【14話】「揺れる評議会」
闘技祭の翌朝、聖都は異様な熱気に包まれていた。
昨日の試合――神剣に呼応した男、ユウの圧倒的勝利が街中の話題になっていた。
露店では「銀百合の剣士」の木札が売られ、子供たちは棒を振って真似をする。
英雄として祭り上げられる一方で、政治の頂では静かな波が立ち始めていた。
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聖都中央評議会。
七つの旗と聖紋が並び、各国の代表、教会、騎士団、ギルドが円卓を囲んでいる。
その中央には、〈黒鉄の塔〉から押収された図面と刻印板。
ミリアとノエルは提出者として立ち、ヴァルド枢機卿が議長席に腰を下ろしていた。
「闘技祭で用いられた強化片は、この刻印板と同一構造。すなわち教会工房が製造し、騎士団へ供給したものです」
ノエルの声が静寂を切り裂く。
議員たちがざわめき、数人が小声で協議を交わした。
「これは……事実か?」「まさか、祭りの競技で……」
ヴァルドが片手を上げ、静寂が戻る。
「証拠は確かに確認した。だが、強化技術そのものは国家防衛の一環だ。闘技祭での使用は誤りであったとしても、意図的とは断定できまい」
「では、なぜ一般闘士に配布されていたのですか?」ミリアが一歩前へ出る。
「“無能を切り捨てる”ためですよね?」
会議室が凍りついた。
彼女の言葉は、昨日の闘技祭での戦いと、市民の口にする“追放”という言葉を重ねるものだった。
ヴァルドはゆっくりと立ち上がる。
「弱者が退くのは自然の理。強き者が立つのもまた理。君は理を否定するのか?」
「否定はしません。ですが、それを“神の理”と呼ぶのは違う」
ミリアの声は揺れなかった。「人が人を捨てる行為を、神の意志にすり替えないでください」
ヴァルドは瞳を細めた。
「勇ましい。――だが理想だけでは世界は動かぬ。君たちのような者が、最も制御を乱す」
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そのころ、評議会前の広場では、ユウたちが結果を待っていた。
リゼは衛兵の動きを見張り、ガロンは壁際で腕を組む。
「中は静かだな」
「静かほど怖い。……政治ってのは、剣より重い」
ユウは拳を見下ろした。
昨日の歓声がまだ耳の奥に残っている。
(強さは人を動かす。だけど――どんな“力”があれば、人は救われる?)
扉が開き、ミリアとノエルが現れた。
その表情は沈痛だが、誇りを失ってはいない。
「決議は保留。刻印板は一時封印。正式な監査は一月後に延長されました」
「延長……つまり、時間稼ぎか」ガロンが唸る。
「ええ。ヴァルドは“聖堂の判断を仰ぐ”とだけ」ノエルが眉をひそめる。「つまり、教会が最終決定権を持つ形に戻した」
「でも、封印までは通ったんだろ?」リゼが口を挟む。「それだけでも大きいじゃないか」
ミリアは頷いた。
「ええ。少なくとも、もう“獣を造る研究”は表では動かせない」
ユウは静かに息を吐いた。
「だったら、俺たちの勝ちだな。……今はまだ」
ノエルが彼の言葉に微笑む。
「そうね。あなたの戦いが、評議の空気を変えたの。民の目が、“強さ”をどう見るかを」
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夕暮れ。聖堂の鐘が鳴る。
塔の上からヴァルドが広場を見下ろしていた。
群衆の中に立つユウの姿を見つめ、低く呟く。
「強さを誇る者ほど、最も危うい。
……“均衡”を乱す存在を、神は許さない」
その声は鐘の音に溶け、闇へと沈んでいった。
――次回、「聖堂の決断」




