Survival and nature
「レミ、それは駄目だ」
水だーと目を輝かせて気に飛びついたレミを俺は引き止めた。こういう場所ではサバイバルの知識が無ければ直ぐに死んでしまう。俺は直前までサバイバル本を読んでいたし、そういう雑学系の本は好んで読んでいたので助かった。いくつかの知識を総動員して、生存にかける。
「えー、こんなに綺麗なのに?」
ウロの水は確かに澄んでいて直ぐにでも飲めそうだ。しかし、俺はその危険性を本を通して知っていた。
「ウロの水は細菌だらけだ、飲んだら1週間は下痢が止まらないぞ」
俺の言葉にうぇ…と顔を顰めてウロから遠ざかるレミ。いいとこのお嬢様がそんな顔するんじゃない。
本格的なサバイバルを始めることになってしまった俺達は、まず、水を探す事にした。人間が生きていくには、水と食料が必要不可欠である。特に、水は大切で、人間は食料なしでも1ヶ月は生きられるが、水が無ければ3日と持たない。
俺は、あるものを探している、それは、
「あった!」
喜びのあまり、思わず声が上がる。
「なんですか?それ、ツタのようですが…」
俺が手にしているのは、一見ただのツタ。だが、
「これをこうして…」
俺は説明をしながら、ツタの根に近い部分と、先端に近い部分を叩き折る、暫く待つと、ツタの先端から水が滴り落ちてきた。
「この水は飲む事が出来る。ほら、貸して」
俺は彩からペットボトルを受け取ると、その中に水を入れた。ツタから滴る水は思いのほか多く、ペットボトルを一杯にするだけでなく、そのまま俺達の喉も潤してくれた。1リットルは出たのではないだろうか?少し苦いが、清潔な水だ。美味い。
「水の確保はどうにか出来そうだ。次は…食料だな」
「そうですね、私もおなか空きました」
えへへ…と照れくさそうに笑う彩。大分俺にもなれてくれたようで、いろいろと質問をされる。働いている場所や、住所など、俺の個人情報は大分知られてしまった。まぁ、別にいいが…
なんにせよ、そろそろ腹も減ってきた。次は食糧確保だな。浜辺に戻ろう。
真っ青な海には、色とりどりの魚達が泳いでいる。俺は木の枝で作った銛で魚捕りに勤しんでいた。因みに、これはただの銛ではなく、俺がサバイバルの本で得た知識を元に作った特製品だ。通常の銛と違い、先端からいくつもの棘が出ており、これにより捕獲率を格段に上げることができる。作るのに時間はかかったが、その効果は抜群だ。
足元をスーッと魚が横切る、体長は20センチほど。息を潜めて狙いをつける。
「よっ!」
確かな手ごたえ、銛を引き抜くと、胴体を串刺しにされた魚が、苦しそうにビチビチともがいていた。これで3匹め、十分だろう。
「よし!」
思わず年甲斐もなく、ガッツポーズをした。やはり俺も男の子という事だ。こういうのはなんだかんだで凄く楽しい。
食料の確保を終え、戻った俺を二人が迎えてくれた。
「雅之!こっち!!」
「な、何だよ。落ち着けって」
「いいから早く!」
戻るなり、興奮するレミにつれられて移動した俺の目に、とあるものが飛び込んできた。
「こいつは…」
それは、どこからどう見ても、飛行機の一部だった。恐らく、翼の先端部だろう。無残に引き裂かれたジュラルミンが痛々しい。
「ねぇ、これって私たちが乗っていた飛行機だよね」
「間違いないだろうね」
事故の悲惨さを飛行機が物語っている。今思えば、よく生きていたもんだ。上空数百メートルから水の上に落ちたのだから、生きているのが奇跡的なのだが、こうして俺達は生きている。
「ほかには何も無いみたい…これだけが、ここにあったの」
もしも他に浜辺に打ち上げられている物があればと思い、辺りを見渡したが特に何も無かった。まぁ、人の死体を発見するよりはまだましだが…
「とにかく、こいつは使えそうだ」
早速俺は、飛行機を物色する。サバイバルの上では何でも使えそうなものは使うべきだ。といっても見つかったのが翼の先端部なので、解体しようにも工具がないと無理だ。
「コイツは使えそうだ…よっと!」
丁度良く、折れて千切れかけの部品があったので、それをへし折る。長さ1メートルほどの細長い棒。おそらく、翼の骨組み部分だろう。先端はねじ切れた事により、鋭利に尖っており、危険ではあるが銛の代わりになるだろう。この危険が多い密林では頼れる武器にもなり得る。
残念ながら、使えそうなものはこれくらいだ。まぁ、見つかっただけ運が良かった。
「さぁ、戻ろう。サバイバル初日にしては、上出来な日だったな」
収穫は多かった。水の確保に、食料の調達、道具の拾得と、幸先のよい一日だった。
昨晩と同じ場所で焚き火をして、捕って来た魚を早速調理する。お嬢様育ちの二人にこういう料理は無理だと分かっていたので、簡単な塩焼きを作る事にした。石を割って作ったナイフで鱗を落としたらそのまま焼く。味付けは海水を蒸発させて作った塩だ。それと、シメジの一種だと思われるキノコ(毒見済み)と、野いちご。素朴な食事だが、二人の評価はかなり良かった。
「ん、おいしいです!」
「ホント、いい味してるわ」
べた褒めな気もするが、俺も食ってみたところ、凄く上手かった。俺の料理が上手いというよりも、素材そのものが凄く美味しい。なんというか、生命力に溢れているような感じがある。
3人で美味しい美味しいと言いながらあっという間に平らげた。辺りも暗くなり、パチパチと焚き火の音だけが聞こえる。
「さて、食料と水の確保も出来たし、明日は密林の奥に行くから、二人とも今日はもう寝ろ」
俺はそういって薪をくべた。パチッと弾ける音が心地よい。
空を見上げて、星を見る。いい夜空だ。
「あれ?何か…」
「雅之さん」
俺が考え事をしていると、後ろから声を掛けられた。彩だ。
「ん?何だ、まだ起きていたのか?ほら、レミも寝てるだろ。もう寝ていいよ」
何だか、シュンとしている彩。何だか子犬みたいだ。
「どうしたんだ?」
「だって、雅之さん。昨日も寝てないです…」
上目使いで俺を見る彩、申し訳ないと思ってるのだろうか…
「仮眠なら昼間に取っただろ。大丈夫だよ」
これは本当だ。彩達に塩の作り方を教えた後、2時間ほど仮眠を取った。その後自然に起きれたほど、十分体力が回復したのだ。ひょっとすれば張り詰めた精神が成す技なのかも知れないが、今のところまったく問題ない。
「でも、ちゃんと夜寝ないと身体に悪いです!雅之さんだって、『サバイバルは体力回復が重要だ』って言ってました!」
やけに食らい付く彩、変なところで強情だな。
「わかった、わかった。じゃあ、もう少しだけ星を見てるから、その後変わってくれ」
そういって彩を寝床に戻そうとしたが…
「じゃあ、私も横で見てます!」
と、ムキになり、俺の隣に腰掛けた。
「はいはい」
これはテコでも動きそうに無い。好きにさせたほうが良さそうだ…
岩棚に背中を預け、空を見上げる。彩もそれに倣う。
しばらく、黙って美しい星空に見とれていた俺だったが、不意に、肩に重みを感じた。何かと思い、見てみれば眠気にやられた彩が俺の肩にもたれ掛かっている。次第に体勢が崩れていき、最期には俺の太ももに頭を乗せる形になった。いわゆる膝枕だ。
「はは、可愛いな」
妹がいたらこんな感じだろうか。彩の寝顔を見て、心がほんのり温まるのを感じながら、俺は再び空を見上げた。
ダイヤモンドをちりばめたような空。心地よいメロディを奏でる波と、焚き火。そこに、彩の暖かさが加わった。
正月が空けた…
更新がおそくなりましたが、hello world第6話、完了しました。作者が知りうるサバイバル知識を総動員させました。