a misunderstanding
打ち寄せる波の音なんて聞いたのはいつ以来だろうか。
打ち寄せては引いていき、また寄せてくる。心地よい音を聞きながら、俺は自分が生きているのを理解した。
べったりと顔に張り付く海草を引き剥がす。目を開くと、太陽の強烈な光が飛び込んできて、頭がくらくらする。
「ぐぅ・・・あいたたた・・・生きてるのか?」
あの高さから海に落ちて、生きているのは不思議でならないが、ここが天国でないならば、俺は確かに生きている。
貧血のような、気持ち悪さが身体の奥に残っていて、目の前がチカチカするが、暫くするとそれも消えた。
視界の暗転が収まり、辺りを確認する。どうやら、どこかの浜辺に打ち上げられているようだ。正面は青々とした、緑豊かな森、背後は水平線が見える、コバルトブルーの海。一級のリゾート地に来たかのようだ。こんな状況では楽しむ余裕も無いが・・・
辺りをさらにくまなく確認する。すると、見覚えのある服が見えた。
「あれは?・・・!!」
先ほどの少女達だ。俺と同じく、この浜辺に打ち上げられていたようだ。急いで駆け寄る。
「おい、大丈夫か?」
近づいて、脈を診てみる。レミと呼ばれた金髪の少女の方は、問題ない、呼吸もしている。しかし、黒髪の少女、彩の方が・・・
「まずいな、息をしていない」
心肺停止。呼吸も脈も止まっている状態だ。このままではまずい・・・
「くそ!仕方ない」
辺りに人は居ない。すぐにでも蘇生させないと手遅れになってしまう。俺は自動車学校で教わった蘇生術が役に立てばいいが・・・
まず仰向けにし、細い顎を上に向けさせる。口を開き、喉に手を入れる。まだ生暖かい感触があり、心肺停止に陥って、そう時間がたっていない事がわかる。喉の奥に慎重に手を入れると、指が何かに触れた。すぐさま引き抜く。かなり長めの海草が出てきた。これで軌道の確保は出来たはず。
次に鼻をつまんで、彩の口を自らの口で多い、空気を送り込む。確認のために開けた胸元が確かに膨らむのを確認する。口づけをする時に一瞬躊躇したが、構っていられない。命がかかっているんだ。
再度脈を確認するが、やはり戻らない。すぐに彩の側面に移動し、胸元に手を当てて心臓マッサージをする。その作業を何度も繰り返す。
「頑張れ、死ぬなよ!」
聞こえていないだろうが、少女に語りかける。死なせたくない。その一心で人工呼吸と心臓マッサージを繰り返す。すると、ごぽっと言う音と共に、少女が海水を吐き出した。何とか息を吹き返したようだ。
「大丈夫か?おい!聞こえるか?」
すぐさま横に向けさせ、腹部を軽く圧迫して海水を全て吐き出させる。少女はゲホゲホと何度も咳き込んでいたが、それも納まった。これでまずは死ぬ危険からは脱した。と、俺が安心した時。
「この、変態!」
突然レミが起き上がり、俺を突き飛ばした。
「っと!なにすんだ!」
ただ押されただけなので、痛みは特に無かったが、その行動に少し怒りを覚え、声を上げる。
「うるさい!彩に近寄るな、変態!」
少女は彩を守るように抱き、俺に怒鳴り返した。どうやら、何かとんでもない誤解を与えているようだ・・・
「彩、彩!大丈夫?」
少女は何度も彩に話しかける。そのかいあってか、次第に彩の意識もはっきりとしてきた。
「レミ・・・どう、したの?うっ・・・」
彩の意識がはっきりしてくると共に、身体が不調を訴えてきたようだ。彩は気持ち悪そうに口元を押さえている。まぁ、無理も無いだろう。先ほどまで死に掛けていたんだから。
「一先ず、安心だな。俺は、その辺を見てくるから少しの間様子を見ていてくれ」
俺は少女達にそういい残して、場を離れた。ひとまずは大丈夫のようだから、次は、現状を知らなければならない。まずはここがどこなのかを知りたい。
暫く浜辺を歩いてみて、分かった事は、近くに町などがなさそうだと言う事。無人島なのかもしれない。それほどまでに、人の気配が無かった。通常なら、ペットボトルの一つでも落ちていそうなものだが、この海岸にはごみ一つ落ちていない。いつまでもあの少女達を二人だけにしておけないので、戻る事にする。
「あ!変態が戻ってきたわ!」
「誰がだ、こら」
戻ってくるなり意味不明な罵声を浴びせられた。何やらとんでもない誤解を受けている気がする
「何開き直ってるのよ!あ、アンタさっき気絶している彩に無理やりキスした上に、胸を揉みしだいたじゃない!」
これには流石に堪えた。まさかとは思ったが、そこまでの誤解を受けていたとは・・・というか。
「ば、馬鹿かお前は!人工呼吸と心臓マッサージだ!」
気を取り直して、誤解を解消しようと試みるが、もう手遅れなほどに彩は顔を赤面させているし、レミは俺を親の敵を見るかのように睨み付けている。
「まったく、えっと、彩・・・っとうわ!」
彩に話しかけようとした所で、レミが動いた。手には棒切れ、そこそこの太さがあり、当たると痛そうだ。横なぎに振り回す棒に慌てて俺が飛びのくと、その隙にレミは彩をつれて走り出してしまった。
「彩、逃げるわよ!」
彩は大分回復したのだろう、レミに手を引っ張られながらもしっかりとした足取りで走って、いや、俺から逃げている。何だか悲しくなったが、それも直ぐに焦りに変わる。少女達が走り去って言ったのは、直ぐそばの森。
「馬鹿、そっちに行くな!」
先ほど確認したところ、森の木が深く抉られていた。もしかしたら、ここにはクマか、それに近い獰猛な動物がいるのかもしれない。うかつに近寄るのは危険だ。
「くそ!待てって!」
二人の姿が森の茂みに消えていく、俺は急いで追いかけた。
第2話です。凄まじい誤解を受けてしまった主人公。誤解は解けるのでしょうか?解けなかったら、悲惨すぎる。。。