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【暗殺者達の群像劇】F 不老不死の殺し方  作者: 愛良絵馬
第三章 アンチテーゼの証明。
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救う

   *由奈由*


 瞼を開くと、目の前にザクロくんがいた。床に倒れ込んだ私と目線を合わせるようにしゃがみ込んで、変わらず笑顔を向けている。その足元には、瓶とロープが転がっている。


「おーはよー」


 ひょいっと、気軽な様子で右手を差し出してくる。ハーフフィンガーグローブをつけた、どう見ても少年の手。


「う、う」


 掴む気には決してなれないその手を、唸りながら見つめる。

 だめだ。このままじゃ、絶対に。

 私は、外に脱出するべく、駆け出した。しかし、倒れ込んだ姿勢からの無理な加速は、すんなり背中を掴まれて、阻まれてしまう。


「うーん、俺的には、少しでも紳士的に運びたかったんだけどなあ」


 背中を掴まれたままずるずると運ばれていく。

 くしくもその方向は、玄関へと近づくもので、どうにか拘束を抜け出せないかと、もがく。

 しかし、背中一点で掴まれているだけなのに、どう足掻いても、逃れることはできなかった。

 私よりも低い背に、性差以上の圧倒的な力の差を感じる。


「風呂借りるなー」


 宣言通り、玄関の手前で曲がり、手洗い場兼脱衣所へとたどり着く。そして、その奥の風呂場へ。


「嫌! いや! いやだ!」


 みっともなく、子どものように叫ぶ。

 嫌な予感通り、ザクロくんは栓をしめて、蛇口をひねり、風呂桶に水を溜め始める。


「デッキシ、デッキシ、デッキシ〜」


 鼻歌混じりにご機嫌そうに、蛇口から勢いよく出ていくいく水を眺めている。



「あ。あ。あ。あ。あ。あ。ああああああああああああ」


 

 ボロボロと、自分でもあり得ないと思う量の涙が溢れた。この涙で死んでしまいそうなほど。

 水。

 溺れる。

 死ぬ。

 これから先に起こる恐怖を想像して、嫌になる。死にたくなる。

 だって、それは、あの日と同じ——。

 嗚咽を繰り返す私を、ザクロくんはどこか気の毒そうな、困った笑顔で見下ろしている。


 ピンポーン。


「お?」


 唐突に訪れた、どこか遠い日のような日常の音。蛇口を閉じ、水の音が止まる。

「水花かなー」と言いながら、楽しげに、ウキウキと、お風呂場を離れていく。

 立ち上がったザクロくんの背を見送って、私は震える指先を、栓のチェーンへと伸ばす。

 力を入れて、栓を外す。ボコココと、今まで溜めた水が流れていく音。


 自分にできるせめてもの抵抗。

 それを終えると、再び恐怖がぶり返して来た。震えて、うずくまる。一瞬だけ弱まった涙が、また溢れ出る。

 トントンと、足音が近づいてくる。


「……早瀬さん」


 お風呂場に顔を出したのは、なつきちゃんだった。遅れて、ザクロくんが口が裂けそうなくらい嬉しそうな笑顔で、やっぱり水花だったと私に言った。

 ゆっくりと、なつきちゃんが近づいてくる。悲しそうな、けれど、どこか決意を感じさせる顔で。

 ああ。


 どこかで、何かがガラガラと崩れ落ちる。多分、彼女は私の味方じゃない。

『早瀬さん』と呼んだその声は、多分、決別のようなものだ。

 そう、思ったのに。

 彼女は私のそばにしゃがみ込んで私の体を、柔らかく抱きしめた。

 その瞬間、今までとは違う涙が、ポロポロとこぼれ落ちた気がした。


「あたしはあたしの為に、あなたを助ける」


 力強い声が、震え切った私を、壊れかけた私を、すくい上げる。


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