表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
hello world  作者: 量産医師
11/12

Start of travel2

異世界からの旅人達が去り、再び一人取り残されたソロバーミュは一つ、ため息をついた。


「はぁ……静かになったな」


自分は寂しがっているのだろうか?ソロバーミュは自分の心に芽生えた感情を捉えきれずに居た。


「まぁ、また来るだろう」


異世界人である彼らが再びこの場所に来ることは無い。分かっていながらも、ソロバーミュはそう思うことにした。


「さて、研究の続きを!……と、そうだった」


地下室に戻り、今までのように研究に打ち込もうと思っていた時、ソロバーミュの目にあるものが止まった。それは、初めて雅之達がこの家に来た時に、雅之を侵入者と判断して排除しようとしたが、敗れてしまったストーンゴーレムのロックだった。


「うーん、このロックは結構頑丈に作っていたのだがな……王国の一兵卒程度じゃ勝てない程度に強い子なんだが、異世界人というのは皆あんなにも強いのだろうか…?」


魔術師として決してランクが低くは無い自分を、軽々と抜いてしまう魔法力と素養を持った少女達、そしてストーンゴーレムを鉄の棒で倒してしまう男。あんなのがゴロゴロいるとしたら、異世界とは恐ろしいところだ。


そんなことを考えながら、ロックを修復していく。2時間程経っただろうか?ロックの修復が終り、そのぽっかりと空いた目の穴に、赤い光が点った。


『ソロ……?』


「おはようロック」


『ゴブジデスカ?』


起き抜けにそんなことを聞いてくるロック。そんな忠実たる従者に、ソロバーミュは微笑み、これまでのいきさつを話した。


『ジョウキョウハアクシマシタ』


一時間ほど話しただろうか。ソロバーミュは自身が妙に饒舌になっていたのをおかしく思いながら、話を締めくくった。


「まぁ、そんな事があったのだよ。ロックも居させてあげたかったがね。時間が無かったし、少女達が怖がるのでやめた。悪かったね」


『イエ、ワタシハカマイマセン。ソレヨリモ、ソロ。アノイジョウナマリョクハドウガキエテマスガモンダイハカイケツシタノデスカ?』


ソロバーミュはソレを聞いてハッとした。そういえば、雅之たちが来るまでは感じていた異常な魔力波動がいつの間にか消えている。


「私としたことが……!直ぐに研究を再開する!」


『リョウカイシマシタ』


楽しかった非日常、しかしいつまでのそこに浸っては居られない。苦笑しながら、ソロバーミュは再び日常に戻っていった。






俺たちは今、異世界を旅している。


そう、異世界。そこは俺たちが暮らしていた地球だの日本だのの常識がまったく通用しない未知の世界。非常に分かりやすく言えば、ファンタジーの世界だ。


ファンタジーと言えば、魔法が存在し、冒険者たちは剣や槍等の武具を装備していて、街の外を歩けば魔物にも出会えるという。少年の心をくすぐる素敵な世界。それは確かにそうなのだが……


「まぁ、良いことばかりじゃないな」


地図とコンパスを頼りに森の中を進む。これが結構しんどい。ゲームの世界だとスイスイ進んでるが、実際には道は入り組んでいるは、足元はぬかるんでいるは、暑いし汗はかくし、ヒルは出る蛇は出る腹も減ると、なかなか楽しい事ばかりではない。


「雅之~お腹すいた…」


「兄様…私もです…」


その上、お嬢様二人を連れて歩くとなると、かなりの労力だ。


「はいはい。じゃあ、開けた場所に出たら飯にするか」


少し開けた場所を見つけ、食事の準備をする。この世界に来て原始的な生活を始めてからかなり経つ。そろそろこの辺の作業は慣れたものだ。その上、今では魔法の力もある。


前なら、火を起こすのにかなりの時間が必要だった。しかし、今では火炎の魔法一発で焚き火の準備が整う。更に、水を得るのにも以前ならつる植物を見つけて水を滴らせるか、川を探さなければならなかったが、今では水の魔法で安全な水が簡単に手に入る。


「楽になったな、本当に」


「そうですね…ソロバーミュさんにいつかちゃんとお礼がしたいです」


そう言いながら鉄製の鍋に水を満たす彩、空中から蛇口を捻ったように水が溢れる様は何というか、本当に不思議だ。


焚き火はレミに、水は彩に任せているので、俺は食料集めに専念出来る。近くで食用のキノコと木の実を見つけたので、ソレを人数分採取する。一応食料はあるものの、1日分しかないため、あまりたくさん使うことは出来ない。ソロバーミュはもっと持っていって良いと言っていたが、食料調達のノウハウはあるし、あまり多く持っていくと、ソロバーミュが困ってしまうので、丁重に断り、その代わり余った調理器具などをいくつか貰い受けた。


キノコを焼き、塩で味付けして干し肉と木の実を添える。量はそんなに多くないが、十分な食事だ。


「ん、このキノコおいしい」


レミが頬張りながら感想を述べた。たまに思うのだが、コイツはもう少し慎みを持ったほうが良いな。しかし、俺もそのキノコを一口食べて、思わず食べながら喋ってしまった。


「本当だな、結構いける」


「でしょ?って、あんた。自分で調理しておいて、まさか……」


レミが疑いの目で見てきた。まぁ、無理も無い。俺も食ったこと無かったからな。


「ちょっと、大丈夫なの?知らないキノコじゃないでしょうね!?」


因みに、日本では年間10名が毒キノコで命を落としている。


「大丈夫だよ、ソロバーミュさんに本を借りてちゃんと調べたから」


幸い、この世界の植物は俺たちの世界の物と共通している物が多い、しかし、もちろん見たことも無い物も多く、俺はその知識を補うためと、ついでに文字の勉強にとソロバーミュに本を借りたのだ。


不思議なことに、この世界では言葉は俺たちの言葉が通じるのに、文字だけは違っていたのだ。まぁ、この辺もよくあるパターンではあるが……


そんなわけで、この先文字が読めないと不便なため、勉強もかねて知識の補完をしていたわけだ。最初はほとんど読めなかったが、ソロバーミュの適切な指導もあり、今では大分読めるようになってきた。


「でも、本当においしいです。……兄様ってお料理上手ですよね」


「料理って…塩かけて焼いただけだろ」


俺がやったのは適当に塩を振って火に突っ込んだだけだ。焦げないようには注意したけど。


「でもでも、ソロバーミュさんの家でもシチューを作ってくれましたよね?あれ、凄く美味しかったです」


「あ~そんな事あったな」


ソロバーミュの食事があまりにも粗末なもの、と言うか、調理ともいえないようなものばかり食べていたし、日ごろのお礼も兼ねてシチューを振舞ったこともあったな。確かにあれは張り切った。俺の家は昔から両親が居るような居ないような状態で、料理はもっぱら自分で作っていた。それで、どうせ食うなら上手い物をってことでレシピを見ながら色々作っていたら、最近では作れない料理は無いほどにまで、腕が上がっていた。しかし…


「はは……料理上手な男、か。軟弱なイメージだろ?」


「そんな事無いです!兄様の料理、私は…その、好きです……」


「そ、そうか……」


何故だか微妙な雰囲気が流れた。焚き火の向こう側ではレミがジト目でこっちを見ている。おいおい、俺が悪いのか?


「と、所でだな。二人とも、聞いてくれ」


「あ、無理やり話を変えようとしてるわね」


「うっさい。黙って聞く!」


大事な話をしようとした所を茶化すレミ。まぁ、図星だが、大事な話なのは確かだ。二人が意識を変えて耳を傾けた所で俺は続けた。


「知ってのとおり、この世界は俺たちの常識が通用しない。魔法とかがその最たる物だ」


「そんなの知ってるわよ」


「だから前置きしてるだろ。…通用しない常識の中で、看過できない物がある。魔物だ」


魔物。その言葉が出てきたところで、二人の表情が引き締まる。


ソロバーミュの家を出てからここまで、今のところは魔物には遭遇していない。しかしソレは幸運に過ぎず、この先旅を続けていけば、必ずどこかで魔物に遭遇するだろう。そうなったときに、あらかじめ準備をして置くのとして置かないのでは、危険な目にあう確立が格段に変わる。


「そうですね…でも、準備って何ですか?」


「まず、心の準備だ。『これからは魔物に出会うかもしれない』それだけは絶対に忘れないでくれ。そして、出会った場合、常に冷静でいることを心掛ける事。」


心の準備、唯の精神論に聞こえるかもしれないが、これは結構重要だ。何も考えずに行き成りトラブルに見舞われる時と、『あるかもしれない』と身構えてトラブルに見舞われるときでは、問題は同じでも対処するスピードが変わってくる。これが魔物相手になると、一瞬の対処の遅れが命に関わりかねない。


「次に、情報の準備。この辺には比較的大人しい魔物が多いが、凶暴な物もいくつか居る。その中で一番遭遇する確立が高いのは、ハウンドドッグと呼ばれる犬型の魔物だ」


「犬型ってまさか……」


「そう、俺たちがこの世界に来た初日に襲われた魔物だ。しかも、あの時は運が良かったらしい。ハウンドドッグは通常、群れで狩りをする。最低でも3匹以上で襲撃する事が常だそうだ。一匹を見つけたら直ぐに他の奴らも来るだろう。大切なのは、俺たちが決してバラバラにならない事。」


あの時俺たちが出会ったのは、たまたま群れからはぐれた固体だったのだろう。あの時に群れで襲われていたら間違いなく死んでいた。


「そして、戦う準備だ」


「戦う……」


二人が息を呑むのが分かった。


「そう、戦う準備だ。それはつまり、相手を殺す気構えでもある。基本的には、魔物に遭遇した場合、逃げる。だけど、逃げることが出来ない場合も当然出てくるだろう。そうなった場合、戦わなければならない」


戦い、そして殺す。年端も行かない少女たちにソレをさせるのは、俺としても避けたかった。元の世界では不要な行為だったし、ソレをさせると彼女達の心を病ませる可能性があった。だからこそ、サバイバルでは極力動物たちを直接手に掛けることはさせなかった。しかし、今居る世界でその選択肢は通用しそうにない。もしも殺すことを躊躇っていたら。次に命の天秤に掛けられるのは自分たちなのだ。だから、彼女達には乗り越えて貰わなければならない。


「でも、私たち戦い方なんか……」


「魔法があるだろ?」


魔法。つい先日までは非力だった俺たちが手にした、絶対威力の武器。


「だけど、攻撃の手段だけあったとしても、戦う方法を知らなければ意味が無い。そこで、魔物に遭遇し、戦いになった際の作戦が必要になる」


二人とも真剣なまなざしで聞いている。それを横目で見ながら、俺は作戦を説明する。


「まずはポジション、戦う時の役割だな。俺が前衛で戦い的の注意を引き付ける。敵が俺に釘付けになっている間に、二人が魔法による援護を行う。これが基本パターンだ」


俺は小石を幾つか地面に置き、そこから数センチ離れたところに3つの大き目の石を置いた。


「もしも囲まれた場合はどうするんですか?」


彩が俺達に見立てた3つの石の周りに、小さな小石をいくつも置いた。


「良い質問だ。彩の言うとおり、敵が必ずしも正面から来るとは限らない。むしろ奇襲を掛けてくるほうが多いだろう。まず、質問に対してだが、囲まれないようにする。これが鉄則だ。もしも囲まれた場合、包囲網を突破して逃げる。簡単だろ?」


理解したように頷く二人。俺も頷き返し、最後の確認をする。


「その他の場合については、臨機応変に対応する。そしてこれが一番重要。戦う際の注意点だ。彩はレミを、レミは彩を守れ。自分の安全もそうだが、同じくらい互いの安全を確保すること。攻撃はその後で良い」


俺が言った指示はようするにお互いにフォローしあって隙を作るなという事だ。魔法力ではソロバーミュすら凌ぐほどの二人だが、戦いでは素人だ。効率的に立ち回る事は難しいだろう。別々に動いていたのでは、必ず破綻が起きる。しかし、お互いを守りあうように動けば隙は限りなく少なくなる。


「…でも、だったら兄様は誰が守るんですか?」


「俺は自分自身を守る」


不安そうに聞いてきた彩に答える。しかし、これ以外に方法はないだろう。俺だって極力危険な目には合いたくないが……


俺はそういって、ソロバーミュに貰ったショートソードを抜く。鈍い輝きを放つ諸刃の刀身が俺の顔を映し出す。


「そんなに心配そうな顔すんなって。俺だって男だ。やるときはやるさ。こうみえても武術を嗜んでいるしね」


社会人となった今では、昔ほど練習熱心ではないが、それでも日々研鑽は重ねている。その辺を歩いている自称格闘家くらいなら、軽くいなせる位の実力はあるつもりだ。


「それよりも、二人は互いの安全に気を配ること。二人が危険になると、俺だって危なくなるんだからな」


剣の状態を確認し、鞘に収める。俺の気持ちに答えるように、剣がキンッと鳴いた。


「さて、気を引き締めて行くぞ」





再び俺達は歩き出す。辺りは変わらず、樹と草と土。しかし、先ほどまでのどこか抜けた感じの雰囲気は無く、俺たちには張り詰めた空気が流れていた。


二人とも魔物を探そうとしているのだろう。辺りをキョロキョロと見渡しながら、物音に逐一反応している。


(気を張るのはいいけど……張りすぎて疲れないように気をつけないとな)


俺が二人の状態を判断し、声を掛けようと思った瞬間、異変が起きた。


武術を通して得た物、その一つに感覚の鋭さがある。別に耳が良くなったとか、目が良くなったわけではないが、何となく見られているとか、敵意を向けられている。そういうのが明確では無いにせよ、分かるようになった。そういう時は、違和感というか、落ち着かない感覚になるのだ。今がまさにそれだ。


「二人とも、落ち着いて聞くんだ。今、俺達の近くに魔物がいる」


「えぇ!?」


「静かに。魔物が興奮するとまずい」


その言葉に、口を押さえて沈黙する二人。俺はその間に、大体の魔物の位置を探る。


右後ろに居る、それと左後ろ。こっちの方が数が多い感じがする。


正確な数までは分からないが、方向はあっているだろう。


ハウンドドッグは群を成し、群で狩りをする。しかし、群の全てで狩りをするのではなく、3匹から5匹のグループを作り、各個のグループごとに狩りをする。そしてどこかのグループの狩りが成功すれば、残りの群が集まってきて、食事にありつく。という生態だ。


「そう考えると、今付いてきているのは3匹から5匹か」


「兄様、どうしましょう…?」


「一先ず、直ぐに襲い掛かってくる気配は無い。藪や草むらは避けて、開けた場所を歩く。二人とも、互いの距離を出来るだけ詰めるんだ」


こういう場合、襲われるのは孤立した人間、周りから離れると、襲われる可能性が高い。また、襲われやすい場所としては、足元が見えない草むらや藪、周りが見え難い地形だ。それらを避けて歩けば、諦めて帰ってくれるかもしれない。


そう思っていたが、甘かった様だ。魔物達はぴったりとくっ付いて来ている。


「まずいな……」


このままでは、他の群と合流しかねない。そうなれば、自体は最悪の方向に転がる。


「そうだな…二人とも、魔力を開放してくれ。出来る限り最大で」


相手は3匹から5匹。数で言えばあちらに分がある。しかし、こちらには膨大な魔力を持つ人間が二人も居るのだ。こちらの力を示威してやれば、相手は逃げるかも知れない。


「はい」


「びびらせてやるのね?」


そういって二人は歩きながら魔力を開放した。周りの空気が震える程の可視化された魔力が二人の身体から噴出する。赤と薄い水色のコントラスト、それは森の中に咲いた大輪の花のようだ。しかし、それは綺麗なだけではなく、見る者を畏怖させる力が秘められている。


「はは、本当に凄いな」


素直に驚く、二人の魔力はソロバーミュの所でも見ているが、何度見ても驚くほどの迫力だ。因みに、俺は魔力解放なんてしない。理由は聞かないでくれ。


しかし、これほどの魔力を見せられても、魔物達はついてきた。その気配は、若干慎重になっているようだったが、それでも付いてきている。


「…連中。相当腹が減っているようだな」


このままでは、本当に他の群と合流してしまう。俺は意を決した。


「二人とも、戦うぞ」


俺の決断に息を呑んだ二人だったが、コクリと、強いまなざしで頷いた。


振り返り、配置を入れ替える。俺が少し前に出て、彩とレミが5歩後ろで隣り合わせに立つ。


「レミ、魔法だ。威力は控えめで良い。あの木の30センチ右に向かって撃ってくれ」


「OK」


レミが魔力開放をし、詠唱を始める。


『業火の弾丸、我が仇成す敵を撃て……フレイムバレット!!』


レミの手の先から直径40センチ程の火球が生まれ、まっすぐ飛んでゆき、藪の中で火柱をあげた。


「威力が高すぎだ!森を燃やすな!それにまた詠唱を自分勝手に変えやがって、教えてくれたソロバーミュさんが落ち込んでいただろ!」


「雅之だって、変な詠唱してるじゃない!」


レミが今放った魔法は、最初にソロバーミュが教えてくれた『火炎弾』だ。本来なら、先人達が作った、『自分の世界を具現化しやすい詠唱』というのがあるのだが、コイツは其れをまったく無視している。まぁ、俺も人の事は言えないのだが。何というか、やりにくいのだ、決まりきっている詠唱というのは。


それはともかく、俺達の先制攻撃はうまく行ったらしく、突然の奇襲に驚いた魔物達が泡を食って藪から飛び出してきた。やはり、ハウンドドッグが合計3匹、その内一匹は尻尾が焦げ付いている。


「出てきたぞ!二人は攻撃魔法を!」


『業火の弾丸、我が仇成す敵を撃て……フレイムバレット!!』


『其は集い 姿現し 四つ足の 地尻を掛ける 水の獣 ……水狐!』


俺が走りだすと同時に、二人が魔法を放つ。業火の弾丸と水の獣は俺を追い抜き、一瞬でハウンドドッグに到達する。


一匹が水狐をモロに食らい、吹き飛ばされる、残りの二匹は左右に飛んでフレイムバレットをかわした。その内の一匹に肉薄し、着地の瞬間を狙って剣を叩きつける。まっすぐに切り付けた剣はハウンドドッグの胴体に深き入り込み肋骨の間を縫って腹の下に抜けた。直ぐにその敵を蹴り飛ばして止めを刺し、振り返り、剣を横薙ぎに振るった。それはタイミングを見計らって飛び掛ってきたもう一匹のハウンドドッグの首に吸い込まれ、ソレを切断した。


勝負は一瞬、ハウンドドッグは二匹が切り殺され、その内一匹は首が無い。水狐を食らった一匹は、その後直ぐに逃げて行った。


「勝った……の?」


「ああ……」


勝利。生き残った事への安堵はあったものの、それは喜べる物ではなかった。戦いに勝利する。それはつまり、敗者が生まれると言うことだ。今目の前にある二つの死体がそれを物語っている。


振り返り、二人の元に戻る。その時二人の表情が目に留まった。


「怖い、か?」


それは純然たる恐怖の色だった。俺の服は、敵の血で汚れていた。それは、命を奪った証。


二人は何も言わなかった。


「行こう。もう直ぐ街道に出る」


俺はそういって歩き出した。二人も、黙って俺の後を付いてくる。手に残る感触、それはこの世界に居る限り、避けられる物ではない。それは分かっている。俺自身が二人に言ってきた事だ。しかし、どこかやり切れない。そんな思いが、俺の中に燻っていた。


久しぶりの更新です。感想やアドバイスなどありましたら、お気軽に登校していただくと。作者にターボがかかります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ