王都への道①
身支度を済ませた黒薪は長い年月を過ごした大雪原の洞窟に別れを告げた。
「ウホホ」
先生は王都への道案内のために着いてきてくれることになった。もちろん頭にかぶった頭蓋骨や、重要なところのみを葉っぱで隠した服装はそのままだ。
「さぁ、王都へ向けて出発しよう」
黒薪は勇者試験の会場となる王都へ向けて一歩を踏み出した。
ー半日後ー
かなり南下したが王都への道のりはまだまだ遠い。雪もまだ少し残っている。
「暗くなってきた。先生、今日はここで野宿しましょう」
ウホ。と軽く頷くと素早く草木を集めて、ほんの数分で簡易テントを作り上げてしまった。
ここまで来る途中に捕らえた雪ウサギを二人は慣れた手つきで捌いて木の棒に吊るし、火にかけた。
「王都に行くのは久しぶりだ。あの頃はまだ10代だったから、もう50年近くも前の話になるか」
焼き色がついてきたウサギを眺めながら黒薪はふと昔のことを思い出した。
森の中、木々の間から月が丸く輝いている。
「おうおう、俺様の縄張りで野宿とはいい度胸だ!」
横目で振り返るとそこにはツノが折れて錆びた兜を頭にのせた大男が身の丈ほどの金棒を肩に担いでいた。
「族か?」黒薪は静かに、怒らせないようゆっくりとに聞いた。もちろん火にかけたウサギはきちんと見ている。
「族ではない!俺様は領主だ!この土地を統治している!」大男は怒りを眉間の皺と尖らせた目で表現した。
「それはすまなかった。しかし、もう暗い。明日、夜明けには出発するからそれまでは許してくれないか?」
「黙れ老いぼれ!金だ!金がなければ許されない!」
黒薪は困った。なにせ銭など何十年も触れてはいない。どうしたものか。
「おい貴様!何をやっている!!」
大男の太い指が差した先には、よく焼けたウサギ肉をもぐもぐと頬張る先生の姿があった。
「ウホホッウホホッ」
うむ。美味しそうだ。あぐらをかきながら喜んで手を叩いている。
「ちっ、なんだあの猿は!」
どうやら動物の類と勘違いしているらしい。それからくるりと向きなおり「金がないなら奴隷として売り飛ばしてやる!来い!」と勢いよく胸ぐらを掴まれ老体は軽々と宙に浮いた。
「なんだ。やるのか?小童」
その時、黒薪の体からドス黒い煙が勢いよく立ち昇った。
「先に手を上げたのはお前だ。穏便に済まそうと思ったが覚悟しろ」
先ほどまでの優しい口調の老人とは思えない迫力に驚いた大男は、いつの間にか掴んだ指を離して二歩下がっていた。