Guild
かなり更新が遅くなりました。まぁ、ぼちぼち書いていこうと思います;
「はぁ…」
憂いを帯びたため息を一つ、彩は窓に向かって吐き出した。
今、彩達はクバレの街の宿屋に居る。
街道に出てからは、魔物に遭遇することも無く、順調に旅は進んだ。しかし、以前のような気楽さというか、明るさは3人からは消え、気まずさと息苦しさばかりが場を支配していた。
それでも、旅自体は順調に進み、日を跨がずに3人はクバレの町にたどり着いた。
気まずさの原因、それがどこから来ているのかは分かっている。
彩の脳裏にあの時の光景がフラッシュバックする。
魔物との遭遇、戦いの開始、振り向く雅之……その身体は、血でべっとりしていた。
彩は、それを『怖い』と思ってしまった。雅之が戦ったのは、ほかでもない、自分達の為なのに…
思わず出た自分の恐怖、雅之はそれを見て、少しだけ悲しそうな顔をしていた。
「はぁ…何であの時私は……」
「やめなさい、彩。そんなに悩んだっていっしょでしょ?」
同じ部屋に居た事で何度も長いため息を聞かされたレミが、彩に声を掛けた。
彩は振り返り、「でも…」と言おうとしたが、レミがそれを手で制止、言葉を続けた。
「私だって、あの時は怖かったわよ。確かにその事については、雅之に悪いと思ってる。でも、いつまでも悩んでいても意味無いじゃない。今夜謝ればすむ事よ」
「でも、許してもらえるか…」
「バカねぇ…義理でもアンタの兄さんなんでしょ。許すに決まってるじゃない」
そうかなぁ…と彩は一言呟き、遠い空を見上げた。
「ぶぇっくし!!!!」
周りにはた迷惑な盛大なくしゃみが出た。誰か俺の噂をしてるのだろうか?
彩とレミを宿屋に残した俺は今、街を歩いている。二人を残した理由は、昨日の事があって気まずいから…では無いとも言い切れないが、一応は理由があった。お金である。
ソロバーミュの小屋を出て、クバレの街に無事に着いたのは良いが、先立つ金が無く、非常に難儀している所だ。幸い、今泊まっている宿屋は後払い制らしく、その日の夜に支払えば良いとの事。しかし、今のままでは夜までに代金を支払えず、追い出されてしまう。そうならない為にも、金を稼ぐために現在仕事を探しているところだ。
しかし、どこの誰とも知れぬ余所者を行き成り働かせるような日雇いの仕事は無い。途方に暮れた俺に、ある看板が目に留まった。そこには、こう書いてあった。
『クバレのギルド、新人冒険者歓迎!』
ギルド、それは冒険者のための仕事斡旋所の事だ。国の騎士団や自警団では解決できない問題や、やってもくれないような問題を解決してくれる場所。その仕事は大半が危険な物や非常に個人的なものが多いため、自然と旅人や、冒険者が集まる場所となっている。
正直、気乗りがしない。ギルドに集まる仕事は大半が危険なものばかりだからだ。一般人の俺としては危険は避けたい所である。
「まぁ、そうは言ってられないか……あの子達をいつまでもこんな危険な世界において置けないしな」
看板の目の前で盛大に嘆息をし、ギルドの扉を空ける。
扉を空けて広がるのは紫煙、雑踏、荒くれた男達……だと思ってたんだが。
「いらっしゃいませ」
最初に出迎えたのは小奇麗な服を来た妙齢の女性。手にはトレイを乗せており、その上には水の入ったグラスが幾つか乗っている。店内を見渡すと、複数のテーブルと椅子が置いてあり、何人かの人が飲み食いしている。賑やかではあるが、喧しい雰囲気ではない。一瞬レストランに入ったのかと勘違いした。
しかし、レストランではない証拠に、一番奥にカウンターがあり、そこに受付嬢が座っている。
いつまでのおのぼりさんのように立ち尽くしていても仕方が無い。中央を歩き受付の前に立つ。
「こんにちは」
「はい、こんにちは!どういったご用件ですか?」
受付嬢が可愛らしいスマイルを見せてくれる。
「すみません、仕事が欲しいんですけど、初めて来たもので…勝手を教えて貰えますか?」
受付嬢の対応が良かったので、俺も無意味な対抗意識を出し、社会人的に返答する。俺の目の前に座るその子は一瞬面食らったような顔をし、再び笑顔に戻った。
「どうかしました?」
「いえ、すみません。ここに来る方はあなたのような言葉遣いはしないもので…」
「ははっ、俺も普通はこんな話し方しませんよ。貴女が良い笑顔を見せてくれたんで、つい社会人的に答えてしまっただけです」
「あはは、そうなんですか……っと、怒られちゃいました」
受付嬢はクスクスと笑った後、俺の後ろに目を向けてバツの悪そうな顔をした。たぶん、上司に目で怒られデモしたんだろう。
「では、説明させていただきますね。私、ここ、クバレ冒険者ギルドの受付担当をしております。アメリアと申します」
「どうも始めまして。昨日この町に到着しました。辰乃宮 雅之と申します。こちらの読みではマサユキ・タツノミヤかな?暫くこの町に滞在し、首都に行くための資金を稼ごうと思ってます。よろしくお願いいたします」
「雅之様ですね。よろしくお願いします。……まず、ギルドの説明ですが、ギルドには民間の依頼が寄せられ、それを冒険者の方が受注します。受注したクエストを完遂させれば冒険者の方に報酬が支払われる、という仕組みです」
なるほど、まぁそこまでは難なく理解できる。ゲームやアニメとかでよくあるシステムだしな。
「ギルドで仕事をするためには、ギルドカードを作成する必要があります。ギルドカードは冒険者の方の身分を証明する物で、基本的にどのギルドでも使えます。ギルドカードは年会費が必要となり、毎年ソルトフィア銀貨1枚支払っていただきます。請求から1ヶ月以上遅れた場合、ギルドカードの効果が失効になってしまいますので、お気をつけください。また、紛失や破損された際も同様の金額が必要になります」
「なるほど、免許証のようなものか」
「??」
「あ、こっちの話です。続けてください」
「…?はい、それでは続けますね」
説明は暫く続き色々とギルドの規則やらカードの使い方やらが続いたが、重要なのはこんなところだろう。
1.ギルドの仕事を受けるには、ギルドカードが必要
2.ギルドカードは大体どこのギルドでも使用できる
3.ギルドカードによって、冒険者にA~Fのランクが与えられ、ランクに応じた仕事を受ける事が出来る。ちなみに今の俺はF
4.ランクはギルドが適正であると定めた場合、昇格する。逆に適正でないと判断された場合、降格する可能性もある。
5.ギルドの仕事で冒険者が死んだとしても、ギルドは一切の責任は取らない
他にも重要な事はいくつかあったが、ひとまずはこんなところでいいと思う。
「以上で説明を終わります。ご理解されましたか?」
「はい、大体大丈夫です。ありがとうございます」
メモ帳をしまい、一礼する。それに合わせてアメリアも頭を下げ、何となく二人で微笑んでみる。
「えっと、それじゃあさっそくで申し訳ないですが、仕事を斡旋してもらえますか?」
「あ、はい。え~、雅之様のランクはFですので今あるクエストはこちらになりますね」
■ 薬草1kgの採取
・依頼者 クバレの町 ギルド
・報酬 ソルトフィア銀貨 4枚
アメリアが差し出した紙にはそう書いてあった。
「こちらはギルド初心者の方が最初に受けるクエストになります。町から少し離れたところにある森で薬草を1kg採取してきてもらいます。薬草は群生してますし、指定する場所はモンスターもほとんど居ません。また、道具もこちらで貸し出します」
お使いクエストってことか。薬草1kgだと相場で銀貨8枚にはなる。それを初心者の冒険者にさせる事で、ギルドには収入になるし、初心者の実力も測れる。そんなところだろう。もちろん、ギルド職員の前でそんな事を言えば、気分を害するに決まっているので、間違っても口にはしない。
「分かりました。薬草1kgですね。何か注意点とかはありますか?」
「…?いえ、特には……あっ居ないとは思いますが、モンスターに気をつけてください」
「安心しました。それでは行ってきます」
確認事項をハッキリさせて、受付を離れる。さて、それでは仕事をしますかね。