第1話 役立たず判定
目を覚ました俺――ケイは、冷たい石の床の上に寝かされていた。
天井は高く、装飾されたアーチ状。
周囲には剣を腰に下げた兵士や、ローブ姿の老人たちが並んでいる。
どう見ても、ファンタジー世界の王宮だ。
「転生……したんだよな、これ」
頭の中でそう呟いた瞬間、文字が浮かび上がった。
《世界仕様閲覧(限定)》
《現在地:アルセリオ王国・王城 魔導測定室》
……おお、ちゃんと動いてる。
感心している間にも、部屋の奥から威厳のある声が響いた。
「次。転生者ケイ、前へ」
促され、俺はゆっくりと立ち上がる。
視線の先には、水晶球を前にした白髭の老魔導士がいた。
「これより、授けられた能力の適性を測定する」
周囲の視線が一斉に集まる。
期待と、値踏みと、少しの見下し。
――ああ、これも仕様通りだ。
俺は水晶球に手を置いた。
しん、と空気が静まる。
数秒
……何も起きない。
水晶は光らず、風も吹かず、魔力の反応すらない。
「……魔力量、最低値」
老魔導士が眉をひそめる。
「固有スキルは?」
その問いに反応するように、俺の視界に文字が浮かんだ。
《固有スキル:世界仕様閲覧(限定)》
《説明:世界の構造・法則・挙動の一部を文章として閲覧可能》
老魔導士が読み上げる。
「……世界、仕様、閲覧?」
周囲がざわついた。
「何だそれは?」
「聞いたこともない」
「戦闘補助にもならんだろう」
誰かが、鼻で笑った。
「つまり、強くないということか?」
王座に座る国王が、興味なさげに言う。
「はい。魔法適性なし、武術適性なし。
この者は――」
老魔導士は、はっきりと告げた。
「戦力外です」
その瞬間、空気が一気に冷えた。
「転生者でありながら役立たずとは……」
「税の無駄だな」
「処分するか?」
――ああ、来た来た。
でも、不思議と焦りはなかった。
俺の視界には、別の文字が見えていたからだ。
《魔導測定水晶》
《仕様:魔力量を測定するが、知識系スキルは検知不可》
《備考:設計者も想定していない》
なるほど。
つまり――この世界、測定方法が雑だ。
「よかろう」
国王が立ち上がる。
「転生者ケイ。
お前を王国より追放する。装備も金も最低限だ」
周囲が、当然だという顔をする。
俺は、静かに一礼した。
「承知しました」
その反応が意外だったのか、国王が一瞬だけ目を細める。
「……怖くはないのか?」
俺は、少し考えてから答えた。
「仕様が分からない世界なら、怖かったと思います」
周囲が、きょとんとする。
「ですが」
俺は、胸の内で笑った。
「この世界には、仕様がある。
それなら――対処できます」
理解されるはずもない。
俺はそのまま、王城を後にした。
役立たずと切り捨てられたその瞬間から、
世界の“裏側”を読む生活が、始まった。




