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店の中に入ると沢山の装飾品が目に入った。ネックレスに指輪、ブレスレットなどが棚の上に所狭しと並べられいる。
「少し変わったデザインだろう?今令嬢達の間で流行っているらしいよ。全て一点ものらしくてね」
流行っているとあって、店の中は貴族の令嬢達で賑わっていた。チラホラと男性の姿もある。
ゆっくりと歩きながら店内を見ていく。確かに風変わりなデザインばかりだが、どれも可愛らしい。流行り物に疎いリゼットだが、これは興味をそそられる。キラキラと輝く宝石に目が釘付けとなった。
「あら、リゼット様!」
暫く二人で見て回っていると少し離れた場所から声を掛けられた。
「彼女は確か、マリエット伯爵の所の令嬢の……」
「カトリーナ様です」
「あぁ、そうだったね。僕は此処で待ってるから、行っておいで」
そう言われたリゼットは、クロヴィスから離れ彼女の元へ向かった。
◆◆◆
クロヴィスは暇を持て余し、棚の装飾品を適当に眺めていた。リゼットはと言うと、友人に囲まれ談笑している。
リゼットと一緒に外出する機会はそう多くはない。だからクロヴィスは彼女の交友関係は余り知らない。たまに夜会など夫婦揃って出席する時に見掛ける程度だ。今リゼットと話しているカトリーナは以前挨拶をした事がある。だが、他の友人等は見掛けた事はない。しかもだ。カトリーナ意外の友人は全員男だ。
旦那の立場からした欲目もあるだろうがリゼットは、かなり可愛い。小柄で細身、色白で顔も整っている。大きな琥珀色の瞳に銀色の絹の様な髪。所謂美少女だ。性格も穏やかで少し頑固な所もあるが、そこもまた可愛い。兎に角、モテる要素しかないとクロヴィスは思っている。
クロヴィスは彼女を囲んでいる男等を見ながら、顔を顰めた。友人を装っているのだろうが、あれは絶対に下心があるに決まっている。
「クロヴィス、お前こんなところで何してるんだ」
不毛な事を考え一人悶々としていると、不意に後ろから声を掛けられる。振り返ると、良く見知った青年が眉を上げ立っていた。
彼はユリウス・ジアン。クロヴィスの昔からの友人だ。彼は侯爵令息であり、騎士団に所属している。その為もあり体格がいい。
一見すると如何にも好青年の印象だが、中身はどうしようも無い男だ。妻がいるにもかかわらず女好きで、夜な夜な遊び歩いている。
「お前がこんな所に来るなんて、意外だな」
余程意外だったのか、目を丸くしているが、次の瞬間にはニヤニヤとし始めた。
「何だ、もしかして女への贈り物か」
「まあ、遠からずって所かな。君は……」
揶揄われたくないので、適当に話を流す。
彼の少し後ろに、露出が多めなドレスを着た女性がいる。横顔が見えるが、この前見掛けた女とは違う。
「大概にしないと、何時か背中から刺されるかもね」
「なんだそれは。まあでも、良い女に刺されて死ねるなら男冥利に尽きるかもな」
そう言いながら笑うが、冗談半分本気半分というように聞こえた。付き合いは長いが、彼の思考回路を理解する事はクロヴィスには到底出来そうにない。
「で、お前の溺愛する奥さんは随分と人気者だな」
ユリウスはリゼットの方へ視線を向けた。未だにニヤニヤしている。
本当にいい性格をしている……。
「まあ、僕の妻は世界で一番可愛いからね。困った事に、悪い虫が次から次に寄ってくるんだよ」
「お前は相変わらず恥ずかしげも無く、よくそんな台詞を吐けるな」
呆れ顔で引いているユリウスを尻目に、クロヴィスは鼻で笑った。
「女たらしの君に言われたく無いよ。僕のは本心だけど、どうせ君は口先だけの甘い言葉を囁いて女性をたらし込んでいるんだろう?」
「そんな訳ないだろう。俺は回りくどいのは嫌いなんだ。俺はな男らしく「お前を気に入った、抱きたい!」とハッキリ言うんだよ」
自慢げに話し、豪快にユリウスは笑う。
何という品性の欠片もない事を宣うものだと、呆気に取られる。そして思いの外彼の声は大きかった様で、店の中に響いていた。無論リゼットの耳にも届いたらしく、目を見開いてこちらを見ている。
「……最悪だ」
周囲からヒソヒソとされているのが分かる。女性が多いので余計に視線が痛い。きっとユリウスと同類だと思われているに違いない。それに何よりリゼットに変な誤解をされていそうだ……。
「じゃあな、クロヴィス」
気不味い空気の中、もう用は済んだとばかりに彼は女を連れて行ってしまう。このタイミングで帰るとは、嫌がらせ以外の何ものでもない。
「流石ユリウス様。男らしくて素敵」
連れの女性はそう言いながら、ユリウスにしなだれかかり二人は店を出て行った。