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【暗殺者達の群像劇】F 不老不死の殺し方  作者: 愛良絵馬
第四章 終幕に至る細い道筋。
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気づき

   *由奈由*


 自分の腕の傷が、どんどん治っていく様子を見つめる。

 ザクロくんの言葉や、前後の状況から、なんとなく分かっていた。

 けれど、これが決定打。

 人間の身体が、こんなふうに傷を治すわけがない。どう考えても、私の身体はおかしい。

 私は死んでいる。間違いなく、何度も死んでいる。


「ほら、ちゃんと前向いて。もうすぐ着くから」


 水無月さんの声で、顔をあげる。混乱したまま、もつれる足を動かす。

 ザクロくんの追跡をやり過ごした後、落ち着いた場所に移動するという彼女の指示。ついたら、全て説明するから、という水無月さんの言葉もあり、ただ従っている。

 自分で考えなくて良いのは、少し楽だった。今の私には、考える余裕があるようにも思えないし……。


「あ、ここだ」


 十数分の移動の末、着いたのは、駅近くのビジネスホテルだった。


「うん、もう治ってるね」


 水無月さんは慣れた様子でロビーに入り、チェックインのやりとりをしている。その様子をぼんやりと眺めていると、


「終わったよ」


 と言った彼女が、部屋の鍵を一本渡してきた。『502号室』


「いやー、何で制服なの? を誤魔化すのにちょっと掛かっちゃった。……退屈じゃなかった?」


 そんなやりとりがあったことすら気が付かなかった。ゆっくりと、首を振る。さっきからずっと、夢の中にいるみたいだ。

 再び、水無月さんに手を引かれて、歩き出す。エレベーターに入り、水無月さんは最上階、10Fのボタンを押した。5Fじゃないの? と思うが、疑問を言葉にする気になれず、体が上昇するのをただ感じた。


「えーっと」


 エレベーターを降りた水無月さんが、部屋番号を確認しながら廊下を歩く。10階には、やはり10階の部屋しかなくて、『1001号室』や、『1002号室』とプレートが付けられている。


「あ、ここだ」


 水無月さんが、『1003号室』の前で立ち止まり、ノックをした。

 室内から反応はない。こんこん、こんこんと、水無月さんは粘り強くノックをした。

 やがて、ガチャリと音が鳴り扉が開く。


「せっかちだね、君は」

「げ」


 開いた扉を、水無月さんは勢いよく閉めた。


「ゆっくりでいいです! 服着ろ馬鹿!」


 そんなやりとりが遠くに聞こえる。……ぼんやりして見過ごしてしまったが、今のはキリクさんだったような……?

 惜しいものを見逃してしまったかもしれない。


「ふふ」

「! 早瀬さん?」


 あまりの思考の馬鹿らしさに、少しだけ視界が明るくなった。目の前の女の子は、そんな私を嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねて迎えてくれた。

 彼女がそんなにも喜んでくれたことが嬉しくて、生き返ったように、思考と体温が戻るのを感じる。


「よ、良かったー、なんか、ずっと反応なくて……。あたし、ちょっと怖くて……、後、ごめんって思って……。それから、少し考えてることがあって……あーもう、ここじゃうまく話せないから、後ちょっと待っててねっ」


 もどかしそうにそう言って、水無月さんは、はにかんだ。


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