第3話 結界の本当の欠陥と、初めてのモンスター
夜が明け、辺境の村は薄曇りの空の下で静まり返っていた。
俺――ケイは、昨日修正した結界を再確認するために魔法陣の周りを歩く。
《結界出力:最適化済》
《異常なし(暫定)》
だが、ふと視界の隅に文字が浮かんだ。
《未確認挙動:境界外生物の侵入可能性あり》
――境界外生物?
仕様書にない記述だ。
次の瞬間、森の向こうから不自然な影が動いた。
文字が赤く点滅する。
《脅威:小型魔獣/接近中》
小型? いや、結構デカい。
姿は狼に似ているが、背中に小さな鱗があり、目が不気味に赤い。
村人たちは、まだ気づいていない。
「……あ、いや、これは見せないとまずいな」
俺は急いで駆け寄る。
村人に向かって叫ぶ。
「避難! 森側の家から離れて! あれは普通の狼じゃない!」
しかし、狼型魔獣は結界の外側から悠々と入り込もうとしている。
ここで仕様書が役に立つ。
《魔獣行動優先度》
1,最も弱い生物
2,次に防御力の低い生物
3,魔力供給源
――なるほど。
村の人間は魔力供給源には見えないようだ。
つまり、村を丸ごと襲うわけではない。
俺は結界の側面に手を置き、出力を局所的に上げる。
魔獣が最も弱い経路にしか進めないよう制御する――
瞬間、魔獣は一歩踏み外し、転倒した。
村人たちは驚きの声を上げる。
「なんだあれ……!」
俺は落ち着いて言った。
「仕様に従えば、無駄な戦力を使わずに防げます」
魔獣は数回暴れた後、結界の端に誘導され、力尽きて消滅した。
文字が再び浮かぶ。
《評価変動》
《辺境村グラッド:信頼(中)獲得》
《技能使用ログ:魔獣対応成功》
村人たちが近づいてくる。
「あなた……一体何者なんだ?」
「魔法使い……じゃないよな?」
俺は肩をすくめる。
「いや、魔法は使えません。
ただ、この世界のルールを読めるだけです」
――仕様書読みが、戦闘力に変わる瞬間だった。
夕方、村長が俺を呼んだ。
「お前、これからも村を守ってくれるのか?」
俺は少し考えて、答える。
「仕様を理解している限り、守れます」
村人たちは口を揃えて笑った。
しかしその笑顔の奥で、どこか不安も見えた。
俺は文字を確認する。
《警告:村結界には、さらなる欠陥が存在します》
……まだ、全貌は見えていない。
だが、もう分かっていた。
俺の戦いは、戦闘力でなく知識で行う。
それが、この異世界で生き残る唯一の方法だ。




