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あなたと生きた世界  作者: 仙夏
黎明

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01

【主な登場人物一覧】

蘭寮   寮長:神楽凜(8) 副寮長:蒼井茜(7)

向日葵寮 寮長:阿久津陽向(8) 副寮長:日向悠人(7)

葵寮   寮長:優木澪(8) 副寮長:緑川颯(7)

菫寮   寮長:橘立夏(8) 副寮長:一条優(7)

蓮寮   寮長:水瀬莉(8) 副寮長:水瀬藍(8)

楓寮   寮長:星宮柊(8) 副寮長:黒川伊織(7)

蓬寮   寮長:桜庭海(8) 副寮長:一ノ瀬南海(7)


学園の生徒の学年は、1年生から8年生までで、上記の( )の中の数字がそれぞれの学年です。


看護師 「飛翔君!飛翔晴樹君!聞こえますか!」

そんな声が聞こえる中、僕は息苦しさに襲われ意識を失い、病院に緊急搬送された。


晴樹 「っ、ここは…」

目が覚めると、見覚えのない場所のベッドに寝かされていて、起き上がると多くの知らない人が眠っていた。

何だ、ここ…

起き上がっても先ほどまで感じていた息苦しさが少しもない。

周りを見渡すと、三つ隣のベッドで眠っている男の子を見えて、心臓が飛び出るかと思うくらい驚いた。

晴樹 「…俊君…?でも、俊君は三か月も前に亡くなって…お葬式も行って…」

僕は、何だか怖くなって自分のいた部屋を抜け出し、この場所がどこなのか突き止めようと思った。

一度も来たことがない…見たこともない…

僕は走って出口を探した。

晴樹 「何なんだ…ここ…」

急に外に出たかと思えば、草木が生い茂る森に入ってしまっていた。


引き返そうと立ち止まると、後ろから気配を感じた。

獣 「ガルルウゥゥ…」

晴樹 「へ…?」

後ろを見ると、とてつもない体の大きさを持つ…この世のものとは思えないような生き物がいた。

晴樹 「な、何なんだ…」

僕の目の前に現れた”奴”は、僕がこれまでに見たものの中で最も恐ろしく最も大きな化け物だった。

僕は、後退りしようと足を引くと、木の根に引っ掛かって転んでしまった。

晴樹 「…これは夢。夢に決まってる。」

“奴”は、僕を狙い、僕を食べようとしているようだった。

晴樹 「ゆ、夢じゃない…っ、誰か…」

すると、急に女の人が僕の前に降り立った。

手には、現物では見たことがないような刀を持ってる。

女の人は、”奴”をその刀で斬ると、”奴”は光に変わり消えていった。

女の人 「大丈夫か?」

晴樹 「えっ、えっと…」

女の人 「見かけない顔だな。新入生か?」

晴樹 「え?えっと、あの…」

僕が話そうとすると、その女の人は僕の口を急に手のひらで抑えた。

女の人 「静かに…囲まれたか。」

女の人は立ち上がり僕に手を差し伸べた。

僕はその手を握って立ち上がった。

晴樹 「か、囲まれたって…?」

女の人 「怪我は?走れるか?」

晴樹 「は、はい。」

女の人 「ならば、全力であの建物に向かって走りなさい。」

女の人は、少し屈んで僕と同じ目線になり、ある場所を指差した。

晴樹 「っ…あれは…」

今まで気づきもしなかったけど、女の人が指差した先にはとても大きくて立派な屋敷のような建物が立っていた。

女の人 「私が合図を出す。振り向かず、ただ走るんだ。良いな?」

晴樹 「は、はい…」

女の人 「では…一、二…三。」

女の人は、僕の背中を勢いよく押して、その勢いに倒れそうになりながらも僕は走った。

後ろでは、金属音や獣の唸り声が聞こえていた。

ようやく建物の敷地内に着いて息を整えていると顔がそっくりな男の人が二人近づいてきた。

男の人 「いたいた。全く、勝手にいなくなっちゃ駄目じゃないか。」

晴樹 「えっ?」

男の人 「こっち。付いて来て。もうすぐ式が始まる。」

僕はその二人に腕を掴まれ、大きな扉の前まで連れて来られた。

その二人が扉を開けると、広い部屋に数え切れないほどの人たちがいてこちらを見た。

男の人 「ほら、後は一人で歩いて行きなさい。」

お年寄り 「おぉ、早く来なさい。これで全員揃ったの。」

僕は、全員が僕に注目している中、前に向かった。

前に着くと、お年寄りが話し始めた。

お年寄り 「お主たちは、今年の新入生じゃ。急に目覚めて驚いていると思うが、今日からここで学んでもらう。では、副学園長先生に説明してもらおうかの。」

副学園長 「はい、学園長。」

副学園長と呼ばれた女性は、僕のおばあちゃんと同じくらいの年齢に見えた。

副学園長 「皆さん、自覚している者とそうではない者がいると思いますが、あなた方は過去一年間で亡くなった方々です。」

晴樹 「亡くなった?」

俊 「晴樹?」

その声に振り向くと僕の隣に立っていた男の子が僕を見つめていた。

晴樹 「あっ、俊君!あっ、あのさ、しゅ、俊君って幽霊…?」

俊 「ゆ、幽霊?なのかな…俺、やっぱ死んだんだ…車が目の前まで迫ってきたのは覚えてるんだけど…」

晴樹 「ぼ、僕ね、俊君のお葬式にも行ったんだ。なのに、また俊君に会えると思ってなかったよ。」

俊 「葬式…でも、何で晴樹もいるんだ?晴樹も死んだのか…?」

晴樹 「…持病の発作が起きちゃって。病院に運ばれている間に意識を失ったと思っていたんだけど、気づいたらここにいて…」

副学園長 「こらこら、私語を慎みなさい。まあ、混乱するのも当然ですかね。突然ですが、あなた方は前世でやり残したことがあると判断された者です。もう少し、その生を全うするよう指示が出されました。ここにいる生徒たちも全員そうです。」

俊 「全く話が分からない…」

晴樹 「うん…」

副学園長 「あなた方は、前世で与えられた生の使命を全て果たし切れなかった。その使命を果たし切るために、この世界に送られたのです。ここは、言わば前世と来世の狭間にある世界。あなた方が第二の人生を歩むための世界です。」

俊 「…ここで、もう一度生きられるってこと?」

副学園長 「まあ、そうです。しかし、ただ生きれば良いというものではありません。こちらをご覧なさい。」

副学園長先生が指を鳴らすと、急に無数のろうそくが現れ、それぞれ一本ずつ僕らの前に移動した。

僕の前に移動したろうそくは、白くて細長く、ゆらゆらと火が灯っていた。

副学園長 「これがあなた方に残された時間です。このろうそくが全て溶け切ってしまったとき、あなた方はこの世から消されると考えてください。」

晴樹 「け、消される…?」

副学園長 「この世に必要が無いと判断されたということになります。まあ、ろうそくが解け切る前にここを卒業し、次の生を受ける者が大半です。そこまで怯えずに。あなた方の使命は、このアルセリア学園で武術や剣術、弓術など様々なことを学び、立派な戦士となり獣を倒すこと。」

獣…さっき見た化け物かな…助けてくれたあの女の人、大丈夫だったかな…

副学園長 「そのためにまずは寮分けを行います。それぞれの寮の寮長たちによりこの学校の統治が行われています。この場で、自分の前世の終わり方と向き合い、そしてこれから寝食を共にする寮が決定しますので真剣に臨むように。まずは、各寮の寮長、副寮長を紹介してもらいます。」

すると、急に部屋が暗くなり、ある一点に明かりが集中した。

その明かりの場所に男の人が現れた。

男の人 「はい!では、このようなイベントごとの全てにおいて司会を務めます。向日葵寮六年の藤咲誠です。今年度もよろしくお願いします。では、さっそく各寮を紹介しましょう。トップバッターは、我らの頭脳、冷静沈着な蘭寮。寮長は、神楽凜。副寮長は、蒼井茜。」

すると、扉が開き、二人が入ってきたかと思えば、一つの長机の生徒が大きな声で歓声を上げ、ほかの長机に座っていた生徒は拍手をしていた。

誠 「はい。続いて元気いっぱいの我らが向日葵寮。寮長、阿久津陽向。副寮長、日向悠人。」

また、二人が入ってきて、さっきとは別の長机の生徒が歓声を上げ、ほかの生徒は拍手をしていた。

どんどんと寮長、副寮長が紹介されていき、圧倒されていると俊君に急に肩を叩かれた。

俊 「なぁ、ここ男しかいないと思わないか?」

晴樹 「…たしかにそうだね。」

俊 「むさ苦しい男子校かよ…」

誠 「はいはい。ここが男だけのむさ苦しい男子校と勘違いしているそこの新入生諸君。最後は、お待ちかねの菫寮!」

すると、まだ寮長たちの名前が発表されていないのに、全ての長机の生徒が拍手をした。

誠 「菫寮。寮長は、橘立夏。そして、副寮長、一条優!」

拍手と共に扉が開き、二人が入ってくると僕は目を奪われた。

晴樹 「さっきの女の人…」

よく見ると、女の人は片腕を怪我していて、包帯を巻いていた。

寮長、副寮長は、それぞれ、僕らの前に立った。

副学園長 「では、今年の代表寮、菫寮に自己紹介をお願いします。」

すると、さっきの女の人が真ん中のマイクの前に立ち、女の人と一緒に扉から出てきた副寮長がその後ろに立った。

立夏 「今年度も菫寮寮長を務めます、橘立夏です。」

女の人は、後ろに立っていた男の人を見た。

優 「あっ、え、えっと…」

陽向 「緊張すんな!」

澪 「リラックスだよ。」

笑いが起こる中、その副寮長は緊張して固まった。

隣で橘さんは呆れたようにマイクを自分に向けた。

立夏 「副寮長の一条優。よろしく。」

橘さんは、緊張して固まっていた一条さんの腕を引っ張って下に降りた。

学園長 「菫寮寮長の橘。なぜ、怪我をしているのじゃ?」

立夏 「あっ、森で獣と鉢合わせました。」

すると、全体がざわざわし始めた。

凜 「立夏が獣との戦いで怪我をするのは珍しい。何体と鉢合わせたんだ?」

立夏 「…十体は優に超えていた。」

莉 「一条。お前、緊張している場合ではないだろ。どうして、立夏を一人で森に行かせたんだ?」

優 「え、えっと…」

立夏 「お使いの帰りに森を通るしかなかった。一条は関係ない。」

藍 「立夏が怪我をするとは…一条も立夏が森に行ったことを知らないみたいじゃん。副寮長失格なんじゃないか?」

澪 「こらこら。そんなに責めたら可哀そうだよ。」

莉 「全く。澪はそうやって甘やかすから駄目なんだ。」

晴樹 「あ、あの!」

僕が切り出すと騒がしかった会場が一瞬で静かになった。

立夏 「あっ…」

晴樹 「ぼ、僕です…僕のせいです。」

莉 「抜け出していた新入生か。君が立夏に怪我を?」

晴樹 「ぼ、僕が化け物に出くわして…この人が助けてくれて、走れと言われて、それで…」

凜 「…新入生なら仕方なかろう。私たちにも責任はある。一条だけを責めるべきではない。」

学園長 「新入生が森に出ていたとは…警備が薄くなっていたの…」

茜 「あっ、さっきまで警備していたのって…」

凜 「くっ、蓬寮か…海、お前の寮ではないか。」

海 「んー。」

莉 「んー、じゃねぇ!お前の寮の奴らが警備をさぼったんじゃねぇか!ちゃんと指導しとけ!」

澪 「全く…でも、怪我もそんなに酷そうじゃないし一安心かな。立夏も僕らに言わないと駄目だよ?」

立夏 「なぜ?」

凜 「なぜ?じゃない。もっと自分のことを大事にせんか。」

俊 「あの三人、すげぇ過保護なんだろうな。」

晴樹 「そ、そうみたいだね。」

副学園長 「おっほん。まぁ、ということで、寮分けを始めますよ。一人ずつ、上に上がってください。えー、笹沼俊。」

俊 「うわ、トップバッターか…」

俊君がステージ上に上がると大きな鏡が現れた。

俊 「えっ…」

少しして、俊君は急に鏡の中に手を伸ばした。

俊 「…これは…」

俊君が手を引いて、その手を引くと菫のブローチがあった。

誠 「笹沼俊!菫寮!」

すると、菫寮の生徒が歓声を上げ、菫寮寮長の橘さんが俊君に菫のブローチを付けていた。

晴樹 「…僕もどうせなら菫寮が良いな…」

なかなか、名前を呼ばれず、菫寮を見ると、寮長の橘さんは副寮長の一条さんを笑いながらいじっているように見えた。

晴樹 「…かわいい。」

そして、人数も減ってきた。

副学園長 「次は…飛翔晴樹。」

晴樹 「は、はい。」

ステージの上にある鏡の前に行くと、急に僕の学校が映し出された。

晴樹 「…これ…」

僕は、急に苦しくなり学校内で倒れて救急車で病院に運ばれた。

病院では、両親や先生が僕の周りで僕の名前を呼んでいた。

晴樹 「…」

両親が僕の手を握り、僕が目を覚ますのを願っている…

僕は…僕はここなのに…

僕は、皆に触れたくて手を伸ばした。

気づけば、僕は何かを握っていて、手を戻して手のひらを開くと菫のブローチがあった。

誠 「飛翔晴樹!菫寮!」

僕がもう一度鏡を見ると僕のお葬式が映っていた。

誠 「…あのー、飛翔君?」

晴樹 「僕…本当に死んじゃったの…?」

鏡を見つめていると、急に手を引かれた。

後ろを見ると橘さんがいた。

立夏 「…鏡に見入るな。お前の居場所はここだ。」

橘さんは、僕にブローチを付けて、僕を菫寮の机に座らせた。

全員の寮分けが終わると、夕食が始まった。

優 「寮長、すみません。私が先輩にお供していれば、このような怪我をせずに済んだかもしれないのに…」

立夏 「気にするな。」

優 「今度からはお供させてください。また、あの場所に立ち寄っていらしたのでしょう?」

立夏 「んー…」

橘さんは、空返事をして食事をしていた。

食事が終わると順番に各寮の寮長たちが寮生を案内していた。

すると、橘さんが立ち上がった。

立夏 「改めて、菫寮寮長の橘立夏だ。寮長と呼んでくれればいい。これから、学校内と寮を案内する。新入生は私に付いてくるように。ほかの寮生は明日の会議の準備を進めてくれ。」

菫寮寮生 「はい。」

菫寮の寮生が出ていくと寮長は僕らを見た。

立夏 「まだまだ分からないことが多いと思うが明日からの授業で説明していく。では、案内する。はぐれないよう付いて来てくれ。」

学校内を案内してもらい、寮に着くとほかの菫寮の寮生と副寮長がいた。

優 「寮長。会議の準備が終わりました。確認をお願いします。」

立夏 「分かった。一条、部屋の案内を頼む。」

優 「分かりました。」

寮長がほかの寮生と行ってしまうと、副寮長が僕らをそれぞれの部屋に案内した。

優 「最後は、君たち二人だ。この部屋だよ。」

晴樹 「あ、あの、副寮長。」

優 「何だい?」

晴樹 「…寮長の怪我、早く治りますか?」

優 「…ふっ、大丈夫。あの方は、強いお方だから。数日で治してしまうと思うよ。」

晴樹 「良かった…」

俊 「あの、どうして寮長だけが女性なんですか?見た限り、男しかいないと思ったんですが。」

優 「その理由はよく分かっていないんだけど、今年も男ばかり揃ったね。世界論の授業でも習うけど、この世界は謎がいっぱいでね。僕の予想では、この学校の授業はよほどの覚悟がなければ務まらないほど厳しくて、女性には厳しいものが多いからではないかと思ってる。」

俊 「では、寮長も大変ではないですか?」

優 「でも、寮長はああ見えてこの学校一の実力を持っていると言われている。女性だと見くびっていると後悔するよ。」

俊 「い、いや、見くびっている訳ではないんですが…」

優 「まぁ、授業を受けていれば寮長たちのすごさが分かってくるはずだ。じゃあ、明日からの授業に備えて早く寝るように。」

俊 「は、はーい。」

晴樹 「おやすみなさい。」

優 「うん、おやすみ。」

副寮長が出ていくと、僕らの机には多くの教科書が揃えられていた。

俊 「…喜んでいいんだよな?」

晴樹 「何が?」

俊 「一度は死んでしまったけど、また、生きるチャンスがもらえたってことだろ?」

晴樹 「…チャンスか。たしかにそうだね。」

俊 「晴樹は、寮長が戦うのを見たんだろ?やっぱり、強かった?」

晴樹 「…んー、僕を襲おうとしてきた獣は一発で倒していたよ。それに僕は、全く獣に気づかなかったけど、寮長は囲まれたって言ってた。強いんだと思う。気配とか分かるのかな。」

俊 「へぇ、すごい人なんだな。何だか、ほかの寮長の方が強そうだなって思ってさ。女性だから、そう感じるのかな。」

晴樹 「でも、寮長になるくらいだから、やっぱり強いんだよ。何か、安心感もあるし。」

俊 「まぁ、そうだよな。そろそろ寝ようか、眠くなってきた。」

晴樹 「うん、おやすみ。」

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