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いざ、王都へ!
「齢60にして、ついに……ついに上限に到達したぞ!!」
雪が降り積もった人気のない森の奥深く。その声は、久しく透き通った青空に響き渡った。
「先生!見てください!」
黒薪はしわしわの指で自分のステータスが表示された経験書のページを広げてみせた。
「ウホウホ」
先生と呼ばれる"その者"はヤギの頭蓋骨を深々と頭にかぶっており、素顔を隠している。さらに麻紐で縫った自然の植物を体に纏った野生的な姿は先住民の習わしだ。そして彼は"ウホ"しか話せない。
「今年は受験するぞ!『勇者試験』!」
ド、ド、ド、ド!興奮したのか、先生はドラミングを始めた。羽を休めていた渡鳥の雪鳥たちは驚いて飛び立ち、そのまま南の方角へと進路を進めた。
白く長い髭と髪を慣れた手つきで結う。
「この極めた『闇属性』の力で勇者になる!」黒薪は両手の拳を天高く突き上げた。
先住民のドラミングはこれから始まる勇者……否、魔王の門出を大いに祝福した。
仕事の合間に短い連作を書いていきます