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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜行

「先生はよく、尾崎豊の話をしますけど…」


「尾崎豊は夜の校舎の窓ガラスは壊していないそうですよ」


夜の校舎、三階の廊下は窓の外に月が視える


静謐な騒音の最中(さなか)には、僕と少年の二人だけが存在していた

言いながらも、彼はバールで窓ガラスを叩き割る手を止めない


防犯設備はあらかじめ僕が止めている

しかし、これだけ派手にやれば近所の誰かが通報する可能性は十分に有った


「忠勇なる助手よ、もうすぐだ」

僕は彼の方を振り返らずに言った

事実として、あと一部屋の窓ガラスを破壊すれば学校の窓ガラスは総て粉々になる

前人未到だった


「僕、思うんです」

少年が言う


「校舎を壊しても学校は終わらないし、社会とかもそうなんじゃないかって…」


「ならば、何故君は今ここに居る?」


話を遮る形にはなってしまうが、僕は彼の言葉に口を挟んだ

「それは…」少年が口籠る

互いに、ガラスを割る手は止めていなかった


「それが答えだ」


「さあ、そろそろだ!」


会話をしている内に、校舎の窓ガラスは一階から三階に至るまで総てが砕けていた



僕たちはようやく、バールを手放すと呼吸を整える

落ち着いてみて初めて気付いたが、砕けたガラスが街灯が作る微かな光に照らされて、とても綺麗だった


僕たちはガラスの破片を躰中に浴びてあちこち血塗れだったが、興奮からか痛みは感じなかった


「せっかくだから、もっとすごい事をしよう」


僕は少年に提案した

彼もまた、仔犬の様に瞳を輝かせて僕が何を言うのかを見守っていた


「机を全部、窓から投げ捨てよう」


現実に、そんな事を行う体力が僕たちに残されているのかは解らなかった

ただ、「確実にやったら楽しそうだ」という事だけは共通の認識の中に有った


成し遂げてもいない内から既に抱き合って喜びたい衝動が有ったが、僕たちは言葉も交わさずに窓から机を次々と投げ捨て始める


明らかに肉躰は疲労しきっている筈だったが、躰は機械の様に爽快な投擲を実行し続けていた


少しすると、警察を意味する騒がしいサイレンが聞こえ始めた

僕は助手の手を引くと、校舎の裏口に止めていた車に急いだ


階段を降りる

二階に着く

一階に着く…

裏口の、まだ破り忘れていたドアのガラスを叩き破りながら僕たちは外に飛び出した


車に乗り込む

僕たちは、どうにか誰にも見つかる事なく学校を去る事が出来た様だった




「この勝利は、我々二人のものだ」


山奥の道路

夜景の名所でもあるらしい

僕たちは、街の中心に点滅するパトカーの光を車中から視ていた


君の唇に自分のそれを重ねる

辿々しい粘膜が懸命に僕を求め、貪った


「これは勝利でしょうか、先生」


暗闇の中で抱き合いながら、君がぽつりと言う


「僕にも解らない」


「でも」


「共に歩いてくれて、ありがとう」


車のドアは入念に目張りされている

後部座席からは、僕たちを眠りに誘う煙が絶えず供給され続けていた


「僕、なんだか眠いです」


「僕もだ」




「おやすみ」


僕たちは、互いの優しい体温を感じ合いながら静かに眼を閉じた

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