プロローグ
この物語はフィクションです。実在の人物、団体とは一切関係ありません。あらかじめご理解いただければ幸いです。
無楽有
「今年も、あの悪夢がやってくる。」
重苦しい空気の中、村長の声が響く。雨季の終わり。それは、この国の民への、過酷な年貢の徴収の始まりを告げるものだった。
この国、パールジャン王国の年貢の徴収率は他国と比べ物にならないほど高い。なぜなら、現国王であるゲルシ2世は国民に還元することなく、王族や貴族、上級国民の私腹を肥やすためだけに非常に高い税率を国民に課しているからだ。全人口の8割を占める平民の声は、政治に全く反映されない。それどころか近年の国の政策では、自国民の税金を隣国からの貴族の留学生の生活費に充てているという始末だ。
「このままじゃ俺達の未来はない…。」
「どうせ、世襲の坊ちゃん議員様たちには俺らの苦しさなんて理解できねぇんだよ」
村人たちは秘密警察に聴かれることのないように、力なく、ひっそりとつぶやく。
「ねえ、お父さん。どうすればこの国の偉い人たちは、僕たちに優しくしてくれるの?」
幼い息子にそう尋ねられ、父は迷った。考えた末に父は、息子に願いを託すかのように言った。
「そうだな、クラーク。お前が頑張って偉い人を説得すれば、少しは良くなるだろうな。」
父は息子の目を見てはいなかった。ただ天井を、いやその先の空を見つめるだけだった。
息子はその言葉の真髄を理解できたのだろうか。少しの間も置かずに、息子は答えた。
「わかった!僕が頑張って王様たちを説得するよ、そうすればきっと、みんなのくらしもよくなるよ!」
父は無邪気な息子の笑顔を見つめながら、変わることのないであろうこの現実に静かに絶望した。