第2話 辺境の村と、壊れかけの結界
王城を追い出された俺が最初に放り込まれたのは、
地図の端っこに名前だけ載っているような辺境の村だった。
「……静かだな」
家は少なく、人影もまばら。
畑はあるが、土の色がどこか悪い。
視界に文字が浮かぶ。
《現在地:辺境村グラッド》
《人口:87人》
《脅威レベル:中》
――中、か。
その理由はすぐに分かった。
「また結界が弱まってる……」
村の中央。
年配の男たちが、地面に刻まれた魔法陣を囲んで頭を抱えていた。
「これじゃあ、次の満月までもたんぞ」
「魔導士を呼ぶ金もない……」
結界、ね。
俺は少し距離を取って、魔法陣を見る。
すると、勝手に情報が流れ込んできた。
《簡易防衛結界》
《仕様:魔力を定期供給することで維持》
《現在状態:魔力過剰消費》
《原因:起動条件の誤解》
……過剰消費?
近づいて、よく見る。
魔法陣の中心に置かれた魔石が、
必要以上に魔力を吐き出している。
「これ、ずっと最大出力で動かしてません?」
俺が声をかけると、村人たちが一斉に振り向いた。
「誰だ、お前は」
「見ない顔だな」
「通りすがりです。
それ、常時全開にする必要ないですよ」
「何を言ってる?」
村長らしき男が眉をひそめる。
「結界は強いほどいいに決まっているだろう」
……ああ、なるほど。
使い方を誰も知らないパターンか。
《備考:結界は脅威接近時のみ出力を上げる設計》
《常時最大出力は非推奨》
完全に仕様書案件だ。
「夜だけ強くすれば十分です
昼は最低出力でいい」
「そんな馬鹿な……」
疑いの目。
当然だ。
俺は、地面にしゃがみ込む。
「ちょっと触りますね」
魔法陣の端。
制御用の刻印に、指を置く。
――ここだ。
俺は、出力制限のルーンを軽くなぞった。
瞬間。
魔石の光が、ふっと弱まる。
「……え?」
ざわり、と空気が動く。
結界は消えていない。
だが、無駄な魔力の奔流だけが止まった。
《魔力消費量:78%削減》
「な、何をした!?」
「仕様通りにしただけです」
村人たちは、唖然として魔法陣と俺を交互に見る。
「これで、魔石は半年もちます。
今までは……たぶん一週間が限界だった」
沈黙。
次の瞬間。
「た、助かった……!」
「これで冬を越せる……!」
誰かが、俺の手を握った。
そのとき、また文字が浮かぶ。
《評価変動》
《辺境村グラッド:信頼(小)獲得》
……評価システムまであるのか。
夜。
粗末だが温かい食事を振る舞われ、
空き家を一つ貸してもらった。
ベッドに横になり、天井を見る。
「戦えなくても……」
今日一日で、はっきりした。
「仕様が分かれば、生きていける」
そして。
《警告》
《本結界は“暫定修正”です》
《根本的な欠陥が存在します》
……ん?
俺は、ゆっくりと起き上がった。
「まだ、何かあるな」
どうやらこの村、
もう一段階、面倒なバグを抱えているらしい。




