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リトライ

作者: 海月


―――今度こそ、やってみせるから。

そう決意し、私はゆっくりと屋上の扉を開ける。

キィーと音を建てて開く扉はいつもより重く感じる。

扉を開いた先には、見慣れた一人の女子高校生。

「ねえ、君大丈夫?」

何が何でも、この子を救って見せる。

「え…?」

「なんか悩んでそうだったから。」

「あ、大丈夫大丈夫!」

「なら、良かったよ。こんな寒い日に屋上で何してるの?」

「ちょっと、教室に居づらくて。貴方は?」

「んー、なんとなくかな。」

「そっか。」

「あーあ。なんで学校来なくちゃならないんだろ。」

「ほんとにね、めんどくさいし。」

「でも学校に来ないと出席日数が足りなくて留年になっちゃうし。」

「うん。だから来なきゃだよね」

「…もうちょっと、ここにいていい?」

「いいよ。」

「ここ、居心地いいから。」

「私、邪魔なら違うとこ行くよ?」

「大丈夫、邪魔じゃない。なんならいてほしい。」

邪魔なはずあるか。君がいないと私は、

「わかった。ありがとう。」

「…なんか悩みあるなら聞くよ。暇だし。知らない人が何言ってんだよって感じなんだけどさ。」

「…じゃあ、話してもいーい?知らない人だからこそ、話しやすいから。今はなんか、誰かに聞いてほしい気分で。」

「うん。なんでも話して!」

「ありがとう。さっき私、教室に居づらいっていったでしょ?」

「うん。」

「あれね、教室に仲がいい子がいなくて。なんならちょっといじめ?みたいなことされててさあ。みんな、私のこと無視してくるんだよね。多分クラスの中のリーダー的な子が言ってるんだと思うけど。だから仲良くなろうと思ってもなれないっていう。」

「それはいじめみたいじゃなくていじめ、だよ。」

「やっぱり…?まあ先生がいるときは普通にクラスの子と話せてるから先生にはバレないんだけど。」

「先生に相談したりはしないの?」

「それはできないかなあ、これ以上ひどくなっても困るし。」

「それもそうか。…そうなった原因は?」

まあ、知ってるんだけど。

「原因はたぶん…」

彼女の声のトーンが少し下がる。

流石に干渉しすぎたか…?

少しの間があり、彼女はポツポツと原因であろう過去を話してくれる。


「あの子、ずっと一人で小さいぬいぐるみに話しかけてるよね」

「なんか気味悪いよね」

「あんま近づくのやめとこ」

「そうだね」


「ってことがあって、それが原因なのかなって思ってる。まあ、私がこんなんだからなんだろうけどね」

無理やり笑われるのは…嫌だな。やっぱり、私が救わなければ。

「ぬいぐるみ、好きなの?」

「…大好き。私の、初めての友達だから。」

「今ここにそのぬいぐるみ持ってきてるの?」

「うん。このかばんの中に。」

「見せてもらってもいーい?」

「いいよ。」

「ありがとう。」

やっぱり、笑っているのが一番いいな…。ずっと、笑ったままでいてほしい。

「あれ、ぬいぐるみ…ない…」

彼女はカバンの中をガサガサと探すが、見つからない。

「どこかに落としたとかは?」

「でも、かばんの中にいたはずなのにっ!」

「どんなぬいぐるみなの?」

「くまのっ!くまのぬいぐるみ!そんなに大きくないんだけど。どこで失くしちゃったんだろ…」

キーンコーンカーンコーン

チャイムの音が授業の終わりを告げる。

「ごめん。ぬいぐるみ、探してくるっ!」

「わかった。いってらっしゃい」

「うん、またね!」

彼女はバタバタと急ぎ足で屋上を去っていく。

今回は、ちゃんと成功させるよ。だから、待っててね。



「ねえ、君たち。」

下校中の二人の女子高生に話しかける。

「え?誰よあんた。」

「まあ、それはいいとして」

ここで時間を食いたくはない。

「なんなのよ、気持ち悪いわね。で、なにか御用?」

「君たちさ、同じクラスのちょっと変わった子、知らない?」

「ああ、あのぬいぐるみに話しかけてるヤツ?」

「あの子ちょっと気持ち悪いわよね」

「それな!」

「その子をさ、いじめないでもらってもいいかな?」

「いじめたりしてないし」

「そもそも話したことないわよね?」

あーもう、めんどくさいな…。

「君たちは他の子に無視するよう指示しているよね?」

「え…なんでそれを知っていらっしゃるの…!?」

「ちょ、」

「それはいじめに入るんだよ。おふざけで許されることじゃない」

「それはっ…」

「だから、それをやめてほしいんだ。あの子はあのぬいぐるみを、とても大事にしているだけだから。」

「わかったやめる、やめればいいんでしょ!?」

「ありがとう。」

「でも、それならやばくないかしら…?」

「え…?」

「だって私達、あのぬいぐるみが気味悪くなって、学校の焼却炉で燃やしたじゃない…」

「…は?」

「それは言わない約束でしょ…!」

「だって…」

「二人はもう帰っていいよ。これからは、こういうことをしないようにね。」

「今回のことは謝りますわ。申し訳ありません…」

「何やってんの、行くよ!?」

「はいっ」

走っていく一人を追いかけるようにもう一人も走っていく。

しくった…前回とは違う展開だな…。

学校の焼却炉、確認しにいかないと。

急ぎ足で学校の焼却炉に向かう。

向かうとそこには、泣き崩れている見慣れた女子高校生がいた。

「ひっぐ…うぐ…ぅ…」

また、だめだったか。

「私の…私のぬいぐるみっ…」

あの子には、笑っていてほしかったのに…。

ああ、また同じ不思議な感覚がやってくる。

すべての感覚がなくなり、力が抜ける。

眼の前が真っ白になり、やがて見慣れた景色が見えてくる。

次こそ、やってみせる。

そう固く決意し、屋上の扉を開ける。

屋上の扉は、前よりも更に重たく感じる。

次こそ絶対に、救ってみせるから。

「ねえ、君大丈夫?」

ああ、また、やり直し。


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