【6話】「ただいま、明日へ」
夕暮れの街に、不穏な音が響いた。
鐘楼から鳴り渡る非常の鐘。商人たちが荷を放り出して逃げ惑い、兵士たちが門へ駆けていく。
「亜魔の群れだ!」
「北門を突破されるぞ!」
街を飲み込むような叫びに、ギルドの酒場は一瞬で静まり返った。
次の瞬間、〈銀百合〉は立ち上がっていた。
「行くわよ!」
ミリアの声に、全員が頷く。
ユウも立ち上がり、木剣を握り締めた。――まだ正式加入はしていない。だがもう迷いはなかった。
北門。
押し寄せるのは、獣の骨と腐肉が融合したような亜魔たち。十や二十ではない。黒い波のように地を覆っている。
盾を構えた兵士が吹き飛ばされ、火矢の列が押し潰される。
「ガロン、正面を抑えて!」
「任せろ!」
巨盾が地に突き立ち、城門前に壁を築く。
リゼが屋根の上に飛び乗り、矢を雨のように放つ。
ノエルが詠唱を終えると、氷の槍が並び立ち、突進する亜魔を貫いた。
それでも、数が多い。
城門の板がぎしぎしと軋み、崩れかけていた。
「ユウ!」
「分かってる!」
息を吸い、踏み込みを半歩だけ遅らせる。
突進してくる大柄な亜魔が盾に体当たりした瞬間――ユウの剣が横から突き込んだ。
内部に魔力が走り、肉体が痙攣する。そこへガロンが盾で叩き伏せ、リゼの矢が頭蓋を貫いた。
「次、左側だ!」
「行く!」
仲間と声を重ね、呼吸を合わせる。
サザンカの教えが生きていた。仲間の動きを“風”として読み、遅らせるべき一撃を遅らせ、急がせるべき一撃を急がせる。
その連携は、戦場を確実に押し返していった。
やがて、鐘の音が鳴り止む。
街に広がるのは、安堵の声と歓声だった。
市民たちが涙ながらに冒険者たちを抱きしめ、兵士が剣を掲げる。
「銀百合! 銀百合だ!」
「新しい剣士もいるぞ! 見たか、あの一撃!」
ユウは肩で息をしながらも、まだ胸の奥に熱を抱えていた。
守れた。仲間と一緒に、この街を。
翌日。
ギルド本部の大広間で、正式な式典が開かれた。
冒険者ギルド長が宣言する。
「ここに、〈銀百合〉をAランクに認定する!」
歓声と拍手が轟く。
その壇上で、ミリアが一歩前に出て、振り返った。
「そして――新たに剣士ユウを正式な仲間として迎える!」
視線が一斉に注がれる。
ユウは胸を張り、深く一礼した。
「……よろしくお願いします!」
ガロンが腕を組み、ニヤリと笑う。
「やっと正式か。まあ、初めから一緒に戦ってたがな」
「今度からは酒代も割り勘だよ」リゼが茶化す。
「あなたの存在で戦術の幅が大きく広がる。頼りにしてるわ」ノエルが真顔で告げた。
ミリアは静かに微笑み、右手を差し出した。
「ユウ。あなたがいてくれるなら、私たちはどこまででも行ける」
「……俺も、あなたたちとなら」
その手を強く握り返した瞬間、心の奥に新しい誓いが芽生えた。
(俺はもう、外様じゃない。仲間だ。これからは――共に歩む)
式典が終わり、夕暮れの街に戻る。
石畳を照らす夕陽の中で、仲間たちと歩く。
子どもたちが駆け寄り、笑顔で花を差し出した。
「勇者様、ありがとう!」
「違うよ、俺は勇者じゃない。ただの冒険者だ」
そう答えると、子どもたちが笑って首を振った。
「でも、ぼくたちの街を守ってくれたんだもん!」
ユウは一瞬、言葉を失い、それから小さく笑った。
(……ただいま。ここが、俺の居場所だ)
仲間の声と笑いが背を押し、夜の街へと溶けていく。
新しい冒険は、ここから始まる。
――
次回、「凍てつく峠のエスコート」




