王都への道②
「なんだ、この腕は!?貴様……くそっ」
領主と名乗る大男は胸ぐらを掴まれて宙に浮いていた。黒薪から伸びるその腕には『呪紋様』がズラリと並び、指先に向かって黒く染まっていた。
「最北の大雪原から来た。といえば分かるか?」
黒薪はゆっくりと、宙に浮く大男に問いかけた。
「バカな!あんな所に人間がいるはずがない!いるのは規格外の魔獣だ!それと……」
なにかを言いかけて口をつむった。それから顔は青ざめ、小刻みに震え出した。
「まさか、その猿が……そうだというのか?」
黒薪はコクリと頷き、手を離した。
大男は地面に伏すと、そうか。と呟き、顔には冷や汗と吹き出した油汗が混ざり顎先から滴っていた。
「我が主よ。無礼をお許しください」
大男は態度をガラリと変え、さっきまで猿と呼んでいた者に深く、頭を下げた。
いつのまにか先生はウサギを食べ終わり、石器のナイフを磨いていた。黒い石は鋭く尖り、月の光を反射して美しく見える。
「ウホ」
先生は磨いたナイフを満足そうに見つめ、革製のケースにしまった。
「……主はなんと?」と黒薪の顔を覗き込む。
少し間を空けて答えた。
「領主ならば土地に詳しいはず、王都まで案内せよ。だそうだ」本当は、ナイフが綺麗に磨けたと喜んでいただけだが、内緒にした。
「もちろん、お供しましょう」
大男が近くにいれば族や、妙な連中に狙われることも減るだろう。なにせ先生は目立つ。
こうして再び王都へと歩み始めた。