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hello world  作者: 量産医師
3/12

remove a misunderstanding

「はぁ…はぁ…レミ、待って…」


彩は息を切らせながら、自らの手を引っ張り凄い速さで走る少女を呼び止めた。もう息が限界だ。


「まだよ、アイツが追いかけてきてる」


レミが振り返り、後ろを見ると、姿こそは見えないものの、「おーい、そっちに行くな」と呼ぶ声がする。あの声の人物に捕まったら終わりだ。既に彩は奴の慰みものにされてしまった。


「レミ、それなんだけど…」


「しっ!静かに…行ったみたいね」


話しかけるレミを制し、耳を澄ませる。先ほどから聞こえていた声はだんだん遠くなっていく。


「彩、大丈夫?」


「う、うん。あのね、レミ…」


「あの女の敵!最低な人間ね!」


彩は何かをレミに伝えようとするが、興奮したレミは聞く耳を持たない。普段は良い子なのだが、怒ると回りが見えなくなるのがこの少女の短所だと彩は知っていた。今は何を言っても無駄のようだ。


「レミ、これからどうするの?」


「わからない、でも、とにかくアイツから逃げないと…」


立ち上がり、再び歩き出す二人。その影を見つめるものがいた事に気がつく事は無かった。



「ここ、どこかな?」


歩き出して数十分、レミが立ち止まり、彩にたずねた。しかし、彩もそんなこと知るはずが無い。


「さぁ…レミ、何に向かって歩いてたの?」


「いや、特に考えてなかったわ」


レミたちが居る様なジャングルで、行動するには鉄則がある。一つ、自分の進んでいる方角を把握する事。方向感覚が狂いやすいジャングルでは、同じ場所をぐるぐる回り続けてしまう。無駄な行動は体力を消耗するだけでなく、凶暴な動物に出会う可能性があるので、非常に危険だ。まさに、レミたちは愚の骨頂とも言える行動をしていた。


「少し休憩しましょ。そこの岩棚が良いわね」


レミが指差す先には切り立った岩棚があり、休憩するには丁度よさそうだ。


「ふぅ…」


「疲れたね。私、こんなに歩いたの初めて」


脚を放り出して小さめの岩に腰掛ける二人。彩は脚を痛くなった擦りながらぼやいた。


「アタシだってそうよ。はぁ…」「ぐるる…」


「レミ、お腹空いたの?」


「?…今の彩じゃないの?」


ふと聞こえた音は、空腹時の音に似ていた。二人の少女は互いに相手の腹が鳴った物だろうと言い合ったが、すぐにその原因が判明した。


「ぐるるるる…」


少女達の前に現れたのは、一頭の動物。大きさは中型犬くらいだが、顎から飛び出た鋭い牙が、それが大人しい動物でない事を物語っていた。


「さ、彩…」


「レミ…」


恐怖から、声も出ない二人だったが、その動物が大きな口を開け、鋭い牙がはっきりと見えた時、恐怖が限界に達し、声が自然と溢れた。


「きゃああああああ!」


しかし、その声が逆にその動物を興奮させた、一瞬の為の後、大きな口を開き、飛び掛ってきた!


「助けて!」


「OK!!」


その牙が彩に届く前に、その動物は草むらから飛び出した影に弾き飛ばされた。




俺は焦ってた。彩たちを見失って数十分が経過している。女の子二人だけでこの密林をさまよい歩くのはあまりにも危険すぎる行為だ。


「くそ!」


なぜあの時引き止めれなかったんだ、と自分を責めても仕方が無い。とにかく、少女達を探さなければ。


ふと、あるものが目に入った。この密林の中であるはずが無いもの、自分以外の足跡。大きさからいって、彩たちに間違いないだろう。


「見つけた、急がないと!」


足跡を辿り、走る。少女達はすぐに見つかった。かなり歩き回ったのだろう、あちこち泥だらけだが、たいした怪我も無い様子で、岩に腰掛けておしゃべりをしている。直ぐに声をかけようと思ったが、自分が今あの子達にどう思われているのかを思い出した。


「そうだった、出て行っても直ぐに逃げられたら…」


どうすれば誤解が解けるか考えながら近づいていると、少女達の様子が変わった。何かに怯えているようだ。よく見ると、中型犬ほどの獰猛そうな動物が彼女達に襲い掛かろうとする。


「まずい!」


俺が走り出すのと同時に、彼女達が悲鳴を上げ、それに興奮したのだろう。捕食者は牙をむき出し、飛び掛った。


「助けて!」


悲鳴の中、彩の声が不思議とよく聞こえた。


「OK!絶対に助けるぞ!」


走る足に力を込める。牙が彼女達に届く前に、その動物を突き飛ばした。


「大丈夫か!?」


突き飛ばした動物が慌てて逃げ出すのを目で確認した後、俺は振り返り、少女達に話しかけた。


彼女達はひどく怯えた様子で互いに身を寄せ合っている。無理も無い、生まれて初めて密林で迷い、動物に襲われたのだ。俺も、荒事には多少なれてはいるものの、正直、かなり怖かった。彼女達の手前、気丈に振舞ってはいるが……


「もう大丈夫だ。怖かったろ?」


出来るだけ優しく声をかける。泣きそうなまでに怯えている女の子を見るのは心が痛い。



「大丈夫か?」


「ち、近寄らないで」


二人が落ち着くのを暫く待ち、頃合を見計らって話しかけた俺の言葉を、またしてもレミが拒絶した。レミは彩を抱くようにして守っている。


「お前な、さっきも言っただろ、その子は心肺停止で、凄く危険な状態だったんだ。だから、仕方なく人工呼吸と心臓マッサージをして、蘇生させた。分かってくれ」


再三、俺が説明するが、レミの疑惑の目は消えない。


「レミ、その人が言ってる事、本当だと思う」


「…彩?」


「さっきね。私、暗いところに居たの。真っ暗で何も見えない所、暗くて、怖くて、泣いていたの。それでね、もう駄目だ、って思った時、何故かその人の事思い出したの。するとね、唇と胸が何だか暖かくなって……気がついたら、レミが私を抱きしめててくれてた。だから、多分その人の言ってる事は本当」


思わぬところで臨死体験を聞かされた俺は、同時に彩の弁護に感謝した。


しかし、レミはまだ思うところがあったのだろう。まだ俺に文句があるような顔をしている。しかし、俺は聞く耳を持たなかった。それはレミに不満があるわけではなく、レミの背後に先ほどの動物が居たからだ。今まさに飛びかかろうとしている。


「で、でもきゃあ!!」


レミの言葉を遮って突き飛ばす。と同時に、腕に鋭い痛みを感じた。その上、飛び掛られた衝撃で俺は体勢を崩してしまう。


「ぐっ!」


背中にかかる衝撃と、腕に奔る痛みで一瞬気が遠くなる。しかし、気を失ってなんかいられない。俺は自分の体を叱咤すると、左腕に食らい付くそいつの目を、素手で抉った。ぐちゅっと気持ち悪い感触と共にそいつの目玉が半分飛び出す。


「ぎゃん!」


可愛くもない悲鳴を上げ、左腕が開放された、その瞬間に鼻っ面を狙い、殴り飛ばす。横に転がったそいつを見て、一瞬の間に思考を走らせる。こいつは、さっきやられたにも関わらず、再び襲ってきた。恐らく、執念深い性質なんだろう。放置しておくと、後々危なくなる。


そこまで考えると、俺はのた打ち回るそいつの首目掛けて、思いっきり脚を振り下ろした。全体重を乗せた一撃は、綺麗にその細い首筋に吸い込まれ、太めの枝をへし折る様な音を立てた。首の骨を踏み折られたそいつは、舌をだらしなく垂らしながら絶命した。


「あ、あの…」


「場所を変えよう、おいで」


すぐさまそこを離れる。いつまでも彼女達に死体を見せるのは良くないし、地面に落ちた血の匂いで他の肉食獣が集まってきてしまう。


少女達が迷っていたのは海岸から200メートルも離れていない場所なのが助かった。ここなら、視界の利かない密林よりもいくらかは安全だろう。


「つっ!」


噛まれた左腕がズキズキと痛む、シャツを破って包帯の代わりにしたが、まともな治療は出来ていない。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫だ、冬用のスーツを着ていて助かった。そんなに深く食い込んではないよ」


薄着だったら、手首の腱を切られていたかもしれない。それは流石にぞっとする。


「あ、あの…」


俺が傷の具合を確認していると、レミが気まずそうに話しかけてきた。


「えっと、その、悪かったわ。」


「ん?」


何が言いたいのかは察しがついたが、俺は敢えて彼女に言わせる事にした。そうしないとお互いのためにならない。


「えっと、だから、疑ってた事と、酷い事を言った事、それと、助けてくれた事…ごめん…なさい」


「助けた事は、ありがとう。だろ?」


俺が苦笑しながら言葉の使い方を訂正してやると、レミはしゅん、とうなだれた。血を見る事も無かったんだろう。俺の傷口を見る度に、目をそらしては、再び見るという行為を繰り返している。


「ふぅ…まぁ、いいや。気にするなよ」


「え?」


「だから、気にするなって。傷を負ったのは俺の力が足りなかったせいだし、疑ったのも、鞘を守るためなんだろ?言動自体は、行き過ぎな所があったけど、それは恥じる事じゃない。だから、気にするな」


恐らく、責められる事を予想してたんだろう。レミはポカン、とこっちを見ている。まったく、さっきまでの威勢はどこにいった?


「怒らないの?」


「ああ、別に、怒る事でも無いしな、それに確かに役得だったし」


そう、確かに緊急の事態ではあったが、役得だった。見た目は15,6歳だが、彩は、見た目、いや、見た目より遥かに発育が良かったのだ。


気まずい空気にならないように、俺なりに気を使ったつもりだったんだが、やりすぎたようだ。先ほどまでのしおらしさをすて、レミはプルプルと震えながら、怒りを目に表していった。


「こ、この、変態!」


俺は本日2度目の罵声を浴びる事になった。


因みに、彩は意味が分からなかったらしく、レミに代わってポカンとしていた。

ようやく、誤解が解けたようです。さて、これからが本番、作者も気合を入れて執筆します。

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