檻の中のポーカーフェイス
【第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞】応募作品です。
大きな口をしたキャスターが一枚のフリップを掲げた。
「さて、特集です。
こちらの写真はご存知『ポーカーフェイス』です。今からニ十年前、氷漬けの大地から発見された古代生物『ポーカーフェイス』は、繁殖に成功し、今ではペットとしてお馴染みとなっています。
しかし、最近『ポーカーフェイス』への虐待、闇取引などが問題となっています。今日は『ポーカーフェイス』の名付け親であり、古代生物研究の第一人者であるメイ=ンジャー博士にお越しいただきました。
博士、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします。
彼らの遺伝情報を分析している時は、まさかペットとして普及するなんて思いませんでした。見た目が不気味ですし」
「番組でもご紹介した事がありますが、『ポーカーフェイス』同士、鳴き声で意思疎通を図るんですよね」
「そうです。彼らの間で会話のようなものが成り立っていると考えられます。知能レベルはかなり高いでしょうね」
「そんな『ポーカーフェイス』が今、社会問題となっています。博士によると、一番の問題は、飼育崩壊だという事ですが」
「はい。飼育崩壊した家から『ポーカーフェイス』達が逃げ出し、野生化してしまうのです」
「先日のニュースでも取り上げましたが、野生化した『ポーカーフェイス』の群れが、住宅へ侵入し食料を奪うといった事が相次いでますよね」
「野生化した彼らは凶暴化しており、撫でようと近づくと、棒を使って殴りかかってきたという報告もあがっています」
「棒で!? 知能が発達している分、厄介ですね」
「大切なのは、三つ。法外な価格で買わない事、安易な気持ちで飼わない事、外で見かけても構わない事」
「買わない、飼わない、構わない。ですね」
「それにしても、こんなに人気になるとは思いませんでした。奇妙な見た目ですし、表情が読み取りにくい……『ポーカーフェイス』という名前もそこから付けたわけですが」
「確かにそうですね」
大きな口をしたキャスターがフリップをみつめた。
「我々と違って、目はたった二つだけ。口も鼻も異様に小さく、一つしかないなんて。こんなにも顔のパーツが少ないと、何を考えているのか、全く読み取れないですよね」
「まさに『ポーカーフェイス』です」
キャスターと博士は、七つの瞳を瞬かせ、四つの鼻から息を吐き、耳まで裂けた口をキュッと結んだ。
キャスターの持つ写真には、檻に入れられた『人間』の虚な顔が写っていた。