表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【暗殺者達の群像劇】F 不老不死の殺し方  作者: 愛良絵馬
第二章 ホラーストーリーは突然に。
18/62

引きこもり

   *雪弥*


「いただきまーす!」


 兄のうるさい声が聞こえる。今日は部活が早く終わったのか、いつもよりもご飯の時間が早い。自分の分はおそらくすでに、扉の前に御供物のように置かれていることだろう。


 いつも、夜中に、冷めてからそれを回収している。

 ヘッドフォンの音量を少しあげる。会話の声が遠くになり、ガンガンと鳴り響くロックな音楽が世界を満たす。

 適当にネット記事をスクロールしていく。


 大臣の汚職。保育園での事故。女子高生の殺害事件。有名芸人のW不倫。タイトルだけつまみ読んで、この部屋の外の出来事を知った気になる作業。

 少し引っかかりがあり、スクロールを上へ。どうやら殺人事件の現場は近所のようだった。見知った地名が脳に引っかかったのだろう。しかし、クリックする気にまではなれず、スルーする。


 僕がつまづいた世界は、否応なく進んでいく。

 それをどうしようもなく実感してしまうが、世間との縁が完全に切れるのも恐ろしい。

 それに、ネット記事を見ていると、やっぱり世界は酷いんだ、汚いんだと、部屋にいる自分を肯定できる気がする。


 ¥炎えん¥が入室しました。


 片側で開いていた『都市伝説チャット』に動きがあった。


「炎か」


 うるさいやつだが、いないよりはマシだ。


¥炎えん¥『なあ、この街なんだけどよ。しばらく1人で出歩かない方がいいかもしれねぇぜ』


 ¥炎えん¥が退室しました。

 ポンズさんが入室しました。

 ¥炎えん¥が入室しました。


 入れ替わりになってしまったか、と思った瞬間、入室の文字が飛び込む。


¥炎えん¥『よおぽん酢』

ポンズ『おれはポンズだ。で、さっきの文はなんだ?』

¥炎えん¥『別に、言葉通りだぜ。ちょっと気をつけた方が良い』


 1人で出歩くも何も、僕は外に出歩かない。当然、そんな私生活を炎が知っているはずもないし、知られたくはない。


ポンズ『もしかして、殺人事件のせいか?』

¥炎えん¥『殺人事件? なんだそりゃ?』


 どうやらこの件ではないらしい。念の為、もう片方のウィンドウでネット記事を開き、URLをチャットに貼り付ける。数分して。


¥炎えん¥『なるほどな、まあ関係ないわ』

 

 関係なかったらしい。近所に住んでいる仲間なので、このことに関しての注意喚起だと思ったのだが……。


ポンズ『それなら、どう言う意味だ?』

¥炎えん¥『意味を言うつもりはとくにないなぁ。ただ、言っておきたかっただけだ』


 よくわからない回答が返ってくる。


¥炎えん¥『まあ、それだけだから。さっきの書き込みたかっただけで、ポンズ入ってきたから挨拶だけ。じゃな』


 ¥炎えん¥さんが退室しました。


 その文字を眺めながら、数分待つ。しかし、炎は帰ってこなかった。どうやら、本当に一人歩きをするな、ということが書き込みたかっただけらしい。ふざけたやつで、意味のないこともよく言うが……まあ、あまり気にしてもしょうがないか。

 どちらにしろ、僕はこの部屋を、出ようとはしないのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ