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【暗殺者達の群像劇】F 不老不死の殺し方  作者: 愛良絵馬
第二章 ホラーストーリーは突然に。
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ラフメイカー

   *雪弥*


 ショットガンを手に距離を詰める。弾丸を放ったやかましい音がヘッドフォンから伝わってくる。敵は素早く身を交わし、物陰に隠れた状態。すかさずサブウェポンの手榴弾を投げる。

 姿を現す敵。お互い手榴弾から距離をとるように、戦場を移動しながら撃ち合う。


「行け! 行け!」


 実力は拮抗している。僕はもはや体の一部といっても過言ではないほど、握り慣れたコントローラーを、素早く正確に動かす。

 決着は、一瞬の油断で決まった。僕の放ったショットガンが、相手の致命傷にぶつかる。


「よっしゃーー!」


 がっしゃぁーーーん!

 歓喜の声と共に、ヘッドフォン越しでもわかる、妙な音がした。

 振り返る。窓ガラスが割れていた。


「へ……?」


 慌ててコントローラーを手放し、ヘッドフォンを外す。開け放たれた窓から5月の心地よい夜風が吹いて、分厚いカーテンがゆらゆらと揺れた。

 窓ガラスはこちら側に破片を撒き散らすようにして割れている。外から石でも投げ込まれたのか……? 怪訝に思いながらも腰を浮かせ、足元の破片に気をつけながら近づいていく。

 ソレが視界に入った瞬間、脳内がシェイクされたような感覚。


「は……?」


 間抜けな声が漏れて、それが自分の声だった、と後から気づく。

 脳の混乱は収まらず、それでも恐怖から、一歩、その物体から足を遠ざける。

 一歩動いた後、二歩、三歩と後退する。トンっと背中に壁がついて、そのままずるずるとへたり込んだ。


 瞬きを一度、二度。視界に入るものは、変わらなかった。

 ソレは、生首だった。

 暗い部屋の、ディスプレイの無機質な明かりに照らされている。眼鏡をかけた若い女だ。高校生くらいに見える。目が驚きに見開いていて、まるで、自分が死んだことに気づいていないかのようだった。


 視線を逸らす。いつまでも眺めていたような物体ではなかった。

 こう言う時、一体どうすれば良いのだったっけ……。


 警察に電話? いや、その前に家族に伝える? 引きこもりの子供の部屋に突然生首が投げ込まれたって……? そうしたら僕は、家族や警察に会わなければいけなくなる。僕が犯人だと思われたらどうしよう。引きこもり=犯罪者という、社会からのありがちな方程式が浮かんで、顔から血の気が引いていくのを感じた、そんな時だった。


「うおっ、人いたのかよ。ついてねー」


 カーテンのゆらめきの向こうに、いつの間にか人影があった。

 なんてことない動作で、平然と、僕の部屋に足を踏み入れてくる。無骨なブーツで、割れた窓ガラスの破片の上を歩いてくる。

 ぱりぱりと細かな破片の割れる音。


 近づいてきた人影は少年のようだった。無邪気そうな笑みを浮かべている。右手には、日本刀。

 喉から、声にならない悲鳴が漏れる。距離を取り、逃げようと後ずさる。しかし、背中はすでに壁についていた。

 ならば、と、部屋の出入り口に視線をやる。あれほど恐ろしい、行きたくない、と感じていたリビングを、心の底から渇望した。


「あ。う……」


 喉から嗚咽が漏れる。涙が噴き出してきた。

 恐怖で、足は動かない。なのに、いつかのリビングの光景が、鮮やかに脳を駆け巡る。

 父さんがいて、母さんがいて、……兄さんがいて。みんなでご飯を食べている。僕の好物の唐揚げだ。他愛もない話の内容は思い出せない。けれど、楽しかったことだけは思い出せる。


「えー……、泣くなよ。悪かったよ」


 少年は僕に近づいてくる。涙に埋もれた視界の中で、彼がひどく驚いたような顔をした。その視線の先は、僕のディスプレイに向けられている。

 

 ゴロン。


 微かな、けれど、はっきりとした音がした。

 バッと、少年が音源に視線を向ける。涙で濡れた視界の中で、僕の目にもソレが飛び込んできた。

 

 ゴロン。ゴロン。ゴロン。ゴロン。


 生首が転がっていく。

 切断面がくるくると上を向き、下を向き、頭だけのでんぐり返しのように進んでいく。その切断面からはちりちりと、黒い粒子のようなものが噴き出して、見え隠れしている。

 命は途切れているはずなのに、意志があるかのような動き。


「う、う、うわぁあああああ!」


 たまらず、腹の底から、大きな悲鳴が上がった。


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