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【暗殺者達の群像劇】F 不老不死の殺し方  作者: 愛良絵馬
第一章 まるで物語の中の人。
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変わらないよ

   *水花*


 店が本格的に開く前に、シタさんに別れを告げて、その場を後にした。当然だが、制服姿のあたしや、明らかに同い年ぐらいのザクロがいたら、通報される可能性がある。


「んでー、考えはないんだよな? こっからどう動く?」


 スマホをいじりながらザクロが言った。彼のスマホケースはネコ型だ。暗い感じのピンク色で、シリコンでできている。


「そうね、あたしに考えはないけど、あたし以外には考えがあるかも知れない」


 ザクロが顔をあげ、「は?」と言う表情をした。


「うん、つまり、この依頼が来ているのは、あたしたちだけなのか……ってこと」

「なるほど???」


 ザクロの顔にも声音にも、明らかに疑問符が浮かんでいる。どうやら、説明を端折りすぎたようだ。


「こんな大雑把な依頼内容を、シタさんっていう結構潜ったところに大金で依頼できる相手なんだよ? もし本当に依頼を達成したいなら、他の組織にも依頼しているはずってこと」

「ふんふん??」

「うん……だから、今度こそ、つまりね、同じ依頼を受けた他のやつ。こいつを見つけることが出来れば、何か情報が掴めるかも知れない……っていう事!」

「なるほど! さすが水花!」


 手放しの賞賛に、えっへんと胸を張る。


「じゃあとりあえずは、情報収集って事だな」

「ターゲットが分からない以上、最初からそう決まっているけどね。とりあえず、遅くなりそうだし、ご飯でも食べに行く?」

「お、良いねぇ」


 ニコニコ笑うザクロと、足早に歩き出す。立ち話をしてしまったが、完全に暗くなる前にこの付近から離れておきたい。

 Barがあちこちにあり、風俗っぽい店もあり、あまり子供がうろちょろして良い場所ではないのだ。 


「そーいえばよ、学校はどうだった? 今日が初登校なんだろ?」


 それは一見、いつもと同じ軽い口調に聞こえたが、どこかしら、緊張が含まれた言葉だった。

 横を歩くザクロの顔を、ちらりと伺ったが、いつもと同じようにしか見えない。


「どうって……。うーん、正直わかんないな。何せ初めての事だったから」

「ふうん。ま、お前なら勉強とか、問題なさそうだけど」

「あ。そこはそうだね」


 通常なら学校に入る際、入学式なるものがあり、その日は早く帰れたりするらしいが、5月の途中転校だから、初日から授業のフルコースだった。

 だが、どれもこれも知っていることばかりだったし、知らなかった事もすぐに理解できた。

 少なくとも普通の勉強、という意味では、何の問題もないだろう。


「……友達とか、できそうか?」

「うーん、どうだろう? 転校生が珍しいからか、結構話しかけられたけど。……多分、普通に受け答えできたと思う」

「ふうん」


 その口調は、いつもと同じようでいて、やっぱりどこか違った調子だった。

 その態度の理由を考えて、ピンときた。


「もしかして……あたしに普通の友達できるの、怖い?」

「なっ、ばっ。ちげえし」

「きゃはははっ」

「わーらーうーな! ちげえし!」


 ザクロと出会ったのは、研究所を出て、臨床実験として、仕事をするようになってからだ。

 闇粒子で武器を作り、暗躍する闇家業。その中で出会ったザクロは、あたしと同じように、普通を知らず、研究所で育った少年だった。

 仕事で一緒になって、なんとなく気が合った。気がついたら、いつも隣にいた。初めての友達だった。


「そんなに心配ならさ、ザクロも一緒に高校来れば?」

「……いや、俺馬鹿だし」

「そっか……」

「哀れみの目で見るなよ!」


 バタバタと叩き合いながら、大通りに出た。辺りでは夜が始まっていて、あたし達は人混みに紛れた。

 買い物帰りの主婦に、仕事中のサラリーマン。塾へ向かう中学生に、塾から帰る小学生。さまざまな生活を思わせる、たくさんの普通の人がいるように見えた。


「あたし、変わらないよ」


 そんな彼らを眺めながら、あたしは言った。


「どんなに変わっても、普通になれても、大事なことは多分、今と何にも変わらない。ザクロの一番の友達だから」


 そう言って、照れ臭そうににこりと笑う。ザクロは、照れた表情を浮かべて視線を逸らし、「だな」と呟いた。


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