Good night.
夜が更けて来て、辺りは静寂と、淡い闇に包まれた。完全な暗闇にならないのは空に輝く星達と、3人で囲んでいる、煌々と燃える焚き火のお陰だろう。火は、昼間のうちにキーホルダー型の虫眼鏡で太陽の光を集めて起こした。何かの役に立つときが来るかもと思って持っていた物だが、十二分に効果を発揮した。
人は、大きな炎には恐怖を抱くが、小さな、自分で扱える程度の火を見ると、安心感が出て、心が開放的になる。パチパチと爆ぜる炎を見ながら、俺達はしばしの休息を取った。夕食は俺のポケットに入っていたビーフジャーキーと、レミが持っていた数種類のお菓子、それと彩が持ってきた水筒のお茶で済ませた。今日はこれで何とか凌げるが、明日からは自力で確保しなければならない。
「あーえっと、いまさらだけど、ありがとう」
「ありがとうございます」
「ん?」
俺が海水を浴びて塩気の強くなったビーフジャーキーをこれはこれで…と堪能していると、二人が神妙な顔をしている。
「何だ?いきなり…」
「その、助けてくれたし、アンタがいなかったら私達は今頃…」
「うん、私は間違いなく今こうしてなかった」
二人の感謝の言葉を受けて、俺は素直にいい子達だな。と思った。
大人になり、社会に出ると、どうしてもそういう事が苦手になる。相手の好意に素直に感謝したり、自分の非を認めて謝罪をしたり…社会的な立場があったり、仕事が上手く行っててプライドが出てきたりするとそれは尚更だ。
「はは、二人ともいい子だな。素直に受け取って置くよ。こっちこそ、ありがとう」
そういって並んで正座をする二人の頭を撫でる。
「なっ!」
頭を撫でられた事に驚いたのか、目を見開いたレミ、彩は恥ずかしそうに、だがどこか嬉しそうにしている。
「そういえば、俺の名前教えて無かったな。ついでだし、自己紹介タイムと行こうか?」
さらさらとした感触をひとしきり楽しんだ後、俺は提案した。これから暫く一緒にいる仲間だ。名前を知っておかないと不便だろう。もっとも、俺は既に二人の名前を知ってるが。二人とも異論がなさそうだったので、話を進めることにする。
「まず、俺からね。辰乃宮 雅之。22歳。しがないサラリーマンだよ」
「22!?」
簡単な自己紹介を終えた後、レミと彩が驚いたように目を見開いた。
「ああ、何故かかなり上に見られるけどな。過去最高では、20の時に28のおっさんから『年上かと思いました』って言われたさ、ああ言われたとも」
思い出す苦い過去、そんなに老けてるとは思わないのだが、知人曰く、『妙な貫禄がある』との事。うっさいわ。
「そんなに拗ねなくても……でも、妙な貫禄があるから、30前くらいに思ってたわ…」
本当に拗ねるぞこのやろう。はぁ…
「まぁいいや、じゃあ、次は二人な」
これ以上は俺の気が重くなる。それよりも、二人の情報を知っておきたい。俺が話を振ると、彩は佇まいを直し、一礼をした。いい教育を受けているようだ。
「あ、はい。…えっと、九条院彩、16歳です。趣味はお花を少々…」
なるほど、見た目どおりの子のようだ。名前からするに、恐らく家もかなり裕福な方なんだろう。
「次はアタシね。レミリア・ゴッドバード。17歳よ。趣味、ではないけど、バイオリンを3歳のときから習ってたわ。愛称はレミ。お父様と、彩以外には呼ばせないのだけど、特別にアンタも呼んでいいことにしてあげる」
まぁ、見た目どおり日本人じゃないわな。
「レミはツンデレ属性あり、と」
「だ、だれがよ!」
俺がメモ帳に二人の情報を書いていくと、レミが反発した。なんだ、違うのか?
はっはっは。とわざとらしく俺が笑うと、レミは更に顔を赤くして叫び返した。いやぁ、面白い。彩もクスクスと笑っている。俺はこのとき、本当にこの二人に感謝をした。見知らぬ土地に俺一人残されたのでは、もっと暗鬱な気分になるはずだ。しかし、俺は今、こんな楽しい。これは間違いなく、二人が居てくれたお陰だ。
「さて、と。今日はもう寝るか、俺が日の番をするから、二人は先に寝てくれ」
ひとしきり笑い、雑談をした後、俺は二人を寝かしつけた。彩は俺に気遣ってくれてたが、レミはもう限界のようで、彩も横になると直ぐに眠ってしまってた。なんだかんだで疲労が限界だったんだろう。俺は仲良く眠る二人に、上着をかけてやる。二人の寝顔は安らかなものだ。少しは信頼されたのか、ぐっすりと眠っている。
「ふぅ…明日からが大変だ。何としても、二人を帰してあげなければな…」
少女達の寝顔に誓い、決心する。さて、明日から本格的なサバイバルだ。
かなり短くなりましたが、一先ずの区切りです。次回からサバイバル編。拙い知識を搾り出します。