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hello world  作者: 量産医師
7/12

we meet man

『ソロ』


薄暗い地下の部屋、男性とも女性とも区別が付かない声が聞こえた。周りには試験管や、フラスコといった研究器具の類が大量に並べられており、そこが何かの研究施設だということがうかがい知れる。その地下室に30代前半くらいだろうか?もしかしたら20代かもしれない。丸いめがねをかけ、長めの髪を後ろで束ねた男がいる。ソロと呼ばれたその男は、鮮やかな緑色の液体が入った試験管を置き、後ろを振り返った。


「ん?どうした?」


しかし、振り返った先に、人の姿は見えない。あるのは人形と呼ぶにもおこがましいような、人の形をとっただけの土くれ。しかし、声は確かに聞こえている。


『センジツハッセイシタ、イジョウデスガ、マダツヅイテイルヨウデス』


饒舌だが、どこか人間味を感じない声が、研究室に響き渡る。


「ああ、私も今調査をしているのだがね、どうにも原因が見つからない」


『ソウデスカ、ソロデモワカラナイモンダイガアルノデスネ』


「私だって万能じゃないさ。それよりも、お茶を入れてくれないか?」


『カシコマリマシタ』


暫くのやり取りをしたあと、ソロは再び試験管を手に取り、中の液体を見つめる。背後ではごと、ごと、と音がしているが、それはまったく気にならない。


「この異常なまでの魔力波動、悪い予兆でなければいいのだが…」




開けた視界には、綺麗な小川がサラサラと音を立てて流れている。


鬱葱と茂る森を、勘だけで方向を割り出し、草を払い、枝を落としてまっすぐ突き進む。暫く進み、開けた場所に出ると、その小川はあった。


美しく透明な水がサラサラと流れており、太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。周りに生える草木は、森の中の物よりもさらに青々としており、生命力に満ち溢れていた。


「すごい、綺麗…」


「綺麗です…」


「そうだな」


彩とレミの言葉に淡々と返事を返す。しかし、感動がなかったわけでなく、おれ自身、こんなにも綺麗な川辺に来たのは初めてだったからだ。むしろ、感動でおざなりな返事しか出来なかったのが事実だ。


しかし、いつまでも呆けてはいられない。


「この川を西側に進もう。昨日見た限りでは、川からそう遠くない場所から煙が上がっていた」


そういって再び歩き出そうとしたが、その袖を引っ張る者がいた。レミだ。


「ねぇ、雅之。あのさ、水浴びしてもいいかな?」


「兄様、私もしたいです…」


そういって俺を見つめる二人。そういえば、ここにきて丸4日、風呂にも入っていない。一応、少量とはいえ水の確保は出来ていたので、濡らしたハンカチで体を拭く位はしていたが、それでもやはり気持ち悪い。女の子となればなおさら気になるだろう。


「そっか、悪い。気づけなかった。俺も気持ち悪いし、水浴びついでに服も洗うか」


当然、服も洗っていないので、少し臭ってきている。この辺で、体を清潔にするのも良いか、と思い。俺はその提案を受け入れた。


「じゃあ、俺は焚き火を用意してるから、二人は水浴びしておいで」


「えっと……ここに居る…ってことですか?」


「仕方ないだろ。この前居たような危険な生き物が居ないとも限らないし。呼んですぐに駆けつける場所じゃないと。そこの岩陰にいるから」


俺の提案に、彩がおずおずと尋ねてきた。確かに、裸で居る時に近くに男が居るのは落ち着かないだろうが、今は物見遊山でここに居るわけじゃない。どんな生き物が居るのかもまだわからない以上、二人を余り遠くに行かせるわけにはいかない。


「覗く気じゃないでしょうね?」


「そこまで落ちぶれてねぇよ。まぁ知り合って数日の男を信用しろっていうほうが無理だろうけど…」


レミに疑いの目を向けられ、どうしたものかと悩んでいた俺だったが、彩が「私は兄様を信頼してます」と言ってくれたので、丸く収まった。





先ほどは邪な気持ちは無いと断言した俺だが、若干後悔している。今、俺の背後十数メートルでは裸の少女二人が水浴びをしていた。大きな岩があり、俺はその死角になるところにいるため、振り向いたところで見えはしないのだが、それでもパチャパチャと跳ねる水音と少女二人の嬌声は正直耳に毒だ。しかも二人とも今まで俺が見てきた中でも郡を抜いて可愛いのだ。今はまだ幼さが残る顔立ちだが、将来はすごい美人になることが用意に想像できる。


しかし、昨日俺を信じてくれて、今では「兄」と慕ってくれる彩を裏切る事は出来ない。俺はひたすら「無心、無心」と唱えながら薪を燃やす作業に専念していた。





「彩、気になってたんだけど、『兄様』って何?」


「兄様は、兄様です。雅之さんの事です」


レミは、今朝から彩の口から出てくる。『兄様』という単語について彩に尋ねた。日本国籍は無い者の、長年の英才教育により日本語は流暢にしゃべれるため、単語の意味は分かるものの、なぜ彩がそれを雅之に対して使うのかが分からない。


「そうじゃなくて、何で雅之が『兄様』なのよ?生き別れた兄妹とか、そういう隠し設定だったわけ?」


「兄様とは、昨日の夜に『兄妹』になりました」


意味が分からない、という顔のレミに、彩が詳しく説明すると、レミは不満げな顔をしてこういった。


「なるほどねぇ、『俺が居場所を作ってやる』かぁ……でもね、彩、口だけなら、何とでも言えるのよ?確かにアイツは悪い奴じゃないのかもしれないけど、簡単に信用してはだめよ?」


「そんな事……」


「分かってるわよ」


思わぬレミの否定の言葉に、すねた顔で反論しようとする彩だが、レミはその口を止め、続けた。


「分かってるわよ、ちょっと意地悪しただけ。だって、彩が私とちゃんと話してくれるようになったのには半年もかかったのに、アイツとはたったの数日でそんな関係になるんだもの。彩がアイツを信じるっていうなら、それで良いわよ」


「レミ…」


「ただ、もしも彩を泣かせるような事をしたら、私は絶対にアイツを許さない」


その目に映るのは、確かな決意。彩を守ろうとする思いがレミにはあった。





彩たちが戻った後、俺も簡単に水浴びと洗濯をしてすぐに出発することにした。当然、二人からは不満の声も上がったし、俺としてももっとゆっくり水浴びをして体を綺麗にしたかったが、出発を急いだのには理由がある。


川辺は確かに水も食料も豊富にあり、楽園ともいえるが、それは他の動物にとっても同じ事。水を求めて来た動物に襲われてはたまらない。川は安息の地であるが、安全ではないのだ。同じ理由から、川のすぐそばを歩くのもかなり危険なので、川から少し距離を取り、川を左手に見ながら川沿いに進む。


時折川を確認しながらも、周囲に気を配るのを忘れない。もしも襲われたときの為に、武器である鉄材はしっかりと持っておく。ちなみにこの鉄材は、先日見つけた飛行機の残骸から持ってきたものだが、なかなか使い勝手がよい。銛の代わりにもなるし、先端が鋭利にとがっているため、若干使いにくいがナイフ代わりにもなる。もちろん、いざという時の武器としてもその辺の木の棒を使うよりも遥かに優秀だ。


その鉄材で邪魔な枝をなぎ倒しながら進みつづける。しばらく同じ景色、ひたすら木、樹、土、岩…だが、それもいずれ終わりを迎えた。


「兄様、これ!」


「ああ、間違いないな」


俺たちが見つけたのは、ただの切り株、しかし、それは鋭利な刃物で切られた断面を見せており、かつ、断面はまだ新しい。つまり、この近くに人がすんでいて、しかもつい最近ここを訪れていることを意味する。


初めて見つけた人間の痕跡、自然と俺たちは胸に期待を抱き、歩を早めた。





切り株を見つけ、暫く歩くと、ついに発見した。小屋だ。辺りは切り開かれた土地になっており、所々に切り株が点在する。小屋は三角屋根となっており、塗装はされていない。しかし木造ながらもしっかりとした作りの小屋で、小屋というよりもむしろ、腰を据えるために作った家とも言える。


「民家だ…!」


「私たち、助かったのね!」


ようやく自分たち以外の人間に会える。そうすれば、人里に下りることも可能だし、そうなれば家は見えたも同然だ。ここでようやく、俺たちの安息が約束された。そう信じて俺たちは心から喜び、その小屋に近づく。


「こんにちわ~!誰か居ませんか!」


しかし、何度扉を叩いても、中からは人が出てくる気配が無い。


「留守かな?」


「いや、居るだろう。人の気配がする」


中からは時折、ぶつぶつと声が聞こえるし、窓からは炊事の煙が上がっている。つまり、中には人がいるはずなのだ。


「すみません!……入りますよ!」


俺は扉に手をかけた。鍵はかかっていなかったらしく、扉は少しさびた音を立てながらゆっくりと開いた。


「こんにちわ~……」


恐る恐る中を覗き込む。中は割りと広く、丸いテーブルにいくつかの椅子。それにいつの時代だと思うような竈や、水の入った巨大なつぼなどがおいてある。しかし、人の姿はどこにもない。


「おかしいな…?」


「雅之、この下じゃない?」


レミが指差すところは、地下に続く階段になっており、そこから薄明るい光が漏れていた。階段は螺旋階段になっており、人の姿は確認できないが、そこからは確かに人の声が聞こえる。


「みたいだな。すみませ~ん!」


俺は一応、階段の上から声をかけてみた。俺たちは言ってみれば不法侵入の状態だ。あちらからしてみればいい気持ちではないだろう。しかし、もう外は薄暗くなりかけているため、今から野営の準備も無しに外に出るのは危険すぎる。背に腹は変えられないと、俺は下に降りることにした。


階段を下りきると、そこは研究室のようになっていた。フラスコのような容器や、試験管、他にも使い道は分からないが、研究用であろう事が予想できる器具が、机の上に所狭しとならんでいた。その机の向こう側に、男がいた。後姿で容姿はわからないが、身長は俺よりも高く、金色の長髪を無造作に後ろで束ねている。


「すみません…っ!」


俺が再び声をかけようとしたとき、突然首筋がぴりっとした。この感じは分かる、危険が迫った時の生存本能が知らせるサイレンだ。先日狼のような動物に襲われるときも感じた。


俺はすぐに後ろに飛びのいた。驚いたレミたちが声を上げるが、かまっていられない。俺が飛びのいた空間には、巨大な鉄槌とも言える土の塊が振り下ろされており、あたれば無事ではすまなかったのだ。


「くそ!」


攻撃を受けたと認識した俺はすぐに反撃に移る。手に持った鉄材でその塊の根元を強打する。確かな手ごたえ。俺の渾身の一撃は、敵のその部位を確かに破壊した。


すぐさま距離を取り、敵と対峙する。


俺の思考はそこで一時中止した。


それは、人ではなかった。それどころか、生き物では無かった。では何なのか。俺はこれにもっとも近い答えを知っている。ただし、漫画の中でだが。


「ゴーレム…?」


それは、アニメや漫画といったファンタジーの中でよく出てくる、大きさ150センチほどの人の形をした土や岩の塊。いわゆる『ストーンゴーレム』と呼ばれる人工生命体だ。もちろん、そんなものは架空の存在であるし、ここ最近でそんなものが作れるようになったというニュースも聞いてない。


俺の放心を他所に、ゴーレムが動き出した。意外と素早い動作で俺に肉薄し、一本だけになった腕を振り上げる。まずい!と俺が身構えたとき。


「ロック、止めなさい」


一言、声が聞こえたと思うと、ゴーレムの動きがぴたりと止まった。俺が声のほうを振り返ると、先ほどの男がこちらを向いている。


先ほどは後姿で分からなかったが、その容姿は意外と若く見える。多めに見積もっても30代といったところか、知的な整った顔立ちで、こんな研究室よりも、池袋あたりでモデルでもしていた方が似合いそうだ。


彼は俺と、レミたちを一瞥し、にっこりと笑った。


「こんにちわ。…いや、こんばんわ、かな?とにかくはじめまして、私はソロバーミュと言います」

非常に遅れましたが、更新です。ようやく主人公たちがサバイバルを終え、人に会うことが出来ました。このあとどうなるのか?

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