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翌る日、リゼットは何時も通りに馬車に乗り学院に行った。教室に入ると既に来ていたカトリーナに声を掛けられる。
「リゼット様、おはようございます」
「カトリーナ様、おはようございます」
「あら、本日のチョーカーも素敵ですわぁ」
彼女の隣の席に座ると、さっそく昨日クロヴィスから貰ったチョーカーを褒めて貰った。その事にリゼットは上機嫌になる。
「昨日あの後、クロヴィス様に、あのお店で買って貰ったんです」
頬が緩むのを抑えられず、だらし無い顔になってしまう。そして何時もにも増して如何にクロヴィスが優しくて素敵で格好良いかを力説する。
「朝から胸焼けがしそうだな」
二人で会話をしていると、不意に背後から声を掛けられた。
「あら、レンブラント様。おはようございます」
「レンブラント様、おはようございます」
明るい金髪の背の高い、渋い声が特徴的な彼の名はレンブラントだ。学友でありこの国の第三王子であり、クロヴィスの甥でもある。彼とは同い年だが、リゼットは彼の叔母という立場になる。
「叔父上も大概だな。甘やかし過ぎだろう」
呆れ顔で見られて、リゼットはしおれた花の様にしゅんとなる。
この国には現在三人の王子がいるが、末の彼はその中でもしっかり者で厳格な人物だ。事あるごとに色々と言われるが、決して悪い人ではない。
「別に良いんじゃない?自分の妻を甘やかして何が悪いのか僕には分からないけど」
欠伸をしながらリゼットの前の席に座る彼は、侯爵令息のラファエル・モーリア。彼もリゼットの友人の一人である。茶髪で中肉中背の、かなりマイペースな性格だ。
「叔父上の場合、あれは度を越している。リゼットも公爵夫人なのだから、少しは自覚をもって……」
「はい……」
朝から説教が始まりそうだ……一気にリゼットの気分は駄々下がった。
◆◆◆
「ユリウス」
朝、何時も通り登城したクロヴィスは、執務室へ行く前に騎士団の稽古場へと向かった。
「お、珍しいな。お前自らこんな場所に来るなんて」
「昨日の事で言わなくちゃいけない事があってね」
リゼットは理解していなかったが、あの場にいた人間は絶対勘違いをしたに違いない。そう思い態々、ユリウスに釘を刺しに来たのだ。
「何だ」
「これ以上余計な事を言わない様にと思ってね」
社交界では、良くも悪くも噂はあっという間広まってしまう。多分もう手遅れかも知れないが、少しでも被害を食い止めたい。
「君だって嫌だろう?僕と君が恋仲にあるなんて噂が広がれば、大好きな女性達からも相手にされなくなるよ」
いや寧ろその方が健全かも知れない。彼の妻はどう思うかは知らないが、あれだけ夜な夜な色んな女と遊び歩いているのだ。まだ男との噂一つくらいの方が、可愛いと言えるだろう。ただ、巻き添いを食うのだけはごめんだ。
「そんな事になったら、俺は生きていけない‼︎」
絶望に打ちひしがれるユリウスに、クロヴィスはため息を吐いた。
「分かったなら、頼むよ」
友人は選ばないといけないと、思った今日この頃だ。