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【暗殺者達の群像劇】F 不老不死の殺し方  作者: 愛良絵馬
第三章 アンチテーゼの証明。
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友達

   *由奈由*


 鏡の中の自分を何度も見つめる。


「う〜ん……」


 昨日、美容院が終わった後も、翌日こんなふうに綺麗にセットできるのだろうか、と思ったが、まさかこんなことになるとは思わなかった。

 あごの下で、ざっくりと切れてしまった髪。

 それに軽く触れる。ヘアゴムで結んだり、ヘアピンで止めたり、ワックスを塗ったり、カチューシャをしたり。ありとあらゆる手段で、少しでもマシに見える方法を探している。


 しかし、元が元だし、分厚い眼鏡も相まって、おしゃれとは程遠い印象だ。

 昨日の自分が、まるで12時までのシンデレラのように感じる。……いや、シンデレラなんてとても、おこがましすぎるけど……。

 もういっそ、学校を休んでしまおうか、とも考えたが、こんなことで休むなんて、と言う気持ちが邪魔をする。

 ポケットの携帯が震えた。


『ついたよ』


 昨日連絡先を交換した、水無月さんからのメッセージだ。別れ際に、明日の朝一緒に学校に行こう、と約束していた。


「……うぅ」


 背中を押されたようだった。結局、最初に試したヘアゴムでまとめる作戦を結構し、鞄を掴んで外に出る。髪の毛以外の朝の準備は、もうとっくに済んでいた。


「あ。おっはよーっ!」


 明るい水無月さんの声。

 肩口で切り揃えられた黒髪は、今の自分と似ているような気がするが、さすがに綺麗で整っているし、大きな黒い瞳とよく似合っている。

 ……自分の見た目がひどい時ほど、他人が可愛く見えるような気がするなぁ。


「お、おはよう……」


 片手を所在なくふらふらと振る。それに気づいた水無月さんは、子犬のようにぶんぶんと手を振った。

 2人で歩き出す。今日も水無月さんは、自然と道路側を歩いてくれた。


「今日も晴れてよかったね」

「う、うん。そうだね」

「明日も晴れるんだって」

「そうなんだ……」


 他愛もない天気の会話。だけど、こんなふうに誰かと登校するのは初めてで、嬉しくて、それに気がつくと、自分の見た目のことから意識が抜けていくのが分かった。

 会話が途切れる。水無月さんが少し困った顔をしていて、話題に迷っているのが分かった。


「あのさ」


 そんな彼女が、ぽつりと言う。


「どうして早瀬さん、……あたしと、普通に接してくれるの?」

「え?」


 それは、思いもよらない疑問だった。戸惑っていると、水無月さんはじれったい感じで、「ほ、ほら。昨日のこと、多少はその、覚えているんでしょ? 普通、もっと警戒したりとか……怖がったりとか……怒ったり、とか?」

 言われてみれば、確かに、そういった感情を抱いても、おかしくはないのかもしれない。


 ……けれど、今目の前にいる水無月さんは優しいし。それに。

 許してしまわないと、本当に、生きていけないくらいのことがあったから。

 私は、人を許すことに慣れてしまっているのかもしれない。


「どうしたの?」


 不思議そうに顔を覗き込んでくる水無月さん。私は慌てて思考を振り払う。


「えと。……それは。……水無月さんが、優しいからだよ」

「あたし、優しい?」


 彼女はびっくりしたように目を見開いた。それから、優しい、優しい、と飴玉を転がすような声で小さく呟く。

 その様子が、なんだかとても嬉しそうで。嘘でないとはいえ、本当のことを言わなかった事に罪悪感を覚える。


「あ。あの!」


 居心地の悪さから、話題の転換を試みる。

 聞いてみたいことがあった。なあに? と言うふうに、水無月さんが私を見上げてくる。

 大鎌のこと。シャベルのこと。謎の戦闘。

 しかし、それらは昨日、水無月さんに尋ねて、けれど、はぐらかされるばかりで、教えてもらえなかったことだった。

 青い空を見上げる。なんだか全部、嘘みたいだった。


「……気になったんだけど、ザクロくんが水無月さんのこと、水花って呼んでたよね? あれってあだ名?」

「うん、そうだよっ」

「……そうなんだ……」


 どうしてそんなあだ名がついているのか分からないが、可愛らしい呼び方だと思った。

 震える右手に力を込める。言え! 言うんだ、言うなら今しかない……。


「あ、あの! ……私も水無月さんのこと、水花って呼んでもいい?」

「え。駄目」


 即答だった。

 心が真っ黒なもので突き刺されたような感覚。背中がみるみる丸まっていき、恥ずかしさで火を吹きそうになる。


「そ、そ、そ、そうだよね……。ご、ごめんなさい、突然……」


 気にしてないですよ、とアピールしようとして、明らかに気にしている声が出てしまった。そんな私の様子を見てか、慌てて水無月さんが手を振る。


「ううん、こっちこそごめんっ! その名前は何て言うか……うん、ちょっとね。……代わりにそうだ! 下の名前で呼んでよ!」

「下の名前……?」

「うん、なつき。私も由奈由ちゃんって呼ぶからさ」

「ほんとに!」


 嬉しくて、自分じゃないような声が出た。


「……な、なつきちゃん」


 私がそっと呼びかけると、水無月さんはにこにこと私を見上げ、うんっと元気な返事をした。


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