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最近の勇者は追放され過ぎている  作者: Naoya


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【15話】「聖堂の決断」

 朝靄の聖都は、鐘の音で目を覚ます。

 評議会の保留から一夜。聖堂から〈銀百合〉へと使いが来た。封蝋は深紅――枢機卿の紋。文面は簡潔だった。


本日、午下の刻。

大聖堂にて「奉剣の儀」を行う。

併せて、強化片問題の暫定裁定を告知する。


 ミリアが息を整え、皆を見渡す。

「向こうは“公の場での決着”にしたいのね。……怖れずに行きましょう」


 ユウは頷いた。

(弱く無能な者は切られる。なら、俺は違う。役立つ者として立てばいい)



 大聖堂の中央、光の柱が床の白大理石に線を描く。

 参列する聖職者、騎士団、ギルド代表。市井の人々も外回廊を埋め、静かなざわめきの海となっていた。


 枢機卿ヴァルドが壇に立つ。

「昨今の闘技祭で露見した“強化片”の件、ならびに工房における不正構造物について、聖堂は暫定の裁定を下す」


 空気が張り詰める。

 ノエルが羊皮紙を握り、ミリアは静かに目を閉じた。


「一つ。強化片の運用は当面、全面停止。刻印板は封ぜられ、監査に付す。

 一つ。関係する工房は一時閉鎖、指揮系統を再編。

 一つ。冒険者ギルドならびに騎士団は、共同の査察班を置き、市民への周知を行う」


 広間にざわめき。

 ガロンが低く息を漏らす。「通ったな」

 ノエルが小声で応じる。「“当面”だけど、やるべき線は越えた」


 ヴァルドは続けた。

「そして――奉剣の儀を行う。神剣が呼応した者が、真に“役立つ者”かどうかを、神の前で確かめる」


 視線が一斉にユウへ向く。

 ユウは前へ歩いた。足裏が石を確かめ、胸の鼓動が一定のリズムを打つ。

(俺は、ここで揺らがない)



 水晶に封じられた神剣は、近づくほどに冷たい光を帯びる。

 司祭が祈りを捧げ、封の術式が一段だけ緩む。

「手をかざし、名を述べよ」


「ユウ」

 指先が光に触れた瞬間、胸の奥で何かが鳴った。細い糸が結ばれ、剣の内側でこだまが返る。

 大広間がざわめき、外回廊でため息が広がる。


 同時に、床から石の守りガーディアンがせり上がった。

 儀礼の守護像――審査のための試練だ。

 石槌を構え、鈍い光を放って一歩目を踏む。


「審査形式は“保全”。破壊は不可、抑え込みをもって合格とする」

 審判役の修道騎士が告げた。

 ユウは頷き、木剣を握る。

(壊さず止める。なら――遅らせる)


 石槌が唸り、空気が沈む。

 ユウは前へ出るのではなく、半歩だけ“遅らせて”横へ滑った。

 柄で槌の柄元を軽く叩く。通した震えが関節へ伝わり、ガーディアンの腕が半拍遅れる。

 すぐさま足首の継ぎ目へ、刃の背でコツ、と打音。

 石の足がわずかに沈み、巨体の重心が崩れる。


 観衆にはただ、石の巨人が“よろめいた”ように見えるだろう。

 ユウは追わない。呼吸を刻み、巨体が姿勢を戻す“直前”に、胸郭の合わせ目へ指先で振動を刺す。

 石の内側で音が噛み合わず、駆動が鈍る。


 ミリアの声が静かに重なる。「結界、薄く」

 彼女の薄膜がガーディアンの手首をやわらかに包む。

 ガロンが一歩出て、盾を“壁”ではなく“支え”に変え、巨体の落下方向を誘導する。

 ノエルは氷結を使わない。代わりに摩擦を上げる小術式を床に描き、滑りを止めた。

 リゼの綱が最後に掛かり、巨腕を引き戻す。


 ユウは打たない。ただ、もう一度、胸郭の合わせ目に“遅らせる”。

 石の巨人は静かに膝をつき、動きを止めた。


 審判の声が響く。

「抑え込み成立――合格」


 広間に拍手が波紋のように広がった。

 ユウは深く息を吐く。

(“壊さず止める”。役に立つ形で終わらせる。それが、俺の剣だ)



 儀の直後。

 控えの回廊で、ヴァルドが一人、柱の影から現れた。

「見事だ。神剣は君を嫌わぬらしい」

 声は柔らかいが、芯は冷たい。


「……ありがとうございます」

「誤解なきよう。讃えているのは“成果”だ。聖都は成果を評価する。弱く無能な者は退場し、役立つ者が残る。単純だろう?」

 ヴァルドは指先で柱を叩き、石の反響を確かめるように目を細めた。

「ただし、強さは測られる。測れぬ強さは、秩序にとって毒だ。――君の力は、どれほど“測れる”かな?」


 問いは挑発ではなく、公式の確認のようでもあった。

 ユウは目を逸らさない。

「必要な場所で必要なだけ使います。足りなければ鍛えます。……それが、ここで生きる条件でしょう」


 短い沈黙。やがて枢機卿は微笑だけを残し、踵を返した。

「ならば、当面の居場所は与えよう。共同査察の“前衛”に〈銀百合〉を指名する。聖都は君たちの槍を必要としている」


 ミリアが小声で囁く。「……誘いでもあり、枷でもあるわ」

 ノエルが頷く。「管理下に置き、露出を上げ、同時に“測る”。賢い手だわね」


 ユウは木剣の柄を握り直した。

(構わない。測られる場所で、役に立てばいい。弱い者は切られる――なら、俺は切られない側でいる)



 日暮れ。

 聖堂の階段に座り、サーラが空を見上げていた。

 顔色はまだ薄いが、瞳は強い。

「止まったね……あの研究」

「当面は、ね」リゼが言う。「でも、隠れて動く頭はいる」


「だから、私たちが前に立つ」ミリアが笑う。

 ガロンが立ち上がり、肩を鳴らす。「査察の先陣、やってやるさ」

 ノエルは報告書の束を抱え直し、「市への周知を急ぐわ」と踵を返す。


 ユウは壇上の神剣を振り返った。光は静かで、しかし目を離すと耳の奥でまだ微かな音が鳴っている気がする。

(強さは、ここに繋がっている。俺は役に立つために使う)


 遠くで、市門の見張りが交代のラッパを吹いた。

 新しい任務の合図だ。


「行こう」

 ユウの声に、仲間たちが頷く。

 聖都の影の濃い路地へ、〈銀百合〉は再び足を踏み出した。

――次回、「封印宣告」

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