抱えながら。




