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温かい……酷く安心して心地が良い。割れそうな程頭が痛かったのが嘘の様だ……。


「う、ん……」


「リゼット、起きたの?」


薄ら目を開くと、そこにはクロヴィスがいた。リゼットを腕枕しながら、本を読んでいる。明るい窓の外が視界に入り、まだ昼間だと言う事が分かった。


「クロヴィス様……どうして。お仕事は……」


不思議そうに瞬きをしながら見遣ると、彼は苦笑して頭を撫でてきた。


「今朝登城して、最低限の仕事を済ませてから直ぐに帰って来たんだ。リゼットが余りに辛そうだったから、心配でね」


「……私の所為で、ごめんなさい」


クロヴィスに迷惑を掛けてしまったと、リゼットは項垂れた。これでは子供扱いされても文句は言えない……。


「君の所為じゃないよ。僕がそうしたかったんだ。リゼットはもう幼い子供ではないから、心配はいらないと分かってるんだ。でも、気になってしまって仕事が手に付かなくて……僕も大概だよね」


軽く笑ってそう言うと、本を閉じ枕元の棚に置いた。


「気分はどう?」


「お薬飲んで随分眠ったので、もう大丈夫です」


「それなら良かった」


クロヴィスは起き上がるとベッドから降りた。リゼットは名残惜しく感じて手を伸ばすが、直ぐに引っ込める。これ以上忙しい彼の手を煩わせてはいけない。


「リゼット、気分が良くなったら少し出掛けてみない?」


予想外の彼からの提案に目を丸くする。てっきりまた仕事に戻るかと思った。


「でも、クロヴィス様……お仕事は」


「折角だし、今日はもうこのまま休むよ。たまには奥さん孝行でもしないとね」


クロヴィスに促されるままリゼットは出掛ける準備を始めた。外出用の動き易いドレスに着替える。二人で出掛けるなんて久々だ。二日酔いなんて嘘の様に、身体も軽く気分が良い。

頭から爪先まで、シーラに確りと身支度を整えて貰う。久々という事もあり気合いが入る。

長い髪は編み込んで両サイドに分けて下でリボンで結び、少し背伸びをした赤いドレスに黒の靴を合わせた。姿見の前で一回転をし全身を確認して、微笑む。完璧だ。


クロヴィス様、なんて言ってくれるかなー。




「まるでお人形みたいだね。可愛いよ」


「⁉︎」


準備万端でクロヴィスの待つロビーまで行くと、そう言われた。リゼットは愕然とする。


お人形みたい……その言葉に酷く落ち込んだ。今日は大人の女性をイメージしたつもりだった。昔は「お人形みたいで可愛い」と言われて喜んでいたが、今は「まだまだ、お子様だね」と言われている様で悲しくなる。


「リゼット?」


悪気はないだろうクロヴィスを尻目に、リゼットは項垂れながら馬車に乗り込もうとするが、立ち止まる。するとヒョイと身体が宙に浮かび、気付けば馬車の中にいた。クロヴィスがリゼットを乗せてくれたのだ。

小柄なリゼットには馬車に一人で乗る事すら難しい。ますます自信を喪失した。


「どうかしたの?」


「何でも、ありません……」




◆◆◆



準備をしてロビーに現れたリゼットは、何時もと違っていた。普段はフリルやレースが沢山施された愛らしい色や形のドレスを着ているが、今日は真っ赤なドレスに黒い靴を履いていた。少し大人びたデザインのドレスは胸元が少しだけ開いており、ここ数年で育ってきた膨よかな胸がチラリと見えた。リゼットは小柄で身長も低いが、胸は意外とあったりする。


「まるでお人形みたいだね。可愛いよ」


なんて何時も通りお決まりの台詞を吐いたが、内心落ち着かなかった。見た目は明らかに少女なのに、何処か色香を感じさせ、少し気恥ずかしくなる。


クロヴィスは向かい側に座るリゼットを盗み見た。彼女は馬車に乗ってから、黙り込んだままだ。出掛けると話した時は上機嫌に見えたのに、今はどう見ても沈んでいる……だが、理由が分からない。一体この短時間の間に何があったと言うのか……クロヴィスは眉根を寄せた。


「これから行く場所だけど、今若い貴族令嬢達の間で流行っているお店らしくてね。きっとリゼットも気に入ると思うよ」


努めて明るく話すと、興味があるのかチラリとクロヴィスを覗き見るリゼットに、思わず頬が緩んだ。


「ほら、着いたよ」


暫く馬車を走らせ、街中へと入ると程なくして目的地に到着した。




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