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【暗殺者達の群像劇】F 不老不死の殺し方  作者: 愛良絵馬
第二章 ホラーストーリーは突然に。
27/62

山本です

   *雪弥*


 どんどんどん、と扉を叩く音が聞こえる。


「ちょっと! どうしたの!? 雪弥! 雪弥!?」


 母の慌てた声。僕はパニックのまま、頭を抱える。

 室内には、割れた窓ガラスと日本刀を持った少年。

 転がっていった生首は、窓から外へと出ていった。まるで、自分の居場所はここではない、というように、何も言わずに。


「あー……まずったなぁ」


 少年が呟く。ちらりと僕を見た。

 しかし、僕に向けて何かを言う事はなく、そのままリビングへと続く扉の方に向かっていった。

 その先にいるのは、間違いなく、母。

 脳のシェイクが止まった。


「……めろ」


 服の袖で乱暴に涙を拭う。怖い。怖い。怖い。

 その感情は変わらない。立ちあがろうと、片手を床につく。しかし、結局震えて膝をつく。

 弱い自分が情けなくて、また涙が溢れそうになる。明るかったリビングの、いつかの風景をまた思い出す。

 少年はついに、鍵を開錠し、ドアノブに手をかけた。


「やめろーーーー!」


 座ったまま咆哮する。少年は、また一瞬、ちらりと僕を見た。嘲笑うような笑みが浮かんでいる。

 扉が開く。

 

「すみませんでした!!!」


 同時に、少年は土下座をした。

 ポカンと口を開く。

 その手からは、いつの間にか日本刀が消えていた。

 母の姿を捉えようと、視線を上げ、リビングから差し込む明るさに、目を細める。扉の向こうにいた母は、突然の見知らぬ少年の土下座を、驚愕の表情で見下ろしている。

 それから、ハッと気づいたように室内を見回し、壁際で震える僕を捉えた。


「雪弥……」


 僕の元へと駆け寄ってくる。久しぶりに見た母の顔は、しばらくの間会わなかっただけなのに、記憶の中よりもずっと老けていた。


「雪弥!」


 首に腕が回り、抱き締められる。照れ臭さや嫌悪感を押し退けて、安堵の気持ちが溢れてくる。

 状況は変わらず意味不明で、すぐそばには不可解な少年がいる。それでも、誰かが、母がいると言うだけで、心強く感じてしまった。先ほどまで、家族を守らなければと思っていたのに。


「一体、何があったの?」


 僕から離れて、母が問いかける。その問いに対する答えを、当然僕は持っていない。

 それを持っているとしたら、そこで土下座をしている少年だけだ。

 だから、目線でそれを伝える。その視線に気づいた母が、怖い顔で少年を振り返った。視線を向けられた少年は、顔を上げる。リビングから差し込む明かりに照らされている。

 見たことのない少年だった。猫のような瞳で、真剣な表情で口を結んでいる……のだが、どこか飄々としていて、この状況を楽しんでいるような雰囲気がある。


「あなた……誰?」

「山本です」

「はぁ……山本さん」

「雪弥くんの友達です」

「!?」


 声にならない驚きが漏れる。そんな僕に少年……山本は視線を向けて、黙っていろ、と言うように目で合図を送ってくる。

 なんで僕の名前を知っているんだ、と思ったが、先ほど母さんが連呼していた。だから、それは問題ないことだ。それより、何の意図があって、友達を名乗っているのだ……?


 どこに隠したか知らないが、彼は日本刀を持った危険人物だ。下手にそれは嘘だと暴き立てるのも、得策のようには思えなかった。

 だから僕は、相手の出方を伺うように、山本の指示通り黙ることにした。

 幸い、彼は土下座の姿勢のままで、こことは距離も離れている。


「実はずっと休んでいる雪弥くんが心配で、窓を蹴破って会いに来てしまいました」


 そこで初めて、母は僕の部屋の窓ガラスが割れていることに気がついたようだ。わぁ! と驚きの声をあげる。


「修理代はもちろん弁償いたします。本当にすみませんでした!」


 そこで山本は再び顔を下げて、深々と土下座をした。

 終始、戸惑ったような顔をしていた母は、山本の説明を受け、現状を確認し、飲み込めないながらも落ち着きを少し取り戻したようだった。


「そう……そうだったの」


 と呟き、ふらふらと立ち上がる。山本に近づこうとした母の裾を、僕は引っ張った。敵対行動は見られない。しかし、だからと言って近づくのは危険すぎる。

 母は、僕の行動に少し戸惑ったようだが、振り払って近づくことはしなかった。


「えっと……中学校のお友達?」


 進学した高校に、僕は一度も通っていない。少年は適当に答える……そう思ったのだが。


「いいえ、ネットの友達です」

「ネット?」


 再び顔を上げた山本が、僕の瞳を捉える。


「な、ぽん酢」


 ニヤッと笑ったその顔に、衝撃を受けた。見知らぬ顔だと思った少年の輪郭が、よく知っている人物と結びつく。


「え、炎……?」


 山本は満面の笑みを浮かべて、小さくこくりとうなづいた。


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