【4話】「銀百合の一座」
ギルドの扉口で、淡い金髪が朝日に揺れた。
聖女服の裾を軽く持ち上げ、女性は柔らかな微笑みを浮かべる。その後ろには、巨盾を背負った大男、軽やかに動く斥候、分厚い魔導書を抱えた魔導士――全員が、一目で只者ではないと分かる。
「……あなたがユウね?」
「そうだ。君たちは?」
「聖女ミリア。こちらは重盾のガロン、斥候のリゼ、魔導士のノエル。私たちはAランクパーティ〈銀百合〉よ」
その名を聞いた途端、周囲の冒険者たちがざわめく。〈銀百合〉は地方の防衛戦や王都での重要任務で幾度も功績を挙げ、若手からは憧れの的とされる存在だ。
「聞いたわ。灰鼠の洞窟で“遅らせる一撃”を使ったんですって?」
「……そうだな。仲間の隙を活かすための剣だ」
「面白い。私たちに合うか、試してみましょう」
ミリアの提案は単刀直入だった。
――模擬戦で、実力と連携適性を確認するというのだ。
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郊外の訓練場。砂地に立つ五人を囲むように、見物の冒険者たちが集まる。
試合形式は四対一。ユウが防衛側で、〈銀百合〉全員を相手にする。
「遠慮はいらない。全力で来い」
「言ったわね?」ミリアが微笑む。
開始の合図と同時に、リゼの姿が霞のように消えた。背後からの接近――だが、草の揺れと足音の間隔で位置を読む。振り向きざま、木剣の切っ先を低く滑らせ、リゼの突きを受け流した。
「……へぇ、速い」
「こっちもね」
その一瞬を突いて、ノエルが詠唱を終える。足元の砂が鎖のように絡みつく。
ユウは踏み込みを半歩遅らせて鎖を切り抜け、ガロンの巨盾が迫るのを横跳びでかわす。
「ほう、あれを躱すか!」
「重いだけじゃないな、その盾……!」
次の瞬間、眩しい光が視界を焼いた。ミリアの光魔法だ。視界を奪う――普通ならここで終わる。
だがユウは、耳と足裏の感覚だけで地形と敵の位置を把握し、盾の外周へと回り込む。
木剣の先がガロンの脇腹に触れた瞬間、試合終了の鐘が鳴った。
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「……認めるわ」
ミリアが手を差し出す。
「連携を崩さず、自分の間合いを通せる剣士は貴重よ。正式にうちに来ない?」
「いいのか? 俺はまだDランクだぞ」
「実力はランクじゃ測れない。あなたの剣は、仲間を活かす剣だもの」
周囲から拍手と歓声が上がる。
ユウはその手を握り返した。
「よろしく頼む」
「こちらこそ」
加入の祝杯は、街の酒場で開かれた。
ガロンは豪快にジョッキを傾け、リゼは隅でひっそりと笑い、ノエルは魔導書を閉じて珍しく杯を受け取った。
「これからは依頼の規模も跳ね上がる。覚悟はいいか?」
「望むところだ」
ジョッキを打ち合わせる音が響き、夜は笑い声で満ちた。
その笑い声の中に、疑いや不安の影はどこにもなかった。
(これから、この仲間たちと戦っていく――)
ユウは心の中でそう繰り返し、杯をあおった。
――次回、「火口狼の巣」




