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【暗殺者達の群像劇】F 不老不死の殺し方  作者: 愛良絵馬
第二章 ホラーストーリーは突然に。
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放課後に買い物

   *水花*

 

 放課後。ウキウキと早瀬さんの机に近づいていく。

 女子高生と放課後に買い物。まるで夢みたいだ。

 あたしが近づくと、早瀬さんはどこかドキッとした様子を見せて、辺りの視線を気にするようなそぶりを見せた。


 意識してみれば、教室内に残った何名かのクラスメイトが、こちらを気にしている気配がする。注目を集めるようなことは何一つ行っていないはずだが、一体何があるのだろう。


「いこっか」


 声をかけると早瀬さんは立ち上がり、そそくさと逃げるように鞄を抱えて教室から出ていった。その後を難なく付いていきながら、少々強引に誘いすぎてしまったかもしれない、と反省する。


「あ、の。……どこにいくの?」


 廊下に出て、昇降口から外に出たところで、ようやく彼女は口を開いてくれた。

 しかし、その疑問は悲しいかな、どこにいく? と質問を質問で返すしかない。早瀬さんは、一瞬驚いた顔をした後、「そっか、転校生……だ」と納得したようにうなづいてくれた。


「じゃあ、駅ビルにいこう」


 反対意見などあるはずもなく、うなづき、横に並んで歩く。

 早瀬さんはなぜか、道の端を歩くあたしに、ぐいっと近づいてくる。はてな、と思っていると、車が通った。

 割と距離があったが、びくっと彼女の身体が震えるのが分かった。


「車怖いの?」

「……あ」


 あたしは早瀬さんと入れ替わり、道路側を歩くことにした。彼女は小さな声で、ありがとうと言う。少し、緊張が緩和されたような雰囲気があった。


「……え、と。水無月さんって、お洋服とか好きなの?」

「ううん、全然っ」

「あ。そうなんだ……」


 会話が途切れる。しまったと思いつつ、他の返しを考えるが、いかんせん、本当に興味がなかった。最近は主に学校の制服で過ごした後、寝る時は下着姿である。

 普通の女子高生といえば、ファッションに興味があるイメージだ。だから、一応勉強しようとは思ったのだけれども、友達と放課後に遊びにいく時は制服だろうし、休日に遊ぶような仲になるのには時間がかかるだろうと判断し、後回しにしてしまっていた。


 気まずい沈黙が訪れる。

 なんてこった。デートに着ていく服に悩んでいるから買い物に行こうという流れだったのに、あたしにはアドバイスできることがないではないか!

 この人、なんで服買いに行こうとか言ってきたんだろう?? と早瀬さんの頭の中は混乱しているに違いない。

 一緒に隣を歩きながら、ポケットに手を突っ込み、フリック操作でアプリを開き、メッセージを打ち始めた。


『ざくろー!』

『駅ビルで買い物するんだけど、どんな服が良いかわからーん! デートってどんな服着ていけば良いの?』

 

 この間も、天気の話題を振るのに余念がないので、返信は当然確認できない。だが、おしゃれ好きの彼ならきっと、この歩行中の間に、最適な答えを送ってくれるに違いない。

 駅ビルに着くと、あたしたちと同じような学生服の少女や、もっと年上そうに見える女性、男女のカップルなどなど、活気と若者に溢れていた。

 どうやら駅前にあるだけあって、賑わっているらしい。早瀬さんに尋ねると、「この辺りで遊ぶってなると、限られるからね」とのことだった。なるほど。


「ちょっと携帯確認するね」


 駅ビルの中に入り、そう言った。端っこへと身を寄せ、ポケットからスマホを取り出す。既読はどちらのメッセージにもついていた。しかし、返信はない。何か取り込み中だったのだろうか。

 一縷の希望がたたれ、肩を落とした瞬間だった。


「おーい!」


 聞き慣れた声に顔をあげると、見慣れた少年が駆け寄ってくるところだった。今日

はザクロお気に入りのレザー調の猫耳パーカーに、機能性を追求したカーゴパンツに、ミリタリーブーツを身につけていた。


「ザクロ! どうしたのっ?」

「どうって、そっちが呼んだんだろ? ていうか、誰とデートするんだよ? 転校2日めでデートって、モテモテか!」

「え? いや」


 話が食い違いすぎているので、自分が送った文面を再確認する。

 ……なるほど、これはあたしが悪いな。放課後に女子高生と買い物って展開に浮かれすぎた。


 まずはザクロに早瀬さんを紹介せねばと振り向く。すると、彼女はその場を離れ、物陰に隠れるようにしてこちらを伺っていた。

 ザクロを連れてそちらに向かうと、一瞬びくりと体を震わせたが、渋々と言った様子で出てきた。


「こちら、早瀬さん。今日はこの子の服を買いに来たんだけど、何買って良いかまるでわからなくてザクロにメッセを送ったの」

「あー……なるほど」


 ザクロは困った顔をしながら、ガリガリと頭をかいた。早瀬さんを観察するように、頭の先からつま先まで視線を送る。

 それから、まっすぐに目を見つめた。しかし、眼鏡の奥の早瀬さんの瞳は、警戒するように逸されている。


「なんか悪かったな、突然来ちまって」

「い、いえ……」

「帰る……と言いたいところなんだが」


 ザクロは言葉をきり、くるりとあたしを見つめた。


「参考までに水花、どんな服を薦めるつもりなんだよ?」

「え? ……うーん……。デートでしょ? ご飯食べにいくっていうことだし……汚れても、目立たない服とか?」


 あいたたた、とザクロが頭を抱えるような動作をする。


「ま、間違ってないでしょ⁉︎ 服汚れちゃったら恥ずかしいし」

「いや、間違ってない。間違ったのはお前に聞いた俺だ」

「むぅ……」


 唇を尖らせるが、ファッションに関してはこだわりの強いザクロの方が一枚も二枚も上手だ。黙るしかない。

 じゃあどうするの? と視線で尋ねる。ザクロは珍しく、飄々としたにやけ面を引っ込めて、真剣な顔をした。


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