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目覚めたら右手がサイボーグだったやつ 〜 平和な高校生活を守るため、俺は右手を隠したい〜

作者: 黒田緋乃
掲載日:2026/01/20

 朝起きたら、俺の右手がサイボーグになっていた。


 何言ってるのか分からねーと思うが、俺も何が起きているのか分からない。

 

 俺は、機右介(はたそうすけ)

 ごくごく普通の高校1年生だ。

 いま俺は自分の部屋のベッドの上にいる。


 もう一度言うが、俺の右手はサイボーグになっている。

 手の甲から指先まで黒光りする装甲で覆われており、関節部には青白い光が浮かんでいた。

 

 某人型起動戦士の手みたいで、正直かっこいいとは思う。けど、令和の高校生には100%いらないものだ。

 あと手首から急に普通の腕に戻ってるの違和感すごい。

 つなぎ目の部分、本当どうなってんだ、これ。


 俺は試しに指を動かしてみる。

 指の動きに全く違和感がない。むしろ元の手より、動きは滑らかですらある。


 …………何でこんなことになったんだろうか。

 

 両親が怪しい実験をしていたとか、特殊な血統だとかいうことは一切ない。

 昨晩もスマホを適当にいじって寝ただけだ。心当たりはゼロ。全くもってゼロ。


 俺は近くにあるスマホを手にとってみる。

 モノを触る感覚も今まで変わらないようだ。

 ダメ元で調べてみる。


 「右手 サイボーグ 突然なった」

 

 ……当然ながら、何も出てこなかった。

 

 原因が分からないのでは、対処の使用もない。

 これ、もしかして治らない?一生このままなのか?


 いや、ネガティブになるのはまだ早い。

 

 もしかしたら一晩寝れば治るかもしれない。よし、そういうことにしよう。じゃないと、メンタルがもたないし。


 ふと壁掛け時計が目に入った。

 時刻は6時50分。あと30分で家を出ないと、学校のホームルームに間に合わない。

 

 そもそもこんな手で学校に行くのか?

 答えはイエスだ。

 

 俺の数少ない自慢は、小・中・高校の今まで皆勤賞。

 たかが皆勤賞とあなどるなかれ。俺にとってはささやかな誇りなのだ。

 あまり物事が長続きしない俺にとって、唯一と言っていいほど続いているものだった。


 ここでずる休みをしたら、本当にダメ人間になってしまう気すらする。

 全身ならまだしも、右手がサイボーグになったくらいで、諦めたくはなかった。


 しかし、行くとなったらなったで問題が発生する。

 右手がサイボーグであることが、クラスの連中に知られた場合だ。

 

 今は5月半ば。高校入学から1か月が経ち、何となくクラスの顔ぶれが分かってきたタイミング。

 俺は目立つ方ではないので、現段階でのイメージはほぼ無に近いだろう。自分で言っててめっちゃ悲しいけど。

 

 そこで、右手がサイボーグになって突然現れてみろ。

 俺のあだ名は間違いなく「右手サイボーグ」になる。

 それも、高校3年間ずっとだ。

 

 そして、女子たちはこう言うかもしれない。

 

「あいつの右手、サイボーグらしいよ。きもいよね」

 

 ……想像しただけで、涙が止まらなくなる。

 この右手がバレることだけは、絶対に避けなくてはならない。

 

 学校には行きたいが、右手のことはバレないようにしたい。何かいい案はないか、制服に着替えながら俺は考えた。


 突然、パッと閃きが舞い降りた。

 人間切羽詰まると、いい案は浮かぶものだ。


 俺はおもむろにクローゼットから冬につけていた手袋を取り出して右手にはめる。そして、1階のリビングにダッシュ。

 棚から薬箱を取り出し、おかしなヤツを見る目で俺を見る母親は無視して、自分の部屋へ即直帰。


 俺は薬箱の中から、包帯を取り出した。

 そして、自分の右手に何重もグルグルと巻いていく。


 よし、出来た!

 俺の右手はサイボーグハンドから、包帯ハンドに進化(退化?)していた。


 うん。正直かっこいいんじゃないか。

 荒々しい巻き方が雰囲気を出している。バトル漫画とかでいそうな感じだ。

 中二病心を絶妙にくすぐってくる。地獄から炎を呼び出したりできそうな気にもなってきた。

 

 俺は今日一日、これで乗り切ることに決めたのだった。


 

 ◆

 

 

 右手が包帯グルグル男の俺は無事、高校の教室前までたどり着いていた。

 

 家を出てからというもの、周りの視線に怯えてビクビクしていたが、別に何も起こらなかった。

 右手が半分くらい学ランの制服に隠れてるのもあるだろう。

 

 しかし問題はここからだ。

 教室に入った瞬間から、クラスメイトに話しかけられる機会はいくらでもある。

 

 だが、俺は隠し通してみせる。

 絶対に「右手サイボーグ」にはならないのだ。

 右手をギュッと握りしめ、教室の中へ入った。

 

 朝のホームルーム5分前。

 教室には、ほとんどのクラスメイトが揃っていた。

 

 俺は目があった友人に「おはよう」と挨拶を交わしながら、普段通りの様子を装いながら自席まで歩く。


 よし、いつも通りの俺だ。我ながらパーフェクトな演技力。誰も俺の右手が急にサイボーグになったとは思ってないだろう。

 心の中で自画自賛していると、横から声がかけられる。

 

 「おはよう、ゆーすけ」


 話しかけてきたのは、クラスメイトの二階堂葵にかいどうあおいだ。

 顔つきは小動物っぽい。小柄な体と、こげ茶色のポニーテールも相まってリスみたいだなといつも思う。

 

 ちなみに名前で呼ばれてるのは、付き合いがかなり長いからだ。

 家は徒歩5分圏内の超近所。なので、小・中学校はもちろん一緒。高校もまさかの一緒で、クラスも同じときた。よく言えば幼馴染、悪く言えば腐れ縁。

 

 10年も付き合ってるので、もはや兄妹みたいな感覚だ。もちろん、兄は俺ね。

 

「おう、おはよう」


 俺は挨拶を返す。

 葵の大きな目は、俺の右手を見ていた。


「どうしたの、その右手?」


 ……来たか。葵は、昔からまじめで心配性だ。

 葵がこの右手のことを知ったら、親切心から対処方法を求めて周りに言いまくる可能性がある。

 

 なので特にコイツだけには、知られるわけにはいかなかった。

 俺は予め考えておいたウソの理由を伝える。


「これは……昨日熱湯かかって火傷したんだよ」

「え、大丈夫?そんな手全体覆うくらいかかったの?」

「大丈夫。ほら、動きはするし、問題ねえよ」


 安心させるために、右手を挙げて軽く動かして見せた。

 

「よかったあ。気をつけなよ、昔から抜けてるとこあるし」

「ああ。一言余計だけどな」


 そう言って、俺が右手を下ろしたときだった。

 自分の机の端に右手が激突する。


――キーン


 金属が何かにぶつかったような音が鳴り響いた。

 まるで金属の棒をぶつけて音を奏でるトライアングルのような、そんな澄んだ音色だった。


「ねえ、何か金属がぶつかったみたい音しなかった?」


 葵が疑いの眼差しを俺の右手に向けている。

 

 これは、ピンチか……?

 いや、想定内だ。


 俺は右手の学ランの裾をめくった。

 そして、手首につけていた金属製の時計を見せつける。

 入学祝いに親父からもらったものだ。こういう時に備え、つけておいたのだった。


「ん?これのことか?」


 何でもないことのように言う。

 内心はめっちゃヒヤヒヤだけど。


「なるほど時計だったのね」


 葵は納得した様子。

 危ない。父よありがとう。時計は役に立ったぜ。

 

「でもゆーすけ。時計つける腕逆じゃない?ちゃんと直しておきなよ」

 

 そう言い放ち、葵は席に戻っていった。

 危ない。何とか乗り切った。心の中で安堵の息をつく。

 この調子で何とかごまかそうと俺は決意したのだった。

 

 

 そして、気がつけば放課後になっていた。

 あれから何人かに包帯のことを聞かれたが、火傷といえば納得してくれた。


 少しだけトラブルもあった。

 右手で紙パックのジュースをもったら、軽く握ったつもりがうっかり握り潰まった。誤魔化せる範囲だったので、とりあえず何とかなったが。


 俺は帰宅部なので、あとは帰るだけだ。

 今日一日中乗り切ったと思うと心が軽い。


 俺はカバンを持って教室を出る。

 くつ箱でスニーカーに履き替え、校舎を出た。

 適度な暑さが気持ちよい。つい腕を上げて伸びをする。


 謎の達成感でいっぱいになっていた、その時だった。


「ゆーすけ、一緒に帰ろう」


 げ、この声は。

 振りぬくと、そこにいたのは葵だった。


 誰かが言った。

 「遠足は、家に帰るまでが遠足だよ」と。

 右手を隠すのも、家に帰るまでらしい。


 果たして、俺は隠し通せるのだろうか。

 下校編に続く。



 何とか右手のことはバレずに、最寄り駅までたどり着いた。

 

 朝のやりとりで納得したのか、葵が右手について突っ込んでくることはなかった。しかし、まだ油断はできない。

 

 俺と葵は駅を出て、家に向かって歩き始める。

 お互いの家まではここから15分ぐらいで着くだろう。


「ねえ、帰宅部なんてやめてさ、生徒会に入らない?」

 

 唐突に葵が切り出した。

 葵は生徒会に所属している。今日は会長と副会長が仲良く熱を出して活動がなかったそうだ。

 帰宅部の俺は、いつも通りの帰宅時間である。


「やだよ、めんどくさい」

「でもゆーすけ、家帰ってどうせ暇してるんでしょ?」

「………………」


 その通りである。

 俺も別にスポーツは嫌いじゃない(ただし、得意でもない)。ただ大会とか何かのために頑張るというあの空気感が苦手なのだ。

 数少ない友達からは、社会に出たらやっていけないぞと言われる。ほっといてほしい。

 

 だから俺は、もっぱら家でゲームや動画視聴に勤しんでいるというわけだ。


「ゆーすけ。意外と機転がきくとこもあるし、向いてると思うんだけどなー」

 

 葵がチラチラこちらを見ながら言う。

 生徒会なんて、適当に生きてる俺とは真逆の生き物だ。

 いかに俺が生徒会に向かないか、力説しようと思ったときだった。


――ブゥゥゥゥン


 耳障りの悪い音が聞こえた。

 羽のある虫が飛ぶときに聞こえる、ちょっとビクッとするあれだ。

 俺たちの目の前を、黄色い何かが通りすぎる。

 

「え?(はち)!?」


 葵が悲鳴に違い声をあげる。

 その気持ちはよく分かった。

 その蜂は、めちゃくちゃデカかったのだ。

 

 推定大人の男の親指くらいのサイズ。

 ミツバチのようなかわいい雰囲気はなく、スズメバチ的な攻撃力の高いやつだと思われる。

 

 なんでこんな市街地の道にいるんだと焦りつつも、俺は小さく深呼吸する。

 こういう時は焦った方が負けなのだ。

 落ち着いて、葵に声をかける。


「葵。こういう時は静かに、刺激しないようにやりすごすぞ」

「うん、分かった」


 葵の顔はだいぶこわばっていた。


――ブゥゥゥゥン


「キャアアアアアア、やっぱ虫むりいいいい」


 こいつ!俺の言ったことを1秒で破りやがった。

 叫んだ葵は、その場で頭を抱えてうずくまっている。


 大声に刺激されたのか、デカい蜂が俺を目がけて飛んでくる。

 これはやばい。刺される。

 せめて顔だけは守ろうと思い、咄嗟に右手を顔の前に持ってきた時だった。


 右手の人差し指が、急に熱くなった。

 そして。

 

――ゴオオオオォォォォ


 熱くなった人差し指から、急に火炎放射が放たれた。

 燃え盛る炎は向かってくる蜂に直撃。

 蜂は一瞬にして黒焦げとなり、塵になって消えた。


「へ?」


 右手の人差し指は、第一関節が開いており、中から銃口のようなものが露出している。

 白い煙が小さくたちのぼり、指先付近の包帯が黒く炭化していた。

 ことが済んだためか、開いていた第一関節は自然と元に戻っていく。


 ……おいいいいい、なんか勝手に火出しやがったぞ。この右手。

 こんな機能搭載してんのかよ。

 助かったけど。何用だよ、この火炎放射器。

 ひょっとしたらこの右手、とんでもなくヤバい……?


「あれ?蜂は?」


 後ろから葵の声が聞こえ、俺はハッと我に返る。

 慌てて右手を握って、人差し指を隠した。

 

 葵は立ち上がると、周りをキョロキョロと見回していた。俺は適当な方角を左手で指差す。


「あっちの方に飛んでいったぜ、蜂」

「そっか、良かった……。ごめん私、虫だめでさ……」


 葵の反応を見て、俺も一息をついていた。

 先ほどの火炎放射。どうやら見られてはないようだ。


「ねえ、何かこのへん焦げ臭くない?」

 

 おっと、ヤバい。


「近くの家が鍋でも焦がしたんじゃね?ほら、行こうぜ」

「あ!ゆーすけ。ちょっと待って」


 苦しいごまかしで、何とかその場を逃れようとしたそのとき。

 よそ見をしていたせいか、俺は正面にいた何かにぶつかった。


「あ、すいません」


 慌てて謝る。

 しかし、その正面の人物の容姿は俺を絶句させた。


 目の前にいるのは、黄色と茶色のチェックシャツを着た男性。

 その頭部はなんと……蜂だった。

 大きな複眼に、角張った顎。そして触覚。

 

 色は全て銀色で、人工的に作られた雰囲気を醸し出している。腕から覗く手も銀色の装甲で覆われていた。

 

 いわゆる蜂人間。いや、蜂のサイボーグか……?

 俺が激しく戸惑っていると、その蜂サイボーグの口が開いた。


「ニンゲン、チクチク」

「……は?」


 感情の感じられない合成音声。

 発せられた言葉の意味がよく分からなくて、思わず聞き返してしまう。

 

「ニンゲン、チクチク」

 

 やっぱり、意味が分からねえ。

 たぶんこれ、関わっちゃだめなやつだ。


「キャアアアアアア」


 後ろにいた葵が叫び声を上げる。

 さっき虫ダメって言ったもんなあいつ。


 振り向くと、後ろへ倒れそうになっていたので、慌てて抱き止める。

 

 よほど恐ろしかったのか、白目を向き、口から泡を吹いていた。

 リアルでこんな風になる人間を初めてみた。

 しかも、女子。

 てか、気絶した人間って本当重たいな……。


 蜂サイボーグは俺を見て、なぜかうなづいていた。

 

「オマエ、サイボーグナカマ。チクチク、シナイ」


 仲間?サイボーグ仲間って何?

 こんな蜂人間と仲間になった覚えないんですけど。

 俺の右手がこうなったことと関係あるのか?

 

 だが、俺は頭を切り替えた。

 いまやるべきことは、この場から逃げることだ。

 そのためなら、何でも利用してやる。


「あー、俺らサイボーグ仲間だよな。うんうん。……じゃあ、そういうことで」


 適当に相槌を打ち、そしてすかさず逃げようとする。

 だが……抱きかかえる葵が重くて、動けなかった。

 

 蜂サイボーグは、俺の進路をふさぐように立った。

 

「ソノニンゲン、チクチク。オイテケ」


 そう言って、蜂サイボーグは口から何かを黄色いものを吐き出した。

 それは、先ほどのデカい蜂だった。

 

 げえ。蜂がいたのは、こいつのせいだったのか。

 てか口から出すの気持ちわるっ。

 動画サイトだと視聴制限つく光景だよこれ。


「テイコウ、スルナラ。オマエモ、チクチク」


 あの蜂を操って、襲ってくるということだろうか。

 

 俺は左手で抱えている葵を見る。まだ白目をむいたままだった。

 こいつを置いて逃げるわけにはいかない。

 だが、蜂に刺されるのだけは絶対に嫌だ。


 咄嗟に視界に入ったのは、包帯で巻かれた自分の右手。

 俺は覚悟を決めた。


「やってみろよ」

 

 俺は静かに、右手を蜂サイボーグに向けて突き出していた。

 それを敵意と受け取った蜂サイボーグが叫ぶ。


「チクチク――――」


 でかい蜂が、俺めがけて突っ込んでくる。

 

 俺は右手の人差し指に力を込める。

 第一関節がパカッと開き、中の銃口がむき出しになる。


――ゴオオオオォォォォ


 右手の人差し指から、火炎放射が放たれた。

 もちろん蜂は黒炭になった。


「蜂サァァァン――――」


 予想外だったらしく、蜂サイボーグがうろたえた。


「ヨクモ、ツミノナイ、蜂サンヲ……」

「いや、罪はあるだろ。人間刺そうとしてるし」

「ウルサアアアアイイ!」


 逆ギレした蜂サイボーグが再び蜂を口から吐き出す。

 今度は、なんと10匹。

 

 が、人差し指の火炎放射はそれを一瞬で消し炭にした。


 蜂サイボーグは、完全に固まっていた。

 俺はニヤリと笑う。


「なあ、もう終わりなのか?」

「ウギ…………」

「次は、お前を炙ってやろうか」


 俺は右手の人指し指を見せつけるように、蜂サイボーグに向けなおす。

 こっちだって少なからず怖い思いをしたんだ。これくらいは許されるだろう。

 

 蜂サイボーグはうつむき、全身をプルプルと震わせる。

 

「オ、オボエテロォォ」


 そんな捨て台詞を残し、蜂サイボーグは脱兎のごとく逃げ出した。

 

 俺はしばらく固まっていた。

 

 マジで…………何だったんだろう。あれ。

 ともかく、今だけは右手がサイボーグで助かった。

 そんなことを考えていると、


「う、ううん」


 左手に抱きかかえていた葵が目を覚ました。

 俺は、すぐさま右手をポケットの中に入れて隠す。


 葵とパッチリ目があう。

 その視線は、葵の体を抱えている俺の左手に移る。

 葵の体が小刻みにふるふると揺れた。

 

「えええ、これどういう状況?」


 葵は俺からばっと離れた。

 

「な、な、何してるのよ」

「お前が気絶してたから介抱してたんだろ……」

「あ、そうか、私。たしか、頭が蜂の人を見て……」


 葵は首を振って、周囲を見まわす。


「あれ?あの蜂人間はどこ行ったの……」

「帰ったぞ。ヒーローショーの怪人役の練習をしてたらしい」


 適当なウソをついて誤魔化す。

 息を吐くようにでまかせが出るのは、俺の数少ない長所だ。質はともかく。


「良かったあ~。なんかすごい変質者に会ったと思っちゃったよ」


 素直に納得する葵。こいつはもう少し人を疑ってもいい気がする。

 それに、実際とんでもない変質者だったけどな。

 口から蜂出して、人間襲おうとしてたし。


「あのさ、なんか変な夢見たんだよね」


 気が付くと、葵が俺をじっと見ていた。


「夢?」

「うん。ゆーすけが右手から炎を出して、蜂人間から守ってくれる夢」

「ぶっ――――」

 

 俺は、思わず吹き出した。

 あれ?これ見られてた?俺の右手がサイボーグだってバレたってこと?


「……でも気のせいだよね。人間の指から炎は出るわけないし」


 良かった。夢だと思ってるっぽい。

 勢いでごまかすしかない!

 

「ありえないだろ、そんなの」

「そうだよね。だけど、その時のゆーすけさ……」


 葵が何か言いかけて、俺から目を逸らした。

 その頬は、赤く染まっている。


「どうした?蜂人間がトラウマになったか?」

「……ばか。せっかく褒めようと思ったのに……」

「ん?褒める?」

「何でもない。じゃあ、私の家こっちだから。また明日ね」


 葵は手を振りながら、去っていった。


「……俺も帰るか」

 

 今日は何か、どっと疲れた気がする。

 色んなことが起こりすぎて、もう何も考えたくなかった。

 

 この右手のせいで、今日は散々だった。

 寝たら元に戻ってほしいと、心から願っている。


 でも、不思議と気分は前向きだった。

 俺は朝よりも軽い足取りで、家へと向かった。

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