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最近の勇者は追放され過ぎている  作者: Naoya


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【3話】「初依頼、灰鼠の洞窟」

 朝の街は、煙突から立ちのぼる白い湯気と、パン屋の甘い香りに包まれていた。

 冒険者ギルドの扉を押し開けると、依頼掲示板の前に人だかりができている。


「……これ、行きます」


 ユウが札を剥がして受付に差し出すと、受付嬢は目を瞬かせた。

「灰鼠の洞窟救援? 先行パーティが戻ってなくて……危険度は中の上よ」

「構いません。人数は?」

「現時点で行けるのはあなたと、弓手のカナ、薬師のボルグの三人ね。現地で合流できる可能性はあるけど……」


 カナは小柄な少女で、背に短弓を背負い、快活そうな目をしている。

 ボルグは無口な中年男で、大きな薬箱を背負っていた。


「俺はユウ。道中で手信号と動き方を合わせたい」

「了解!」

「……問題ない」


 出発。足取りは軽い。山での鍛錬がまだ体に残っており、呼吸は深く、脚は自然と前へ出る。

 半日で洞窟前に到着した。口を開けた闇からは、冷たく湿った空気が流れてくる。


「右壁沿いで行く。目印はこれだ」


 ユウは袋から白い粉を取り出し、岩肌に矢印を描く。

 サザンカから教わった迷宮帰還の基本だ。帰り道で左右を反転させれば迷わない。


 洞窟内は薄暗く、天井からぽたりぽたりと水滴が落ちている。

 最初の分岐。左から腐臭、右からは微かな風。

「右だ。風は出口だ。生きてる仲間を先に確保する」


 奥へ進む。床の砂に擦れた跡があった。二人分の靴跡に、引きずったような線が一本。

 ユウは膝をついて触れる。まだ湿っている。半日以内だ。


「急ぐぞ」


 曲がり角を抜けた瞬間、視界の端で目が光った。灰色の毛並み――膝までの大きさの鼠だ。

 牙は鉤のように曲がり、背には骨の突起が覗く。


「下がって構えろ。カナ、前方二射。ボルグ、煙玉準備」

「了解!」

「……任せろ」


 ユウが地を踏みしめ、木剣を横薙ぎに払う。

 刃先に通した魔力が灰鼠の動きを鈍らせ、その隙にカナの矢が喉元を射抜く。

 煙玉が弾け、狭い通路に白煙が広がった。鼠たちは匂いを嫌って散っていく。


「退け!」


 三人は連携して後退。煙の向こうで鼠の爪が床を引っかく音が遠ざかる。


 さらに進むと、小広間に出た。

 壁にもたれた若い男がうっすらと目を開く。足をひどく捻っているようだ。


「……助かった、のか」

「まだ途中だ。動けるか?」


 応急処置をし、彼を入口まで戻す。その途中、カナが唇をかすかに震わせた。

「ねぇ……残りの二人は?」

「必ず探す。順番は間違えない」


 再び奥へ。

 通路には灰鼠の爪痕が続き、その先で――いた。短剣を握る少女と、斧を構える青年。

 背中を合わせ、息も絶え絶えだ。

 その正面には、他の灰鼠より二回り大きい個体――灰鼠の王。


「交代だ!」


 ユウが王の前足を木剣で叩き落とす。切っ先に通した魔力が衝撃を内部まで響かせ、王が体勢を崩す。

 カナの矢が目を貫き、ボルグの瓶が顎下で割れ、刺激臭が広がった。

 王が仰け反った瞬間――ユウは半歩だけ遅らせて踏み込み、喉奥を突き抜いた。


 崩れ落ちる巨体。

 少女は涙をこぼし、斧の青年はその場に座り込んだ。


「帰るぞ。話は外だ」


 帰路、足を負傷した男が震える声で言った。

「……怖かった。引き返すべきだった」

「引き返す判断は勇気だ。生きていれば、次は賢く戦える」


 地上の光が見えた。

 三人を救出し、全員が生還。ギルドの扉を開けると、酒場から歓声が沸き起こった。


 その中、静かにこちらを見つめる一人の女性がいた。

 淡い金髪の聖女服。背後には巨盾を背負った男、軽やかな斥候、魔導書を抱える魔導士。


「……あなたがユウね?」

「そうだ。君たちは?」

「聖女ミリア。Aランクパーティ〈銀百合〉よ。――試してみましょう、あなたの剣が私たちに合うかどうか」


 その瞳は、真剣そのものだった。



――次回、「銀百合の一座」

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